
インプットの試行錯誤 | 記憶が苦手すぎて記憶を研究した #02
前回のnoteはこちら
今回は、記憶のことを私の大学時代の専門分野でもある認知心理学の観点から少し考えて、自分の脳内を解き明かしていこうと思います。
記憶を扱うのは、認知心理学
記憶は、なにか脳に関わることなので医学や脳科学的な学問分野に属しそうな話なのですが、実は学術的には心理学の中の、認知心理学の分野で主要に取り扱われる領域のひとつです。
一般的に心理学といったら
対人関係とか、ストレスとか、人の心を読むとか?笑 そういったイメージを持たれやすいかと思います。
その部門ももちろん心理学の主要な分野のひとつですが、私の専攻していた認知心理学は、一言で言うと理系っぽくかなり脳科学っぽい中身が多いと思います(専門の皆さま雑な表現でごめんなさい!)。
認知心理学の主な分野には
・知覚
・記憶
・学習
・思考
・言語
のような領域があって、私が専攻し学んだのは人間の五感にかかわる知覚、特に視覚の認知(目で見た物事を脳がどう処理するか)でした。
認知心理学ではfMRI(エフエムアールアイ)という、脳のどこが活性化しているかがわかるMRIのデータを元に研究したり、実験したりして脳と心の仕組みを解き明かします。これはこれでとてつもなく面白かったのでまたいつか書こうと思います。
学部が社会福祉学部だったこともあり、認知症をはじめとする様々な脳の機能やその障害を学ぶことが国家資格の取得要件でもあったので、記憶を含む認知心理学のベースも大学時代に学びました。
ここでの学びが、その後様々なことを記憶したり、インプットしたり、頭の使い方を変えることにとても役に立ったので、今回はそのあたりを振り返りながら記憶についてをまとめたいと思います。
できるだけわかりやすく簡単に書けるようにがんばります!笑
記憶ってなあに?
記憶、という言葉一つをとっても実はいろいろな角度からいろいろなことが分かっているようなので、今回は記憶とは、の基本的な仕組みと、
なぜ記憶できない私が記憶しやすくなったかというポイントをピックアップして書いてみます。
記録して、保管して、思い出す
私はマーケティングデータのコンサルティングをするプロジェクトの、つまり平たくいうとIT系企業のプロジェクトマネージャーなのですが、
実は脳の記憶の仕組みはコンピュータと同じように考えられています。
※認知心理学でパソコンの仕組みを学ぶときは最初意味不明すぎて頭から火を吹きました。
コンピュータでは、どんな情報も裏側では、
映像や音声や言葉など、すべての情報を、0と1の組み合わせだけで扱っています。
この時点でもうほんと意味不明です。笑
どう言う意味かをもっと平たくいえば、
情報をインプットするときに、どんな複雑な状況でも、コンピュータ側が情報をためたり、取り出したり、処理したりしやすい形に変えて、
自分の中に持っておく仕組みになっています。
つまり、基本的にはいろんな情報を、自分が扱いやすいように変換して貯めています。
動画を編集される方だとよくエンコーディングやエンコード、という言葉がでてくると思いますが、エンコードとは動画を圧縮したり、変換したりして効率よくする処理のことですよね。たぶん。
人でも、コンピュータでも、なにかを貯めておく、インプットしておく時にはかならずこのような
『いまの情報ワタシ用に変換シマス』
という仕組みが働いています。
このいろんな情報を頭の中で記憶したり、処理したりするために、まずは頭に入れる工程で変換されていく仕組みのことを認知心理学では符号化=encoding(エンコーディング)と呼びます。
頭の中になにかの情報を記憶するなら、
まずこのように
ワタシ用に変換シマス!と、
記銘する=書き込む、記録するということが頭で行われます。
次に記憶用に変換された情報は、
記憶というからには頭にとっておかなければいけませんよね。
よくコンピュータや、今だとスマホなどでも、
Strage(ストレージ)というのを見かけると思いますが、ストレージというのは貯蔵、貯めておくところという意味です。
同じように心理学の用語ではこの情報を保っておくことを保持(retention)と呼んでいます。
さらにさらに、実はこのリテンションというカタカナ語はマーケティングでもよく知られた言葉です。
マーケティングにおけるリテンションとは、
一度自分の会社の商品を買ってくれているお客さんが、また買い続けてくれて自分の会社から離れないようにするため=顧客を保持することを指しています。
一度商品を購入した会社から、
次、私たちの会社こんなセールやりますよ!
