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ガスト会議

太陽が沈み、明るさを失ったこの街には雨が降っていた。

誰も知らなかった。

なぜ僕が今雨の中自転車を漕いでいるかって?
そんなの決まってる。
友達と会議をするためだ。

そんな時は決まって近くのファミリーレストラン、

ガスト

で会議をする。
僕が召集をかけたらすぐ友達が集まるようになっている。

今日のメンバーは、けいいち、かなめ、しゅんた、こうやと僕だ。

雨の日にもかかわらず、僕は緊急で友達を召集した。

このガスト会議はなぜかすごかった。この会議で決まったことの大半は全てその通りになっていた。といっても学校のことだけだが。だから僕たちなら、今回のことも解決できるのではないか。

どうやらこの町で殺人事件が起きたらしい。

しかも被害者は僕らと同じクラス、そしていつも遊んでいた友達だった。

いまだに犯人は見つかっていないらしい。
このままではまずい、どうにか僕らで解決できないか。 

殺されたクラスメイトはとってもいいやつだった。
優しいやつで、クラスの誰1人として彼を嫌う人はいなかった、
よくこのガストでの会議にもくるやつだったのに、なんで…。

僕がガストにつく頃にはみんなが集まっていた。

テスト前だが、勉強をしているどころではない。
クラスメイトが殺害されたということもあり、みんなの表情は重かった。

ガストに入り、何名様ですか?と聞かれ、5人と答えた。
ずぶ濡れの僕らが変だったのか、
少し不思議そうな顔をしてテーブル席に案内してくれた。

いつも座る広めのテーブルに座り、とりあえずドリンクバーを頼んだ。かなめはお小遣いを多くもらっているので、マヨコーンピザを頼んでいた。

「おい、誰が犯人なんだよ」
「知るわけないだろ?」

まさか、クラスメイトが殺されるなんて…。

クラスメイトが殺された。
しかも犯人はまだ見つかっていない。

おぞましい出来事だ。

こうやはとても不安そうな顔をしている。

「なあ、早く帰った方が良くないか?」

「まだ犯人は捕まっていないらしい。
 友達の仇だぞ?俺らで捕まえてみようぜ」

けいいちがそういうと、みんなが

は?

と言った。

いやいやいや、なんで僕らがそんなことをするんだ?
というやつもいれば、
ちょっと楽しそうだな。
というやつもいた。

結局好奇心に負けて、みんなで犯人探しをすることになった。

「まず、あいつは誰からも恨まれるようなことはしていない。少なくともクラスメイトは違うだろう」

まあそうだな。確かにクラスメイトであいつを殺す理由がある奴なんかいないだろう。

けいいちがそういうと、しゅんたがグラスを置いてこう言った。

「じゃあもう僕らで探せなくない?
 犯人の目星がもうつかないじゃないか。
 クラスメイトが犯人ならまだしも、あいつを殺すような
 やつはクラスにいない。となると、犯人はこの町の誰か
 もわからないやつだろう?そんな中からどうやって探す
 んだよ」

たしかに…。
それなら警察の方が先に見つけてしまいそうだ。
それてもけいいちは正義感が強いやつだからか、

「なら警察よりも先に見つけてやろうぜ」

無理だよ〜とこうやとしゅんたは言うが、僕たちはとてもやる気になっていた。

まずは今回の事件の整理だ。

友達が殺された。
殺された場所は神社の裏だ。
遺体は神社の中に隠されていた。

第一発見者は朝早くから毎日お参りをしている人だった。
いつも通りお参りをしている時に何か変なものを見つけた。よく見たら遺体だったらしい。

すぐに警察を呼んだ。

殺されたのはどうやら見つかる前日の夕方らしい。

その神社から少し離れた公園には、彼のものと見られる自転車が置いてあった。学校から帰った後遊びに行ったらしく、ちょうどその時遊んでいたのが、

けいいち、かなめ、しゅんた、こうやだった。

最後に遊んでいたのは彼らだった。

「殺される直前まで仲良く遊んでたのにな…」

かなめがそういうと、みんなはショックで泣きそうになた…。

みんなで遊んで解散した後、犯人に殺されたらしい…。

みんなと遊んだ後、彼は1人残ってブランコに乗っていた。その後、何者かに連れられ、神社へ行き、首を絞められて殺された。
警察によれば、20〜30歳の男の犯行と見ているらしい。

