折々のチェスのレシピ(372)少しだけ高度な知識をあなたに
では、前回の対局で実際に白が黒の緩手や悪手をどう咎めたかを見ていきます。
序盤早々に労せずして白にはチャンスが巡ってきました。
黒は早くもセンターポーンが消滅する危機に瀕しています。すでになんらかの守りの手を指さなくてはいけません。次に黒はBe6とするのが最低限の手ですが、
クイーンを交換しあってこんな形になっているでしょう。黒はセンターを失っただけでなく、また自分の駒(ビショップ)を守る手を指さなくてはならなくなってしまいました。つまり黒はここまで否応なく守りの手を指さされており、自分の手をまったく作れていません。
本譜では上のような進行にならず、黒はセンターポーンを残したかったのでしょうが、ポーンを進めてきました。しかし、
その間に白は着々と手を進め、ここで黒のポーンを捌きにいきます。焦らずに最適なタイミングで捌きに行っていることがわかります。
次の黒の手、
これは大悪手といえます。なぜなら、白にキャスリングをする絶好のタイミングを与えてしまっているからです。
ここまでくると白はもうどうやって勝とうかと考えている段階です(勝ち方はいくつかあります)。相手のミスを二回咎めただけでこれだけの差が開いてしまいます。序盤から緩手や悪手を指してくるプレイヤーに対しては、きっちりそのミスを自分が有利なように咎めていけば自然と勝ちが転がり込んでくるようになっています。
問題は、相手が指した手をミスと判断できるかどうかにかかっており、その能力はAIやソフトで研究しているだけではなかなか身につかないかもしれません。基本的には対局後に分析してその都度相手のミスへの応対を身につけていくしかないだろうと思いますが、実はミスの研究というのは非常に幅広く事前に網羅的に把握しておくのはかなり至難です(そもそもチェスの事前研究は相手のミスを基本的には前提にしないので)。よって、その場その場である程度先を読む能力が求められます。こればかりは経験(実践)と訓練しかないだろうと思いますが、その際に役立つのがパターン認識です。少し先にこんな形になっていれば自分が有利であるとか不利であるとかの記憶です。この引き出しを多く持っていると、そのうちだいたいこの方針で指し進めれば最悪でも形勢を損ねないとか、あるいは後数手指せば寄せ形が見えてくるなど、ある局面を見ただけでわかることが増えてきます。
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