北斗七星
お待ちどうさま。カツカレー二つですね。
私と彼の前に、アツアツのカツカレーが置かれた。
噂には聞いていたけどかなりの大盛りね。
私がそう言うと、
だけど、めちゃくちゃ美味そう!いただきます!
彼はそう言って、勢いよくカツカレーにかぶり付いた。うめえ、美味えを連発する彼に、私は
お店の人に聞こえないよう小さな声で
全部食べれないかも‥。
と囁くと、彼が
もし全部食べられないなら、オレが食べてあげようか?
と言って皿を差し出した。私は自分のお皿から半分くらい、彼のお皿に取り分けた。そんなにいいの?と言いつつも、嬉しそうにカレーを食べる彼。
ご馳走様!
あれ?お前まだ食べてるの?
うん。このカレー、食べても食べてもなくならない感じがする。
私は汗を拭き拭き、カレーを口にはこびながらそう言った。
あはは。そんな馬鹿な。それじゃまるで、トルストイの七つの星の柄杓みたいじゃん。
七つの星?
天文が好きな彼は、私に七つの星の話をしてくれた。
女の子の優しさに報いた神は、水が湧き出る柄杓を女の子に授けるんだよ。だからさ、オレにカレーを分けてくれたお前の優しさに神様が報いてくれて、カレーが湧き出る皿を授けてくれたとか?
彼はそういうと、いたずらっ子みたいに、ニヤリと笑った。
結局私は食べきれず、残りは彼がペロリと平らげた。
ご馳走様でした。
そう言って店を出た。外は満天の星空。
今夜は星がめっちゃよく見えるな。ほら、あれが北斗七星だよ。
そう言って、彼は空を指差した。彼の指差す方向に、北斗七星が夜空に大きく横たわっている。
あの北斗七星から、彼と一緒に過ごす時間が
絶えることなく湧き出ていてくれたらいいのに。
と、私は隣で星空を見つめる彼を見つめながら、そんなことを思っていた。
(了)