小学生・奨励会・雀荘・熱燗
連載エッセイ「言い訳をしたい棋譜」前田裕司八段より(「将棋世界」2014年4月号)。ところどころ省略しつつ一部を紹介。
”ある日、持ち時間の短い対局が終わった私は、麻雀を打ちたい気持ちになり、一人の棋士に声を掛け、もう一人を物色していました。
棋士が麻雀をしたくなる理由は、主に対局後の頭をクールダウンさせること。
さて、もう一人が見つかりません。仕方なく帰ろうとすると・・・
「先生、僕がやりましょうか?」と居合わせた坊やが声を掛けてきたのです。奨励会員というのは知っていました。でも確か、まだ小学生のはず。
これで麻雀をすることができると、その坊やを誘ってニコニコと、そしてイソイソと雀荘に向かったのです。
私がいつものようにビールを注文すると、「オバサン、酒の熱燗とスルメを炙って持ってきてよ。マヨネーズに七味を掛けてネ」と、坊やも注文します。
勝負も結局、坊やの一人勝ちで、大の大人がボロ負け。体は確かに小学六年生なのですが、中身はとうに四十路過ぎのオヤジで、彼にとっては赤子の手を捻るようなものだったのでしょう。”
その小学生とは、先崎学少年(現九段)だったそうな。