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薄曇りの日の支援職(20):イノベーションの条件

情報サービスプロバイダのクラリベイト社「Top 100グローバル・イノベーター 2024」では世界のイノベーターランキングTOP100が
レポートされています。ちなみに上位5社が
1 Samsung Electronics
2 Canon
3 Honda
4 Toyota
5 Seiko Epson
100社の中に日本からは38社が選ばれ、Top 100グローバル・イノベーター最多輩出国としての地位を維持とあります。日本人的には嬉しい反面、実感とかなり異なるのではないでしょうか

日本にはテスラやNvidiaなどイノベーションを生み出す企業がなく、円安で日本の給料は欧米に比べかなり安い。アジア諸国からも猛追されており国として元気が無い。というのが正直なイメージです。しかしクラリベイト社の定点観測では日本企業はトップ100で最多のポジションを維持しています。これは国別ではアメリカよりも多い最多国です。この実感との差はなんでしょうか?

我々はイノベーションというと、企業の現在を見がちがですがクラリベイト社の定義では過去に取得した技術特許が現在生み出すものをイノベーションと定義します。つまり過去の蓄積が組み合わされたり転用されたりして現在に影響しイノベーションを生み出すとしているのです。
したがって日本に限らず、韓国のサムソンとかアメリカの3Mなど歴史のある企業が多くランクインしている。

ちなみにボストンコンサルティングによる別の調査では、日本企業はイノベーションランキングベスト10に一社も入っておらず我々の生活実感に合っています。こちらは現在視点で見る要素が強いからだと思われます。

ともあれ、過去の技術特許などの蓄積からイノベーションが生まれるという見方は納得感がありますし、それが企業収益を向上させているのであれば日本もまだまだ捨てたもんではないですね。

イノベーションの経済理論といえばシュンペーターです。実は上記のランキングはシュンペーターの理論ととても整合的です。シュンペーターのイノベーション論を中野剛志「入門シュンペーター」を参考にご紹介しましょう

イノベーションを起こす要因として、シュンペーターはちょっと驚くべきことを言っています、
・価格競争が無いこと(独占競争)
・大企業であること
・雇用が安定的であること
また、シュンペーター派の経済学者ペンローズは、内部留保を厚くして再投資に回すこと、終身雇用制度がイノベーションを生み出す条件としています

かなり意外ですよね、、、、シュンペーターもペンローズもかなり保守的な大企業こそがイノベーションを生み出すといっているのです。
一般的にイメージするのはテック系のベンチャーが革新的なサービスを投入するような感じなので、シュンペーターが言っていることがいまひとつピンときません。しかしよく考えてみればベンチャーは資本の蓄積がなく、また株主から短期的な収益を求められる
ため長期スパンでの経営やすぐ収益化しない基礎研究が困難なのです。従ってイノベーションが起きにくいのもわかります。

それとシュンペーターはもう一つ重要なことを述べています。それは国の経済成長です。経済成長している国ではイノベーションも起きている

いいかえると経済や雇用の不確実性を最小化するほどイノベーションが起きるのです。熱意ある超天才であれば別ですが、普通は先が見えない状態では思い切ったことや、いつ収益化するかわからない基礎研究に投資ができないですよね。

中野さんの分析で重要だと思ったのが日米比較です。シュンペーターの上記の条件をみると80年代くらいまでの日本企業が3つとも当てはまることがわかります。高度経済成長期にあり終身雇用がまだ生きていた、大企業であっても、アメリカ流の所有と経営の分離がまだ導入されておらず会社=家族的メンバーシップ的な経営方針であった。
これはクラリベイト社のイノベーション調査に歴史の長い日本企業が多いことと整合的です。
では、アメリカはどうでしょうか?中野さんによると、アメリカでも60年代くらいまでは終身雇用であったがその後新自由主義経済の流れの中で、雇用は流動化し株主資本主義が主流となったこれは短期的利益を求める点でイノベーションが起きにくのです。しかしながら政府による産業政策が行われたことによってイノベーションを生み出す環境ができた。基礎研究や先端的な開発は政府がお金をだしたり政府自らがやっていたのですね。実際にインターネットの概念や携帯電話の符号化技術、GPSは軍事技術の転用です。
企業はその成果を取り込んでイノベーションができたわけです。

日米で歴史的経緯の違いはあれど、どちらも経済や雇用の不確実性を小さくすることでイノベーションを生み出してきた

ただ、ここからが問題です

中野さんによると、日本はいわゆる小泉-竹中の”構造改革”によってこれらの強みを自ら破壊してきたことになります。財政規律重視による30年デフレ、
新自由主義的な雇用の流動性、アメリカ流の株主資本主義の導入。
しかもたちが悪いことにシュンペーターの「創造的破壊」の誤読があるといいます、構造改革派はシュンペーター「創造的破壊」という言葉を好みます。彼らのシュンペーター理解は古い企業を淘汰し、新しい企業の起業を増やすというものです。しかし上記でみたようにシュンペーターはそのようなことを言っていません。むしろ保守的な企業こそが「創造的破壊」を起こし、イノベーションを生み出すと言っているのです
いまは日本もまだ過去の数十年の蓄積でイノベーションが継続していますが、国が経済成長せず、雇用が不安定で、株主の発言権が強まっている日本ではシュンペーターのいうイノベーションが起きることが困難です。政府主導の産業政策も行わず、むしろ民間に任せる流れですね

クラリベイト社「Top 100」にあるような過去の遺産はまだ当面使えると思いますが、どこかで食いつぶすでしょう。

ここで、キャリコンの仕事に話をつなげますが、、、、イノベーションを生み出す組織づくりというのはどの企業でも課題になっています。
経営学や人事制度論の観点からたくさんの本もでています。我々はどんな組織提案をすればいいのでしょうか

ここで気を付ける必要があるのは、「創造的破壊」(誤読)の発想です。古い大企業を退出させ、新しいベンチャーが起業することに期待するイノベーション観ではうまくいかないだろうと思います。

シュンペーターがいうのは経済や雇用、経営において不確定要素がなるべく小さくて安心できる大企業こそがイノベーションを生み出すといっていますし、実際にクラリベイト社のランキングとも整合的です。
そこで大事になるのは、雑談的アイディアを受け入れたり提案をしやすい心理的安全性、失敗しても再チャレンジできるキャリア設計、退社しても
も戻れるアルムナイ制度、社内の既存のアセットを組み合わせることで新しいものを生み出す組み合わせのセンス、配当や自社株買いに偏り過ぎず、再投資へアセットを振り向ける経営戦略などであると思います

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