リトル・フォレストを観た感想
舞台は東北地方の小さな集落、小森。
主人公「いち子」が、都会から小森の実家に戻ってきて生活する様子を、四季を通じて淡々と描かれていた。
大きなテーマの一つが、「食」。
置かれた環境の中で、試行錯誤して作物を育て、適した収穫時期と方法を使い、時には山菜や実を見極めて採る。
季節の作物と、味を楽しむための調理法。
長い冬を越えれるような住居の構造や、食物の保存方法。
食卓の一皿が出来上がるまでの過程や労力も描かれていた。
総じてめっちゃおいしそう。
そして、食と同じくらい自分にとって響いたテーマだったのが、「生きる場所」について。
その土地に住む意味は、そこで為していきたいことはなにか。
改めて考え直すきっかけになるような場面が多くあった。詳細は下記の印象に残った場面にて。
そして、小森の人々の生活・自然・動物の知識や解像度がとても高い気がした。知識や解像度が「生きるため」に直結しているからこそ身に付いたものなのかもしれない。
映画の説明欄には、「シンプルな暮らしを通じ、自分の生き方を見つめなおしていく。」とあるが、若干語弊のある書き方だと思う。
デジタルノイズがない田舎生活=シンプルではない。
家賃や光熱費さえ払っていれば成り立つ生活ではなく、自らの手と知識を使う生活は、シンプルとは程遠い作業の繰り返しであり、都会とは質の違う煩雑さだと思う。
印象に残った場面
夏編
「なんにもしたことないくせに、なんでも知ってるつもりで」
いち子と歳の近い友人、ゆう太。
自分と同じように一度は地元を離れたが、戻ってきた理由を彼に尋ねた時に出た言葉。
自分が経験したことではなく、苦労して産み出したものでもない、借り物のからっぽの言葉に嫌気がさしたと言うゆう太。
これは自分にも大いに当てはまることだ。
誰かの言葉を借りただけの言葉。
それをどういう意味で使っているのか、そこに自分の感情や考えはあるのか。それを説明できなければ、考えることを放棄したからっぽの言葉になる。戒め。
トマトのハウスを建てない理由
ハウスを建てれば、トマトの収穫が安定する。しかし、それをためらういち子。
建ててしまえば、ここにずっといてしまう。それが悪いことじゃないことはわかっている、わかってはいるが、ここに住み続けることに対して、心のどこかで常に焦燥感があったのではないか。
人生と向き合うために戻る、行き場所を失くして戻る。
そんな場所もあっていいと個人的には思う。ただ、そこに居続けることへの不安は常にある。
「選ぶ」ことと、「選ばざるを得なかった」ことは似てるようで全く違う。
秋編
「いち子ちゃんが産まれるまえから、ずーっと、ずーっとだ。」
自分が地元を離れていた間も、田畑の収穫や山菜採りはしていたのか、友人のおばあちゃんに尋ねたいち子。それに返答するおばあちゃんの言葉。
人の営みは続く。四季は毎年めぐるが、全く同じ年はない。受け継がれてきた方法や慣習。それに伴う膨大な作業量と想像力。日々続けることの偉大さが垣間見えた気がする。
葉物の筋取り
ズボラだと思っていた母の、ひと手間かかった料理に気づく場面。
親の心子知らず。あのころ気づかなかったことが、自分が大人になったり、立場が変わった時に気づくものだと思った。
母の行動は気づいてほしくて、感謝してほしくてしているわけではない。たくさんの思いやりから来る行動のひとつだ。それに気づく日が来るということに、報われた気がした。
冬編
「本当は逃げてるんじゃないの」
どっちつかずないち子に対する、ゆう太の言葉。
ゆう太は正論野郎だから嫌い。
誰もが勇気をだして一歩踏み出せると思うな!迷うことが悪いことみたいに言うな!!! 大きな決断には痛みだって伴うし、消耗もする。悩む時間を、「逃げ」とは言いたくない。
ただ、2人の関係性があるからこそ、あえてオブラートに包まず言った言葉だと思う。
春編
「人のずるいところがわかるのは、自分でも同じ心があるからど」
いち子に仕事の愚痴を言いまくる、友人のきっこ。そんな場面をきっこの祖父に見られてしまい、一喝を受ける場面。
ただただ、ドキッとした。画面を通した自分に向かって言われた?
旅立ついち子と、見送る人々
小森を出ることを決めたいち子。
いち子にとっての小森は、逃げて帰ってくる場所ではなく、前向きに自分で選択した場所でありたかったのだろう。
もっとシンプルな考えの人もいる。ここに生まれたから、ここで長く生活しているから住み続ける。友人のきっこのように、そういう人にとっては、いち子の考えや行動は鼻につくかもしれない。
ここでの生活は、本当に熟考して選択したことなの?と言われているように感じるからではないかと思う。
でも、いち子の行動は、誰かの生き方について否定したり、疑問をもつためのものではない。
ただ、自分と向き合うため。自分に正直でいるため。その土地で生きていく意味を見つけたいため。視野を広げて、様々な経験を通した上で、小森で生きることを選びたかったからではないかと思う。
このまま小森で生きることもできたが、それが許せない自分もいた。
それを行動に移せる、強い人だと思う。
全編通しての細々した疑問や感想
いち子の家の台所、すごく良い。正面に窓があって外の景色が見える、日が差す台所で料理したい。というか、思えば両親の実家はどっちもそういう作りだ。昔はそういう台所が多かった?
合鴨農法の最後は、必ず鴨を食べる?
瀬戸内で生まれ育った自分には、雪にほぼ縁がない。雪との付き合い方が新鮮だった。寒さも大切な調味料のひとつだとわかった。
砂糖醤油の納豆餅、絶対するぞ。まず杵と臼を使って餅つきしたい。
卵焼きにハチミツが隠し味ってどういうこと? 絶対試す。
魚捌けたり、料理によって最適な野菜の切り方を覚えたい。
栗の渋皮煮、したすぎる。
クリスマスケーキの発想力は鬼。
ハット、お餅みたいで食べてみたい。
即席ラディッシュしたい。
温水さんの方言は自然すぎて自然。
余談
映像と同時に、音楽もとても心地よかった。
宮内優里さんの劇中音楽は、雨の日に読書しているような、心が穏やかになるような、そんな音色だった。
余談だが、一度haruka nakamura氏のライブで共演されているのを聴きに行ったことがある。心地よいとても良い時間だったので、ぜひまた聴きに行きたい。
そして、全ての季節の主題歌を歌った、FLOWER FLOWER。
全曲好きになったし、映画を通してこのバンドを知れてよかった。