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天に届くキリンとの逃避行 - kirin/リーガルリリー (2024)


kirin/リーガルリリー

リーガルリリーは不思議な魅力を持ったバンドだ。
私が彼女たちの音楽に出会ったのは2020年に当時の最新作「bedtime story」を聴いたときだった。
当時は3人組のガールズバンドで、そのボーカルのはかなげな印象と、バンドサウンドや歌詞に秘められた強い情熱が共存するさまに大きな衝撃を受けた。

それは2人組へと形態を変えた現在も変わらず、衰えない熱さを音に閉じ込めて私たちに届けてくれる。
そんな中で、今年リリースされた最新作「kirin」は、彼女たちの従来の魅力はそのままに、新しいコンセプチュアルな作品の世界を見せてくれている。

アルバムタイトルの「kirin」は、ジャケットイメージそのままに哺乳類のキリン、giraffeを表している。
公式ページの紹介文を見ると、キリンについて、地に足をつけながらも宇宙に一番近い目線を持つ動物、と記されている。
すなわち、本作におけるキリンは地上から天を見渡す自由や解放の象徴のような、至上の存在なのである。

『天きりん 僕をここから出してくれ』
冒頭に収録された"天きりん"で、そんな自由の象徴、天まで届くキリンに願いをかけるところから作品が始まる。
今作は、どこにも行けない窮屈な日常から抜け出し、キリンとともに現実から逃避した記録である、と捉えることができる。

では、作品の主人公はどこへ逃避したのだろうか。
アルバムには"ムーンライトリバース"、"海月星"、"地球でつかまえて"といった宇宙を想起させるタイトルの楽曲が収録されているほか、"キラキラの灰"や"60W"など歌詞の中にも星を連想させるワードがちりばめられている。
つまり、天のキリンと同じ目線に立って、壮大な宇宙を見渡しながら、『どこにも行けないここ』から抜け出して、窮屈な日常を忘れ、45分間の逃避行を楽しんでいるのである。

同時に、この作品は、同じように現実に縛られたリスナーにも、天キリンの目線から束の間の逃避行を提供してくれる。
収録曲のサウンドも多様で、直球リーガルリリーといった曲調の"17"や"春が嫌い"から、ダンサブルなビートが特徴的な"ハイキ"や、かつてない熱量で歌い上げる珠玉のロックバラード"ムーンライトリバース"まで、自分たちの最新モードを提示しながら、耳を飽きさせることなく45分間を彩っている。
メンバー構成の変化も、もしかしたらサウンド変化の要因かもしれないが、リーガルリリーサウンドの進化という観点からも楽しめる一枚である。

天キリンとの逃避行を締めくくるのは、大切な人との日常の退屈を受け入れ、それが続くようにと願う"ますように"。
再び願いをかけながら現実へと帰還する構成も見事。
逃避したままにせず、帰ってくる着地点もしっかり用意されているのが素晴らしい。

さあ、安心して天キリンとの現実逃避に出かけよう。



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