あなただけの特別クーポンです!
と、届く経験がある方も多いと思いますが、いわばお客さんを保っておくためのリテンション施策というわけですね。
確かに、マーケティングにおいてまたきてもらう、ということはいかに自分の会社を覚えておいてもらい、思い出してもらえるか、ということが重要なので、覚えてもらってお客さんを離反しないようにするリテンションはものすごく大事ですね。
さて、話を少し戻して、
記憶という工程においても、この保持の工程はとても重要です。情報が保持されなかったら引き出す情報が空っぽになっちゃいますもんね。
そして記憶の最後のステップは思い出すことです。
記録した情報が保持されていて、
それを思い出せてはじめて記憶した!といえます。
思い出されない=記憶ができていないということですよね。この思い出すことを想起と呼びます。
したがって、
記憶する、というのは、
記憶したい情報発生
↓
情報を頭の中で残せるように
脳が勝手に変換処理してくれる
↓
頭の中で保管
↓
保管したものを思い出す
ということで成り立っています。
なんだかまとめてみるとシンプルすぎて、ここまで書いた意味あったかなあ?と、書きながら思っていますが(笑)、
この後の工程に必要な理解なのでまあよしとすることにします。
なぜ、英単語の暗記や楽譜の暗譜が苦手なのか
#01のnoteで、私は自分にとってあまり意味のないようなものである、英単語や、数字の羅列、誕生日や電話番号などをパッと覚えることがものすごく苦手だと書きました。
他の友人に比べてもこの記憶のできなさは著しく、本当に覚えられません。
一方で、他の人も驚くほど緻密に、そして膨大に記憶しているようなストーリーや出来事もあったりします。
本当に一体どういうことなのか。
ここから先は勝手に自分の脳を、脳の仕組みから考察してみます。
思い出すための頭の仕組み
人の記憶は、保持されて、思い出されるまでにもう少し細かく、いくつかのステップを辿ります。
普段からわたしたちの身の回りにはいろんな感覚で感じられるものが山ほどありますよね。
常に明るさを感じたりしているし、なにか目からは光景が見え、匂いも感じ、周りの音も聞こえています。このように五感で意識せずに感じ取っている情報は感覚記憶、と呼ばれています。
この中で、
記憶できるように注意を向けた情報があってはじめて、それが記憶する用の情報として頭の中で処理が進む仕組みになっています。
この感じ取っている感覚記憶の中で注意をむけた情報だけが、こんどは短期記憶という分類の情報になって、頭の中に短期的にインプットされます。
この短期記憶に分類された情報は、名前の通り覚えて置ける保持期間がとても短いそうです。
誰かの名前や、何か言葉を覚えておこうとした時に、
名前を繰り返し頭の中で呼んでみたり、
覚えたい言葉を連呼してみたりすることがよくあると思いますが、これは理にかなっています。
短期記憶は、そこにできるだけ記憶をとどめておくために、何度も何度も心の中で呟くことで忘れることを防ぐことができる特徴があるからです。
さらに、インプットしたことをすぐ思い出すのではなくてある程度時間が経ってから思い出すために、より長く保管して置ける記憶にしなければなりません。
しなければならないというよりも、むしろ、脳が勝手に色々な状況を判断して、その情報を忘れるか、また思い出せるようにするか、を処理しています。
ここで、
また思い出せるようにする、
と分類された情報は、長期記憶という記憶に変わります。
長期記憶はとてつもなく大容量な図書館みたいなイメージです。
ずっと続く記憶ですが、普段はその記憶に意識を向けて引き出さないと、引き出すことができない、特にいつもは意識されていないような記憶です。
あなたの電話番号は?と聞かれたらそれまで別になにか繰り返して唱えていたわけではなくても、思い出して言えると思います。
感覚記憶→短期記憶→長期記憶
という記憶があって、
これらを思い出す、という工程があって記憶力となるわけだと思います。
記憶として意識下に存在しているのは短期記憶なので、一度長期記憶側に保存されてある記憶は図書館で本を探すように、頭の中で記憶を探して、短期記憶側に持ってくる、と思い出された状態になる、というような仕組みなのかな、と。
この辺でわりと訳がわからなくなりそうなのですが、この3つの記憶は、覚える情報のことを指しているのではなくて、ひとつひとつが記憶のための脳の異なるシステムであると理解するとわかりやすいと思います。
私の頭は短期記憶に課題がありそう
短期記憶のシステムは別名
ワーキングメモリ
と呼ばれています。
なんか、聞いたことありませんか?
