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『わが青春に悔いなし』黒澤明全作レビュー(6)

戦後GHQの検閲を乗り越えながらも作った作品。原節子が強く生きる女性を好演、とてもいい映画です。原節子は小津映画とはかなり異なるキャラ作りです

ストーリーはこんなかんじ(ネタバレあり)
■日本が戦争へ向かっている時代1933年(昭和8年)、京大教授の八木原(大河内傳次郎)とその娘・幸枝(原節子)
父の教え子である糸川と野毛(藤田進)は幸枝に好意をもっていた。
■大学では京大事件が発生し、自由主義者の八木原教授は罷免されてしまう。糸川は検事になり、野毛は東京で左翼運動に身を投じていた。しかし野毛は何か秘密をもっており幸枝にすら隠していた。
■幸枝はそんな野毛を受け入れ1941年(昭和16年)二人は結婚。
だが、野毛は戦争妨害を指揮したとして官憲に逮捕され、獄死してしまう
■幸枝は、義親の反対を押し切り自分は野毛の妻ですと、野毛の実家の農村で義両親(杉村春子・高堂国典)と同居を決める。
■しかしその農村では野毛の逮捕でこの家は売国奴だスパイだなどの誹謗中傷。それにもめげず慣れない田んぼの仕事に打ち込む幸枝に義母父も次第に心を許す。
■野毛は生前、じぶんの行為は10年後に理解されると述べていた。終戦、、野毛の正しさが社会に理解された。
■八木原は京大に復職。娘の幸枝を京都の自宅に置きたかったが幸枝は義両親の村に生活の根をはっており戻っていった。村では女性差別が横行し女性の権利のための活動を行っていた。村人に笑顔で迎えられトラックにのって村に帰っていった

🎥戦時中は当局による検閲があり、やっと戦争が終わり自由に映画を撮てると思いきや今度はGHQによる検閲とデビューから5作は検閲との闘いであった黒澤明。
これは想像を絶する大変さだっただろうな、、そんな中でも流されず自分の撮りたいコアをブレずに撮ってきたのはまさに偉大と思います。
本作では日本で暗躍したソ連のスパイ事件(ゾルゲ事件)という史実をベースにしています。
主要人物の設定などは変えておりゾルゲ事件のままではないですが、国際関係を揺るがす大事件であり、当時として非常に触れにくい題材だろうし黒澤明攻めてると感じます。

本作野毛のモデルはソ連のスパイで死刑になった尾崎秀実ですが、かなりキャラ変更が施されています。
『わが青春に』の野毛は反戦思想を唱え獄中で死んだ平和主義者的に描かれますが、実際の尾崎は対中国(蒋介石)戦争拡大論・強硬論を主張していました、これはあえて日本を戦争に傾斜させ滅亡させることを企図したものであり、これ自体がソ連共産党の策略なのでした。恐ろしい時代です

野毛の場合は戦後にその反戦思想の正しさが認められ名誉回復するというのが美しいストーリーであり、まあ映画としてはこのストーリーでよかったとおもいます。

それにしても小津とは180度異なる原節子の演技には驚きます。原節子自身の回想読むと小津への感謝の気持ちを述べつつも完璧主義者の小津のロボットのような状態であったことに対する静かな怒りも感じるところ、、、
本作の原節子は怒りや悲しみ、オーバーアクションなどある意味のびのびと演じており(小津比)、これはこれでとても魅力的に映る。というか彼女自身の俳優人生を考えるともっとこんな感じに自由にふるまってほしかった気もする。

終盤に幸枝が農作業を倒れるまでやって義母の信頼を得る場面はとてもいいし、呆けたようになっていた義父が幸枝の頑張りに触発されて走り出したのは感動します。晩年の『八月の狂詩曲』の暴風雨に抗うおばあさんに感動した人はこちらも是非お勧めしたいですね。このあたりいい意味で黒澤監督何十年も変わってない。

最後に女性の地位向上の運動に身を投じる未来を想起させるのも希望の持てる終わり方。

黒澤的スペクタクルにも乏しいし、あまり語られない本作ですがとても良い一作だと思う

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