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ヨルシカ新曲 『アポリア』の歌詞考察



みなさんこんにちは。

2024/10/8に発表されたヨルシカの新曲『アポリア』聴きましたか!?

私は、今回もヨルシカらしい婉曲的で曖昧な歌詞が、独特な空気感を醸す一曲だったなと味わっております…。

この曲、実は10/5から地上波でも放送されているアニメ『チ。 -地球の運動について-』のEDテーマに起用されているんですよね!

『チ。』のストーリーも汲んだ楽曲になっていますので、『チ。』と『アポリア』が互いに互いの世界にマッチしていて、単体でも強いはずの作品たちがより深い味わいを生んでいます。

まだ観てない・気になる方はアニメの方もチェックしてみてください!

さて、今回はそんなヨルシカ『アポリア』のふんわりとした歌詞を噛み砕いて考察していこうと思います。

1.「アポリア」とは?

"「哲学的難題や問題の一件解決できそうにない行き詰まりのこと」で、その原因が「もっともらしいが実は矛盾している前提」から来ている場合を指すことが多い。"


アポリア…。

これは原作を読んだ方には分かるかと思いますが『チ。』そのものですね。

天動説という前提が生み出す矛盾を、地動説をもって覆すことを試みたストーリーに大変噛み合った語句です。

2.『アポリア』の歌詞


"描き始めた
あなたは小さく
ため息をした
あんなに大きく
波打つ窓の光の束があなたの横顔に跳ねている

僕の体は雨の集まり
貴方の指は春の木れ日
紙に弾けたインクの影が僕らの横顔を描写している


長い夢を見た
僕らは気球にいた
遠い国の誰かが月と見間違ったらいい

あの海を見たら
魂が酷く跳ねた
白い魚の群れにあなたは見惚れている


描き始めた
あなたは小さく
ため息をした
あんなに大きく
波打つ線やためらう跡があなたの指先を跳ねている


長い夢を見た
僕らの気球が行く
あの星もあの空も実はペンキだったらいい

あの海を見たら
魂が酷く跳ねた
水平線の色にあなたは見惚れている


広い地平を見た
僕らの気球は行く
この夢があの日に読んだ本の続きだったらいい

あの海を見たら
魂が酷く跳ねた
水平線の先を僕らは知ろうとする
白い魚の群れをあなたは探している"


3.『アポリア』の概要欄 先生への手紙全文


YouTubeのMVの概要欄には、この曲の書き手(n-bunaさんではない)とみられる人物がその先生に宛てた手紙の内容が添えられています。

"拝啓

暑い日が続いています。
水曜日の図書館で気球の本を読みました。

先生は気球の仕組みを知っていますか?熱した空気は、冷たい空気より軽くなります。

だからそれを布で受けて、布に取り付けたカゴごと上昇するんです。

実は調べてみるまでちょっと魔法みたいに思っていたんですが、知ってみれば何だか単純な理屈に思えて、少しだけ寂しくなりました。

よく考えたらわかることなのに。

僕は気球は、知ることと似ていると思います。

僕の持つ知りたいという欲求は際限がなくて、気球もただ上に昇ることだけを目的としています。

人生で知れることの量には限りがあるところも、気球と似ています。気球で宇宙には行けませんから。

もしかしたら、僕は宇宙に行きたいのかもしれません。先生はいつかの返信で言いましたよね。

人間は経験によって形作られると。人間は知ることが出来るから、日々の経験があるから、心が五感で世界を蓄えて思考を豊かにすると。

なら、知らないことは死んでいることと同じです。新しい何かを知れないことは停滞です。

停滞している川は川にはなれません。それは、ただの水になるんです。何処へも行けず、流れを止めて澱みを待つだけの水です。

僕は時々それを考えて何だか、酷く、恐ろしくなります。

まだ知らない何かが世界には溢れていて、きっとそれは僕の人生の総量よりもずっと多いんです。

先生、僕の気球は宇宙には行けないでしょうか。

いつか何かの本で見た、アポリアという言葉を思い出します。解決の付かない問いのことだそうです。

僕の「知りたい」を先生はアポリアだと思うでしょうか。

詩はいつもと同じように別紙で同封してあります。お体にお気をつけて。

敬具"

※ちなみに私は、手紙の最後の行に書かれている「別紙で同封した詩」というのは、この『アポリア』の歌詞なのではないかと思っています。
そのため、この節の冒頭にてこの手紙の書き手を「この曲の書き手」と表現しました。