その後、けいいちたちの家にも電話がかかってくる。
母親がその話を聞き、泣きながら抱きしめられたらしい。

翌朝、全校集会が行われ、しばらくの間集団下校することになった。

そこで今日、集まることになった。

何も手がかりなんてない。
無謀だ…犯人なんて見つからない…。

僕たちじゃ犯人の探しようがない。

仕方ない…あとは警察に任せよう…。
みんながそう言う雰囲気を醸し出していた。

「でも、いつもあいつと遊んでたじゃないか。いつもこうやってガストに集まって、バカな話をして、放課後は小学生みたいに公園で遊んだ仲じゃないか!」

僕がそう言うと、みんなの顔色が少しずつ変わってきた。

「そういえばお前…どこにいたんだ?
 昨日はお前だけいなかった。何してたんだっけ」

かなめが僕にそう問いかけた。

「流石にテスト勉強してたさ。何、俺がやったと思ってんの?」

「いや、別に…」

かなめの言葉を遮るように、しゅんたが、

「動機があるならお前なんじゃないか?w」

「たしかに、お前の好きな、りかちゃんはあいつのこと好きだったろ?」

「だからって…殺すわけないだろ?」

「まあそうだな…」

なんで俺を疑うんだ?
この発言を皮切りに、なぜか全員が俺を疑い始めた。

俺が恋で破れたからって人を殺すとでも思ってるのか?
いやいやいや、こいつら何を言っているんだ?
なんでお前が殺したんだろうって目で俺のこと見てるんだ?4人とも。

「お前…殺ったろ」

このグループで最も発言力のあるけいいちが言った。

「お前だな」

「お前が殺したに違いない」

「お前が殺してない根拠を言ってみろよ」


「友達だろ?俺が殺すわけないじゃないか」

みんなして俺を疑ってくる。
急に?なんでなんだ?

「だって俺らは殺さない」

「だからと言ってなんで俺を疑うんだ?」

「なぜって、俺らはあいつを殺さないからだよ」

「は?それは俺を疑う理由にはなってないだろ」

意味がわからない。俺はあいつを殺してない。殺してなんかない。ありえない。

すると店員さんがここへやってきた。

理不尽に俺を責めるあいつらを怒りにきたに違いない。俺を助けてください!

「あなたが殺したんでしょう?」

「へ?」

「店員さんもそう言ってる。お前が殺したんだろ?」

「意味わかんねぇよ!!!」

なんだ?みんな頭がおかしくなっちまったんじゃねえか?

なんで急に俺が殺したことになってるんだ?

俺はひとまずこのおかしな空間から出て家に帰ることにした。

自転車を急いで漕ぎ、ずぶ濡れになりながらもまっすぐ家に帰った。

なんでなのか全く理解できない。なんで急に俺が疑われたんだ?しかも店員さんまでなんで俺のことを疑うんだ?これはドッキリか?店員さんはけいいちのお姉ちゃんだったりして…。こんなたちの悪いドッキリをかけるようなやつか?不謹慎にも程がある。

家に着くと、玄関のあかりがついていた。両親と俺の妹はもう帰ってきているらしい。家に着いた途端、肩の荷がおりた。と同時に全身の力が抜けた。

「ただいまー」

玄関を開けると、お父さんとお母さんと妹が玄関で出迎えてくれた。

「ん?みんなどうしたの?」

別に俺はいつも通りの時間に帰ってきた。特別帰るのが遅くなったわけではない。

「あなたが殺したんでしょう?」

お母さんが

「早く自首しなさい」

お父さんが

「なにしてんの?」

妹が

俺を責める。

「なんでだ?俺は殺してなんかない!どいつもこいつもおれのせいにしやがって!!」

俺は自分の部屋に駆け込んだ。ありえない!!!

なんでみんな俺を責めるんだ?昨日は家で勉強してただけじゃないか!!

まじでなにもやってないのに。

スマホの通知音がなっていることに気づいた。止めどなくなっている。クラスのグループラインがなにやら活発に動いているみたいだ。

新規メッセージがあります。

まさか…。

「お前が殺したんだろ?」

「あなたがやったの?サイテー」

「そんな人じゃないと思ってたのに…」

「人を殺すなんてサイテーだな」

もうますます意味がわからなくなった。

なんだこの悪い夢みたいな世界は…。

そうだ、これは夢だ!!

おかしいこんなおかしなことあるわけないじゃないか!!

そう思い、思いっきり頬をツネってみた。昔から怖い夢を見た時は頬をつねれば冷めるんだ。ほら、夢だろう…。

痛い、痛い、痛い。

何度つねってみても、痛い、は?なんで、なんでだ?

窓の外からサイレンの音がする。

馬鹿馬鹿しい、警察でさえも俺のことを疑うのか?

俺の部屋の扉が勢いよく開いた。

「君が橘くんを殺したんだね?」

「なんでだ!!俺はあいつを殺してなんかいない!!」

「君がそういってもねぇ…。周りのみんながそういっているだろう?」

「だからなんなんだよ…それが証拠になるのか?」

「いいかい、橘くんの犯人の目星はまだついていなかった。誰かもわからない。でも、君達が行ったガストでの会議で、君が4人から疑われただろう?つまり、この世界で、橘くんを殺した人で一番疑われたのは君なんだよ。君が橘くんを殺したんじゃないか、君の友達4人が全員君を疑ったんだ。君たちのガストでの会議で、橘くんを殺した犯人は君だと決まったんだよ。多数決で。多数決で決まった途端、世界でただ一人、多数決で君が橘くんを殺したと、決まったんだよ。」

「いいかい、この世界で一番強いのは多数決なんだ。多数決で全てが決まるんだよ。大勢が君を疑えば、もう君が犯人なんだ。Twitterでも、みんながこいつらは悪いやつだ、と炎上すれば、真実は関係なく悪いやつなんだよ。この世界はそういう世界だろう?君だって、真実が分からないのに、人のことを批判するだろう?」

「ガスト会議で決まったことはこの世界中の人々の集団意識の中に反映される。だから君はお母さんからも、お父さんからも疑われるんだよ。疑い…ではないな。もう決まったことだ…それでは行こうか…」

そんな…馬鹿なことが…。


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