福引
私の仕事は福引キャプテン。いろんな商店街に頼まれて、福引をコーディネートする。今日は下町のこじんまりとした商店街にやってきた。
小さなチケット10枚で一回。トップバッターは、80代くらいのお爺さん。アシスタントがチケットを数え、赤のマジックで10とチケットに走り書いた。
悪いが、特等の自転車はいただいて行くよ。
お爺さんは気合い充分だ。
白玉はスポンサーの信用金庫さんからいただいたポケットティッシュ。他にも各お店さんからいただいた商品が並んでいる。
よし!
カラン‥
5等白玉賞!おめでとうございます。
チッ!白か!よーし次こそは!
結局、お爺さんは白玉10個だった。
姉さん、やっぱ欲かくとダメだね。ツキはまた来年までとっておくよ。暑いのにご苦労様。
そう言ってお爺さんは、ティッシュを10個握りしめ、サッと会場を後にした。さすが下町。粋なおじいちゃんが居るもんだわ!と感心していたら、アシスタントが赤で1と書かれたチケットを差し出す。しかし目の前には誰もいない。キョロキョロしてると
おばちゃん、ここー。
下に目をやると、小さな男の子が立っていた。慌ててアシスタントが踏み台を持ってくる。
カラン
五等賞のポケットティッシュと、はい、おまけのオレンジジュースです。
わたしはにっこり笑って、男の子に商品を手渡した。
わー!ありがとう。オレ、ジュース超好き!
男の子は私にバイバイをしながら、ママのところに走って行った。
素直でかわいい。ジュース一本でもこんなに喜んでもらえた。やっぱり子供には、ジュースのおまけをすることにしてよかった。
私は次々とやってくる福引客を捌き続け、気がついたらもう夕方になっていた。商店街の向こうに沈む夕日を眺めながら、この地蔵中央商店街の素晴らしいお客様との楽しいひとときをかみしめた。今日は本当に気持ち良く仕事が出来た。
片付けをしながら、明日の準備をしていると
ちょっと待って!
向こうから、おばさんが走って来た。
まだ2分前じゃないの!閉めるの早すぎ!
すみません。何回ですか?
12回!
おばさんは私にチケットを突き出した。
その乱暴な振る舞いにムッとしながらも、そこは私、福引キャプテン。爽やかな笑顔で
盛り上げる。
ではどうぞ!
えい!
カラン。白玉だった。
何よ!もう充分白玉出ただろうと思って、
終わりの時間ギリギリに来たのに。もしかして、白玉しか入ってないんじゃないの?
これポケットティッシュじゃない。隣りの商店街は末等でも箱ティッシュだったわよ!
うわー!最後の最後でなんなのこの人。今日はまだ特等が出てないけど、こういう人には当たって欲しくないなぁ。神様どうか、この人に5等の雨を降らせてください。
おばさんの高圧的な態度に、私は思わず神様に、福引キャプテンらしからぬお願いをしてしまった。
カラン、カラン、カラン
おばさんは一回ごとに願かけしながら、ガラポンをじっくり回していく。そして私も、その都度ハズレますようにと願掛けした。
さあ!ラストでーす。本日のオーラスとなります。ハイどうぞ!
ここまで5等11本。おばさんは最後の一回を
ゆっくりまわす。金色が出たら特等の電動自転車だ。
カラン‥
5等の白玉だった。私は心の中でガッツポーズをして、12個のポケットティッシュをレジ袋に入れた。その間おばさんは、散々悪態を吐いていたが、適当にあしらった。
お疲れ様。
振り向くと、商店会長がたっていた。彼はガラポンのについてるキャップを外し、ポケットから金色の玉をだして、カラン。ガラポンの
中に入れた。そして私の方に振り向き、
やっぱりさ、ああいう人には、特等引いてもらいたくないからね。今日特等入れておかなくて良かった。
そう言って、ニヤリと笑った。
了