ナンバーワン・ガールの逆襲 - rosie / ROSÉ (2024)
年が明けた。
年末から年始にかけては昨年ヒットした楽曲を耳にする機会が必然的に増えるが、やはり最も印象的なのはBLACKPINKのロゼがブルーノ・マーズを迎えて放ったキラーチューン"APT."だろう。
シングルの発売は10月だったにもかかわらずJ-WAVEの年間チャートでは1位を獲得する異例の大ヒット。
昨年の秋以降、『アーパツ、アパツ』というあのリフレインを耳にしない日は無かったと言っても過言ではないだろう。
"APT."の大ヒットは日本や韓国のみに留まらず、USやUKのチャートでもトップ5にランクインするなど、全世界に飛び火している。
ヒットメーカー、ブルーノの本気が見えるこの楽曲は、耳に残るフレーズを繰り返すという常套手段を敢えてイントロ部分に使っているのが新しい。
例えば、昨年日本でヒットした"Bling-Bang-Bang-Born"や"はいよろこんで"等はいわゆるサビの部分、楽曲のクライマックスで耳に残るフレーズが連呼されるため多少なりとも鬱陶しさが感じられてしまう。
一方の"APT."はメインの歌詞部分は至ってオーソドックスなポップ・ロックの軽妙なトラックに乗せて歌われており、中毒性と隣り合わせの鬱陶しさの払拭に成功している。
トラックはまさにブルーノお得意の、といった曲調であるが、歌詞の題材は韓国の飲み会ゲームにインスパイアされたものであり、ロゼとブルーノが出会わなければこの楽曲は世に誕生しなかったであろう。
気づけば"APT."について少々熱をもって語りすぎてしまった。
あくまで本題はアルバムである。
12月にはこの大ヒットシングルを収録したソロファーストアルバムがリリースされたということで、聴いてみた。
12曲36分という今どきのアルバムに多いコンパクトなつくり。
正直、全曲アパツ路線だったら流石に聴いてられないな、と思いながらアルバムを再生したが、それは杞憂であることをすぐに悟る。
逆に"APT."一曲だけが悪目立ちするのではないかとも思ったが、そんなことはなかった。
収録曲の大半はミドルテンポのポップソングに占められており、6曲目の"APT."がアルバム全体の流れにとって非常に良いアクセントとなっている。
このアルバム一枚を通してのバランス感覚は、エンターテインメントのトップに立つスターのセンスを十分に感じ取ることができる。
クレジットを見るとロゼ本人も全楽曲の制作に関わっており、この点からもトップスターとしての能力の高さがうかがえる。
ブラックピンクといえば攻撃的なトラックが印象的な楽曲が多いが、ロゼのソロ作となる本作では落ち着いた曲調で歌い上げる様が強調されており、グループから離れた時に彼女自身が何を表現したいのか、という問いに対する完璧な答えがこの作品に詰められている。
ほぼ全編英語詞というのも、K-POPの枠から飛び出すんだという意欲の表れに見える。
グループやバンドとサウンドの変わらないソロ作品が溢れる現代の音楽シーンにおいて、まさにソロアルバムのお手本と言えるような作品である。
冒頭に収録された"Number One Girl"で、ロゼはこう歌う。
『あなたのナンバーワン・ガールになれるのなら全てを捨て去っても良い』といった内容のフレーズである。
このアルバムは、トップスターであるロゼが一度ブラックピンクやK-POPの立場を離れ、一人の人間としてポップ界のナンバーワン・ガールを目指すための、その逆襲の第一歩である、と私は捉えている。
私を含むポップリスナーにとっては既にナンバーワン・ガールのポジションに立っているであろう彼女が、どこまでその裾野を広げられるのか、今後の活躍が非常に楽しみである。
もちろん、各メンバーのソロ活動を挟んで今年はグループとして再始動するブラックピンクも、その表現の拡張に注目だ。