秘密を守れなかった日
おはようございます。
今日はnoteを始めて100日目、
そして連続投稿100日目です。
記念すべき今日は、マサおじさんの企画「感動した体験談」に参加させて頂きます。
〈 秘密を守れなかった日 〉
医療従事者には守るべき法規が多くあります。
最も基本的な法規の一つが、守秘義務です。
利用者さんの秘密を漏らしてはいけません。
ー それがたとえ家族であっても。
これは、僕が守秘義務を犯した日のお話です。
▼ 山川さん(仮名)
山川さんは、農業を営まれていた70歳台の男性。
何歳か年下の奥様と暮らしていました。
進行の早いタイプの膵癌を患っており、肺や脳にまで転移している状態でした。
最期まで自宅で過ごしたいという意思があり、在宅医療を利用しながら生活されていました。
僕は理学療法士として、週に2回ほど訪問していました。
山川さんは、いわゆる「肥後もっこす」。
意思は強いが、口数が少なく不器用。
とくに奥様に対しては、荒っぽく不器用な言葉遣いをされていました。
▼ 山川さんの自分らしさ
訪問リハビリの時間は40〜60分ほど。
運動療法などをマンツーマンで行いながら、
合間には沢山の会話をします。
リハビリ中の山川さんは、奥様の話ばかり。
「あいつには迷惑かけっぱなしで…」
「俺が死んだら、あいつは…」
「あいつが居るから、もう少し生きんと…」
そして、いつも最後にこう言います。
「あいつには絶対、言わんでな。」
これが、山川さんらしさ。
その後、山川さんは自分らしさを保ったまま、ご自宅で息を引き取りました。
▼ 弔問時の奥様との会話
1週間が過ぎた頃に弔問してお線香をあげ、ときどき遺影に目を移しながら奥様とお話しました。
奥様は憔悴したご様子でしたが、いろいろなお話をして下さいました。
その会話の中で、奥様は言いました。
「あの人、無口だから私にして欲しいことが分からなくて…。あの人は、私が妻でよかったんですかね…。」
この言葉を聞いた時に、
僕は守秘義務を犯すことを選びました。
「山川さんのお話は、いつも奥様のことばかりでした。奥様が山川さんのことばかり思っていたのと同じように、です。」
そして記録していた山川さんの言葉を、知り得る限り奥様に伝えました。
ー あいつには絶対、言わんでな。
そう言われた思いも、すべて伝えました。
山川さんが眠る祭壇の前で。
奥様はひとしきり涙を流したあと、
顔を上げて笑顔を見せて下さいました。
「私の代わりに、あの人の言葉を聞いていてくれて、本当にありがとうございます。」