このワーキングメモリ、日常生活ではものすごく重要な記憶のシステムらしいです。
短期記憶ことワーキングメモリの仕組みを知ることで、ついに私の脳の特性がなんとなくわかった気がしています。笑
ワーキングメモリは、大工さんの作業場のようなものだそうです。
作業場には、材料となる木材があって、様々な工具があり、それらを使って作業してものを組み立てていくと思います。
この作業場がワーキングメモリであり、
材料となっている木材が記憶する情報、作業する場所が記憶の処理のための場所になります。
ワーキングメモリには
情報をためておく場所と処理する場所が存在していて、場所全体=ワーキングメモリが広がるわけではなく、作業の場所を広くとると、情報をためておく場所は小さくなる、というトレードオフの関係があるのだそうです。
これだ!と思いました。
おそらく私の脳はわりと昔から、作業のスペースの割合が大きくて、情報をためておく場所はすごく狭い気がしました。
そのため、普通に何度か英単語を唱えて反復しようとしても、楽譜の音符を覚えようとしても、そもそもそれに耐えうる材料置き場が狭いのでどんどん忘れてしまうんだとおもいます。
では、なぜこの材料置き場が少なくても記憶しやすくなったかというと、おそらく長期記憶のシステムと短期記憶のシステムをうまくつかったからだとおもいます。
長期記憶の仕組み
長期記憶はまず大きく2つにわかれているそうで、
① 言葉で表すことのできる記憶=陳述記憶
② 言葉で表す事のできない記憶=非陳述記憶
があるそうです。
言葉で表す事のできない記憶というのは、たとえば、自転車の乗り方、包丁の使い方などの技能に関するものや、梅干しやレモンをみただけで酸っぱさを感じて唾液がでてくるような、紐づけられた情報と情報を組み合わせて反応するようなものなどがあります。
言葉で表す事のできる記憶はさらに2種類
・エピソード記憶
・意味記憶
という2つの記憶に分類されるそうです。
エピソード記憶というのは、
思い出と言われるものが近くて、
いつ、だれが、どこで、なにを、どうしたというような日常的な出来事についての記憶です。
意味記憶というのは、知識に近い記憶で、
例えば犬は動物だ、とか、
言葉の意味とか、まさにテストでも問われそうな記憶ですね。
エピソード記憶が得意な私の頭
#01のnoteで書いたことを思い出します。
・小学校時代の同級生のお父さんがヘルニアで入院していたということやその話を聞いた時の自分の机の場所
・メーカーから新しく発売された各商品の詳細とだいたいの発売年、街の新しいお店ができたのがいつごろかなど、新しいものの登場と時間軸
・何歳の時になんの遊びを誰とどこでしていたか
のような過ぎゆく時間の中で忘れてしまいそうな取り留めのないことを、
わりかし事細かにそれがいつだったか、その時自分がどう思ったか、どんな空間だったか、のように覚えているものもありました。
これって、まさにエピソード記憶ではないでしょうか?
意味記憶とエピソード記憶のバランスがどうか、ということはわからないのですが、明らかにエピソード記憶を覚えて、思い出すことが得意なようです。
そのため、意味記憶的な知識を覚えようとするよりも、授業全体のシーンを見てストーリーのように記憶し、その中に知識があるように覚えた大学時代の私の頭の使い方は自分の特性にとても合っていたんだと思います。
Next note
かなり長くなってきたので
今回はここまでにしようとおもいます。
短期記憶では処理スペースが広く、
長期記憶ではエピソード記憶が得意な私の頭。
次のnoteでは
なぜ、情報が貯めやすくなったのか
なぜ、思い出しやすくなったのか
を考えていってみたいと思います。
こちらのnoteを書くにあたり、大学時代のことも思い出しつつ、以下のサイトを大変参考にさせていただきました!
ありがとうございます。
https://maruhi-lab.com/chikakuninchi/?page_id=714
Pour mémoire