30歳
30歳の誕生月に離婚した。
ずっと我慢していたことを、これからは彼と話し合って二人で決めていきたいと、30歳になったのだから、と自分なりに勇気を出して彼に気持ちを伝えたら、あっけなく壊れてしまった。
彼がいなくなった部屋は空っぽで、どこを見ても思い出が詰まっていた。
私も空っぽになりたい、そう思って、彼との思い出が詰まったものを手放した。部屋、家具、家電、服、本、CD、写真、車、思い出たち。さよなら。だいすきだったけど、さよなら。
すぐにお別れすることはできなくて、1つずつじっくり思い出をたどりながらページをめくり、目を閉じる。記憶の中の二人は笑っていて、私はしあわせでしあわせでしょうがないって顔をしている。
「伝えなければよかったの?」ふとそう思う。
「伝えなければ、彼と一緒にいれたの?」
ううん、伝えてよかったよ、あれは私の精一杯だった。
「彼を好きにならなければよかったの?」
ううん、彼が大好きだったから、幸せだったから、彼と一緒にいれてよかった。
「うん、そうだね。でも苦しいよ。」
胸がギューッとして、涙がこぼれそうになる。
私は “さよなら” と、そう呟いて、思い出の本を閉じて、歩き始めた。