この手紙を読むに、書き手の好奇心旺盛な性格が読み取れますね。

自らの知らないものを常に探求し続け、あらゆるものについて知りたいという心情が窺えます。

ただ、本人も自覚している通り、人が人生のうちに知ることの総量には限界があります

むしろ、人というのは知れば知るほど「何故Aになるのか?」→「Bであるから。」→「Bであるのは何故か?」といったように、際限なく自らの無知を突きつけられるのです。

全てを知りたい人からすれば、絶望的にも思えるような板挟み状態…。

主人公はそんなジレンマやもどかしさを振り切りたいがために「宇宙に行きたい」という飛躍した願いを持ったのでしょう。

ただ、飛躍してると言っても主人公は本気なのがこの手紙の熱量からも分かりますね。

ただ全てを知ることに渇望した人間。

そんな主人公の性格や心情を踏まえて、歌詞の考察をしていきましょう。


4.ヨルシカ n-bunaさんのコメント


n-bunaさんが『アポリア』を発表するにあたって、こんな言葉を添えています。

"アポリアは哲学の言葉で、答えのない問いや、困惑を意味します。

知りようのないものを知りたいという心を、アポリアになぞらえながら書きました。

歌詞に出てくる気球は、際限のない知の欲求の喩えです。

気球は地表を離れて、段々と高く登っていく。

気球の中から下を覗くと、地表にいた時とは違う景色、海が見えて、そこには魚の群れが白く光っている。

そういう曲です。

僕の中でのチ。の解釈は「知」です。"

https://www.universal-music.co.jp/yorushika/news/2024-08-22/


なるほど。

地表から見た魚や景色だけを見て、それらを「知っている」と思っていたものの、気球から見たそれらは全く別の「知らない」ものに見える…。

例えば、りんごの味を知っていても、何故そのような味であるのかは知りませんし、もっと言えば、何故赤いのかも知りません。

仮にりんごを赤くさせている成分を知ったとしても、その成分が何故赤くさせるのかは知りません。

知っていると思っていたものも、知れば知るほど(気球が高く上がれば上がるほど)別の角度からの新しい見え方を発見し、それはまた知らない何かになる。

まさしく際限ない「無知」であり、際限ない「知の探求」を表した一曲ということですね。


5.歌詞全体のテーマ考察 〜「無知の知」〜


この曲が全体を通して伝えているテーマ…
それはズバリ「無知の知」でしょう。

この曲を分かりやすく読み解く前提として、この言葉を唱えたギリシャの哲学者「ソクラテス」について簡単に語らせてください。

彼は「私は何も知らない。ただひとつ、私は何も知らないということを知っている。」とかいう超絶カッコいい言葉を残した偉人です。

テーマとして題した「無知の知」も、この考えのことを指しています。

さて、これを受けて
「私はりんごも知ってるしライオンも知ってるよ。何も知らないってどういうことなの?」と思う方もいるかも知れません。

たしかに、私たちはりんごの味を知っているし、りんごの形も、色も知っています。

しかし、こう聞かれたらどうでしょうか?
「りんごとは何か?」
「りんごは何故あの味なのか」「りんごは何故あの形なのか」「りんごは何故あの色なのか」

大抵の人はここで答えられなくなるのではないでしょうか?

どんな知識人とされている人であっても、このように出てきた答えに対する問いをずっと続けていれば、いつかは答えられない問題が出てきます。

これは簡単に言ってしまえば、そのものについてどこまで知っているかをもって「知る」とするかの問題です。

「りんごは赤くて美味しい。」

りんご以外のあらゆるものも、これくらいの認識でいれば日常生活を送るにあたって支障はありませんし、知る必要もないでしょう。

しかし、ソクラテスを含む真の知的探究家たちは、それのもっともっと先にある、到底知ることもできないような「真理」を知ろうとその人生を捧げてきました。

それはこの曲の主人公や『チ。』に登場する天文学者たちも同じです。

ただひとつ、この世の真理を知るためだけに人生を捧げ、常識を疑い続け、自らの知らないものの全てを知ろうと地道に歩み続けるのです。


6.歌詞(一節ごと)の考察


〜1番Aメロ歌詞〜

描き始めた
あなたは小さく
ため息をした
あんなに大きく
波打つ窓の光の束があなたの横顔に跳ねている

僕の体は雨の集まり
貴方の指は春の木れ日
紙に弾けたインクの影が僕らの横顔を描写している

冒頭「あなた」が小さく「何か」を描き始める描写から始まります。

そしてその「何か」は、抜き出した歌詞の1番最後に記されている通り、主人公と「あなた」2人の横顔であることがわかります。

そして次に、「あなた」に描かれる主人公の体は雨の集まりであり、「あなた」は春の木漏れ日であると言っていますね。

これは、「全ての因果が一つの真理に帰結すること」を表していると考えます。

「人間の体が70%が水分でできていて、その水分が川からきているものであるなら、川を作り出す「雨水」はもはや人間であり、自分である。」

「太陽が地球を温めることをやめれば人間は寒さに耐えられずに絶命する。つまり、生きていくために必要な太陽光からきている「木漏れ日」は人間であり、あなたである。」

そう言っているんですね。

すごい飛躍しているように見えますが、理屈は分かるかと思います。

主人公からは、この世の全てのものが因果によってひとつの真理に向かって混ざり合うように思えているのでしょう。


〜1番サビ歌詞〜

長い夢を見た
僕らは気球にいた
遠い国の誰かが月と見間違ったらいい

あの海を見たら
魂が酷く跳ねた
白い魚の群れにあなたは見惚れている

そして1番サビにて、場面はに移ります。

夢の中でどうやら主人公たちは気球に乗っているようです。

「遠い国の誰かが(気球を)月と見間違えたらいい」という歌詞から見るに、この夢の世界ではまだ気球が発明されていない or 知られていないのではないでしょうか?(単純に遠い国からだと小さすぎて月に見間違えちゃうよねって説もある)

