堪忍袋
一人暮らしの彼の部屋で、今日は初のおうちデート。かなりドキドキ。
待ってたよ。さあ上がって。
ドアを開けて私を招き入れてくれる彼。今日もめっちゃカッコイイ。会社のアイドル的存在で仕事も出来るし頭もいい。それでとっても優しいの。居並ぶライバル達を蹴り飛ばし、やっと捕まえた私の彼氏。
さえこちゃんが好きな源氏巻にイチゴケーキ。
を用意したんだけど、ごめん、お茶を買って来るの忘れちゃった。甘いものにジュースじゃおかしいから、今直ぐコンビニで買って来るね。
そう言うと、彼はサッと部屋を出て行った。
別にジュースでも構わないのに。だけどそうやって気を遣ってくれるところがステキ過ぎる!
ソファに座って彼を待っていると、何処からかひそひそと囁く声が聞こえてきた。どうも隣の部屋からみたい。怖い!誰なの?
そう思いながらも、その部屋に引き寄せられる私。そしてひそひそ声が漏れているドアをそうっと開けてみると、そこには口を括られぷくぷくに膨らんだレジ袋の山があり、ひそひそ声は袋の中から聞こえている。私は恐る恐る手前のケイコと書いてある袋を摘み上げ口を開いてみた。すると、
毎回毎回、デートのときに食べ過ぎなんだよ。酒もガブガブ飲むし。人の奢りだからって、いやしーんだよ!
彼の怒鳴り声が飛び出してきた。なるほど彼は王様の耳はロバの耳のお話しみたいに、レジ袋に言いたくても言えない言葉を叫んで、日頃の鬱憤をはらしてたんだ。それにしてもケイコって誰よ!大食いオンナとデートなんかして!それに良く見るとオンナの名前の袋ばっかじゃん。ふと足元を見ると『さえこ』と書いた袋があった。口を開けてみると
おねだりばっかりしやがって。俺はお前の財布じゃねえんだよ。バカオンナ!
なんだコイツ!買ってくれるときは笑顔で『いいよ。好きなの選んで』とか言ってたくせに。
頭にきた私は、空になった『さえこ』と書いてある袋に向かって
お前なんか単なる財布としか思ってないんだよ。財布なんだから、黙って金払ってりゃいいんだよ。カッコつけやがって!このタコ助!
そう怒鳴ると、私はレジ袋の口をキュッと縛った。
(了)