和楽器店デートと斬鉄剣
昨年から長女がお箏を習い始め、僕は津軽三味線を始めた。
津軽三味線は、父と兄が20年くらい前に福居流の奏者から稽古をつけてもらっていた。
今は父も兄も弾いていないので、二本とも僕が預かって、ときどき父と兄とYouTubeから教えてもらいながらほぼ独学で練習している。
兄の津軽三味線の棹は、軽くトチ(独特の模様)が入った紅木で美しい。
しかし、裏皮が破けている。
津軽三味線の胴には犬皮が貼られていて、この犬皮はとても繊細な代物。
響きの良い音色を出すために職人が強く引っ張りながら貼っているので、湿気や温度変化で簡単に破れてしまう。
この皮を貼り直したかった。
長女も箏爪が欲しいと言うので、二人で和楽器店に行くことにした。
子どもと市街地を歩くのは久しぶり。
せっかく和楽器店でデートするので、和装で洒落込みたいものだ。
梅雨時期のジメっとした小雨の日に、軽やかな和装で親子デートできたら素敵だと思う。
…まぁ思うだけで、普段着である。
気軽に着られる和服など持ってはいない。
ハードケースを持ち歩くのは大変なので、胴部分だけを和楽器店に持ち込むことにした。
とりあえず棹をバラす。
棹は目を凝らさないと継ぎ目が分からないほど精巧に組まれているが、決められた方向にトントンと力を入れるだけで簡単に分解できる。
写真では分かりにくいが、ホゾという凹部分に金があしらわれている「金細」のようだ。
こんな代物をド素人が持ち込むのは、少し気が引ける。
熊本市街地にある、素敵な佇まいの和楽器店。
三味線・箏・尺八・和太鼓などの美しい和楽器が所狭しと並べられている。
今回は、破れにくい人工皮「白峰」を貼る。
音質は犬皮に劣るらしいが、素人の僕に違いは分からない。
両面とも人工皮に新調しようと思っていたが、兄からの要望で裏皮だけ人工皮で張り直すことにした。犬皮と人工皮では撥で叩いた感触が違うらしい。
ついでに撥も削って頂くことにした。
二本とも鼈甲撥。
津軽三味線とあわせて、いったい幾らするのだろうか。
わが家はそこそこ貧乏な家庭だったハズだが、当時は羽振りがよかったのだろうか。
おそらく慎ましく生活しながら、趣味には大盤振る舞いをしたのだろう。実に父らしい。
僕もそれくらいの気概をもって長女のお箏を買ってあげたいものだけど、僕のクレジットカードの限度額では太刀打ちできない。
せめて、長女の指に合った箏爪を買うくらい。
今はこれが精一杯。
(出典:金曜ロードショー公式Twitter)
珍しく「である調」で書き始めて、和楽器という風流なテーマでカッコつけようと思ったけど、僕の中の何かが限界を迎えた。
僕は今、銭形警部の名ゼリフ「それは、あなたの心です」でオチをつける方法を探すことで頭がいっぱいだ。
………。
………無理だ。
和楽器と大怪盗では、共通点が少なすぎる。
進む道を間違えてしまったのか?
風流路線で走り切れば良かったのだろうか。
いや、あった。
カッコをつけて、持ってもいない「和装」の話を書いておいて良かった。
ルパンで和装といえば、石川五右衛門。
五右衛門の決めゼリフがあるじゃないか。
またつまらぬ物を書いてしまった。
(出典:金曜ロードショー公式Twitter)
今宵の斬鉄剣は一味違うぞ。
切れ味がイマイチ。