浮遊する電子の明晰夢 - Lucid Dreaming / Maika Loubté (2021)
明晰夢。
睡眠中に見る夢のうち、それが夢であると自覚し、その中で自在に動き夢の状況を意のままに変化させられるものを指す言葉。
マイカ・ルブテが2021年に配信リリースしたアルバム「Lucid Dreaming」のタイトルには、そういった意味が込められている。
言い得て妙なアルバムタイトルである。
そこに収録された音は、エレクトロニックな音像の中にマイカ本人の浮遊感たっぷりのボーカルが響き、浮世離れしたような世界観を形成している。
受け手側はまさに、意識がはっきりしながらもどこか夢の中にいるような、明晰夢のような感覚に陥る。
ドリームポップのようなファンタジー感に寄りすぎず、また電子音楽の無機的なイメージも持たない、この有機的なエレクトロの感覚こそが「Lucid Dreaming」な音像の正体であると、私は思っている。
音を通して見える景色も、明晰夢を乗りこなすように次々と変化してゆく。
オープニングの"I Was Swimming To The Shore And Heard This"はその曲名の通り、海岸に向かって泳いでいるような景色が見える。
"Mist"では海から蒸発した水蒸気が霧となるように、自らの身が天に上ってゆくような感覚を覚え、続く"It's So Natural"や"Spider Dancing"は風に乗り雲の間を駆けてゆくかのごとき疾走感を存分に楽しめる。
"Kids On The Stage"と"Broken Radio"のインタールード2曲を挟んで演奏されるシングル曲"Show Me How"は本作の軸となる楽曲であると言えるだろう。
雲を駆けた先にある楽園は幻のごとく崩れ去り、靄のかかったような、まさに夢の中といった空間の中で、一筋の光となるのが"Show Me How"だ。
そのまま"Zenbu Dreaming"で目を覚ますまで、その光がさす中で朝を待つかのような音像が展開される。
"Show Me How"に至るまでのインタールード2曲によって、前半の具象・後半の抽象という二つの世界を見事につないだ構成が素晴らしい。
日本語・英語・フランス語を巧みに使い分ける歌詞もリスナーを夢の世界へと誘う大きな要因だ。
明晰夢というサウンドイメージで様々な世界を耳に届けてくれる、満足度の高い一枚である。