土鈴
私以外は誰もいないのに、和室からヒソヒソ話し声が聞こえる。少しだけ襖を開けて、そっと中を覗いてみた。
ここはどこだ?
あ!私は思わず声を上げそうになった。声の主は、伯母がコレクションしていた土鈴たちだったのだ。
寝て起きたら、知らない和室の中。
しかもなに?この不安定な棚?落ちたら割れちゃうじゃない!
信楽焼の壺の形をした双子の土鈴が、交互に甲高い声で文句を言った。
もう少し声を小さく。気付かれたら大変よ。
おかっぱ頭の博多人形の土鈴が注意した。
おばさん、私たちを捨てちゃったのかな?
そんなはずはないよ。僕らのこと、毎日
乾いた布で拭いてくれてたじゃない。
天狗の土鈴と河童の土鈴が語り合う。
でもさ、最近は全然やってくれてなかったよね。
それに、新しい子も入ってこなかった。私で最後よ。
なるほど。あの踊り子の土鈴が最後だったんだ。私は旅が好きで、面白おかしく土産話しをする伯母の姿を思い出した。
私が襖の隙間から見ているのに気が付かず、
彼らは伯母との思い出話しを語り始めた。
そこには、私の知らない伯母の姿があった。
土鈴たちは伯母の大切なコレクション。毎日手入れする際に、人には言えないことなどが、無意識に口から出たときもあったのか。
おばさん、何してんのかな?おばさーん
私の頭のリボン、色褪せて来たから取り替えて欲しいな。おばさーん。
素焼きのまんまるな土鈴と、お洒落さんの
九谷焼の土鈴が、悲しげな声で伯母を呼んだ。二人の声を聞いていたら、私の目からじわっと涙が溢れてきた。
伯母は昨年の秋に亡くなっていたのだ。病気で身体が不自由になった彼女は、亡くなる数年前からホームに入っていた。伯母と土鈴たちが過ごした自宅は、長らく空き家になっていたが、後を執る者がいないので、取り壊されることになり、私は形見にこの土鈴たちを引き取ったのだ。
もしかしたら、明日おばさん迎えに来てくれるかも。
いちばん大きな土鈴が叫けび
他の土鈴たちも、そうだそうだと嬉しそうな
声を上げた。
明日は盆の入り。伯母の新盆だ。私はこの土鈴たちを違い棚から下ろして、盆飾りのしてある仏壇の周りに置いてあげようと思ったのだった。
了
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