もしそうだと仮定した場合に、登場人物の2人は「空を飛ぶことはできない」という常識を覆し、空を飛んだということになります。

そして気球で空を飛ぶことによって、地表からでは見ることができない「魚の群れ」を空中から見下ろすことで初めて観測し、その未知の景色に高揚して見惚れているのが分かります。

「僕らが常識を疑い覆した先で、改めて世界を観測すると、地表から見て知っていたはずの世界とは違う全く別の知らない世界が広がっていた…。そんな夢を見た。」

好奇心旺盛な2人の仲良しコンビですね。



〜2番Aメロ歌詞〜

描き始めた
あなたは小さく
ため息をした
あんなに大きく
波打つ線やためらう跡があなたの指先を跳ねている

さて、2番冒頭にてまた「あなた」が絵を描いているシーンに戻ります。

1番冒頭に比べると、描き始めた絵が点から線となり、ためらって直した消し跡が増えたことで、時間をかけてだんだんと作品が形になっていく様子が窺えますね。

しかし、この時点では気球で空を飛ぶ「夢」の世界と絵を描いている「現実」の世界での繋がりが見えませんから、楽曲中での「描いているシーン」にどのような意味合いがあるのかは「まだ」はっきりとしませんね。



〜2番サビ歌詞〜

長い夢を見た
僕らの気球が行く
あの星もあの空も実はペンキだったらいい

あの海を見たら
魂が酷く跳ねた
水平線の色にあなたは見惚れている

2番サビ、再び舞台は夢の世界へ戻りました。

気球の上から見た広い海に高揚し、地表から見るよりもさらに広い水平線の色に「あなた」は見惚れています。

そんな景色を見ながら、ふと主人公が思いました。

「あの星もあの空も実はペンキだったらいい。」

ここで現実世界の「あなたが描く絵」が、夢の世界で「ペンキ」が登場したことによってつながりましたね。

これは、この世界を創り上げているただ一つの真理が「この世界は「あなた」が描く絵そのものであること」だったらいいということではないでしょうか?

実際、現代の著名な科学者たちの中でも「この世界は誰かによってデザインされたものである」という主張をする方がゴロゴロ増えてきています。

いくら何を知ろうとも全く近づけないこの世界の真理に対して、主人公は少しのユーモアを足しながら「あなたにデザインされた世界だったらいいな」と想像を膨らませたということではないでしょうか?



〜ラストサビ歌詞〜

広い地平を見た
僕らの気球は行く
この夢があの日に読んだ本の続きだったらいい

あの海を見たら
魂が酷く跳ねた
水平線の先を僕らは知ろうとする
白い魚の群れをあなたは探している

ラストサビも全て夢の世界かな…とも思えるんですが、私は「3行目までが夢の世界」「4〜7行目が現実世界」なのではないかと思っています。

気球から地平を眺めながら、次はこの世界の真理について「あの日に読んだ本の続きなのかもしれない」と想像を膨らませます。

※ここで指している本に関してはヨルシカの他の楽曲の中でそれに当たるものがある?かもしれませんね。

そして、4行目以降は現実世界に移り、地上から2人は海を観測しています。

何故水平線を見て魂が跳ねたのかは、この『アポリア』の世界ではアニメと同様にまだ天動説が信じられていると仮定すれば説明がつきます。

その場合、水平線が丸みを帯びていることから、地球が丸いことを悟ったのかもしれませんよね。

「白い魚の群れをあなたは探している」に関しては、それをきっかけに2人が現実世界でも空を飛ぶことを目指すということの喩えなのではないでしょうか?

また、楽曲を通してこの「白い魚の群れ」を「白い星たち」だと仮定すると面白いかもしれません。

「地球が米粒になるほど高く飛ぶ気球で、まん丸な地球と白い星々を見た…そんな夢を見た。」

そんな解釈もあるかもしれませんね。



n-bunaさんのコメントを踏まえた上での考察ではありましたが、かなり多くの主観が入ってしまっています。

そのため、皆さんが楽曲をより楽しむための参考程度にとっていただけたらと思います。

皆さんにはヨルシカの新曲『アポリア』
どう感じ、どう映りましたでしょうか?

ご意見、感想お待ちしております!

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