“世界”が彼らに揺れていた~恋つばの守破離について考える~
2020年7月4日、私が最も推しているYouTuber「恋つばチャンネル」(「バイとノンケの物語-恋つば-」)が、無期限の活動休止を発表した。
休止に至った経緯はこちらの動画で詳しく語られている。
もう、待っても待っても、彼らの動画は更新されない。悲しい。彼らに会いたい。過去の動画を見直す。すると、彼らは相変わらず、画面の向こうでお互いに見つめあい、ニコニコ笑いながら話している。夢と希望がいっぱいの、幸せそうな顔で。私は活動休止のことなんて忘れて、つい一緒になって笑ってしまう。
(左から「恋つばチャンネル」のつばさくん、れんくん)
ハッと我にかえって思う。こんな時ですら、幸せな気持ちを分け与えてくれる彼ら。私にとって、ファンにとって、恋つばって本当にかけがえのない存在だ。
ここで今一度、振り返ろうと思う。
彼らの動画の魅力って一体なんなのだろう?
そして、恋つばが目指してきたことってなんだったんだろう。
恋つばの物語はみんなの物語
恋つばの動画の魅力はなんだろう。
恋つばの動画の視聴者は、最初はLGBT当事者の割り合いが多く、徐々にBL(ボーイズラブ)好きの、いわゆる腐女子が増えていった。その他に、もちろんLGBT当事者でもなく腐女子でもない視聴者もいる。年齢層も、10代の学生から40代以上までと幅広い。そんなさまざまな人たちを惹きつけていたものとは。
私が感じる彼らの魅力は、過去のnoteに書いた通りだ。
すなわち、心にしまいこんでいたせつない感情を喚起させ、現在の自分に影響を与えてくれるところ。
そして、動画を見ることで喜びや幸せをくれるところ。
それも彼らの関係性に魅力を感じたからに他ならない。家族でも恋人でもない、でもそれ以上の絆で結ばれている2人。
Twitterで流れてくるファンの方たちのタイムラインを見ると、やはり彼らの関係性に魅力を感じての呟きが多い。
最も多いのが「エモい!」という感想ではないだろうか。“BL系YouTuber”らしさを感じる企画内容の中に盛り込まれた、せつなくてグッとくるシーンが数多くあるから。
あるいは、彼らを見て、過去に愛を育んだ恋人を思い出した…。忘れかけていた絆を思い起こさせた…などという感想もしばしば見かける。
また、彼らの語る言葉に、なにものにもとらわれない“自由”さを感じ、憧れる人もいる。
つばさくんがあっけらかんとセクシャリティの話をしているのに勇気づけられ、自身のセクシャリティについての悩みを吐露したり。
れんくんが、つばさくんの発言を丸ごと受けとめて「ありのままがいい」と言ったことで、“自分もれんくんのような友人が欲しい”と思ったり。
つまり、さまざまに興味を持った人たちが動画を見る内に、彼らの関係性に魅力を感じ、次第に人間性を愛し、行動や考えに共感し、新たな気づきを得たり、変化を起こすきっかけになったのだ。
ではなぜ、視聴者は恋つばの2人の考えにこんなに共感するのか。
それは、「面白かった」という感想だけにとどまらない、見た者の心を捉えて離さない“何か”があるから。
その“何か”とは?
私は、“普遍的なテーマ”ではないかと思う。映画や小説を観たり読んだりして、多くの人が主人公に感情移入したり感動したりするのは、そこに“普遍的なテーマ”が存在するからだ。恋つばの動画も映画や小説と同じように、誰もが心に秘めていた“普遍的なテーマ”が見え隠れしていると考える。見た人はそこに共感し、自身のことに投影させるのだ。
例えば…
“好きな人の笑顔のために頑張る”と誓う告白の回。
お互いの優しさといたわりの上に成り立った伝説の生放送。「優しい世界が広がって」いると語ったLGBTについて。近くにいる人の心の機微を見つめ直す「つばさ王」。気恥ずかしいほど真っ直ぐな愛こそが幸せだと教えてくれた指輪の交換。
“信頼とコミュニケーション”が何よりも大切と説いた性愛の話…。
動画を見た後に、何時間でも語りたくなるような、恋つば特有の温かみがうかがえるテーマたち。
そして、私たちは知っている。
つばさくんの目をじっと見つめて話すれんくんの誠実さ。
つばさくんがれんくんに触れる時の愛おしげな手の動き、ハグやキスをする時の、相手に対する細やかな気づかい。
(ファンクラブ限定動画より)
そして、口では嫌がる素振りを見せながら、いつもつばさくんを優しく受け止めるれんくんの度量の大きさを。
私たちは2人の豊かな表情、心の揺れや高鳴り、繊細な体の動きに恋をして、そこに盛り込まれた“普遍的なテーマ”を感じとってきた。
その上で私たちは、2人の大切な物語を、まるで自分たちの物語であるかのように身近に感じていたんだ。
補足・なぜ「バイとノンケの物語」というタイトルにしたのか
私は、この“普遍的なテーマ”を盛り込んだ動画作りは、初めから恋つばの狙いだった、と推測する。映画や小説のように、その世界観に共感し、心を揺さぶる動画を作ることで、他のチャンネルとはひと味違う独自性を出す。狙いというよりも、気概という言葉の方が合っているかもしれない。
だから、彼らはわざわざ動画のタイトルに「物語」を入れたのだと思う。彼らがお互いに語り、触れ合い、感じ、育んできたものを紡いでいく「物語」。「物語」には必ず普遍的なテーマが潜んでいる。「バイとノンケの物語」も然り。さりげなく普遍性を盛り込み、私たちを特別な世界にいざなってくれていたのだ。2人とも、なんというストーリーテラーだろう。
つばさくんは以前から、愛読書として「源氏物語」をあげていた。これこそが恋つばの動画の原点なのかもしれない、と私は思う。
恋つばが体現しようとした守破離のこと
次に、恋つばが何を目指してきたかについて。
恋つばは2020年5月30日、「お知らせ」という動画をYouTubeにあげた。そこには神妙な面持ちをした2人が、1万回の筋トレにチャレンジした後でポッキーゲームをしてキスをすることを発表。最高のステージを用意して、お互いのありとあらゆる感情を1回のキスにぶつけるという。
「紆余曲折の果てに交わすキスはどういうものなのか」「僕らも視聴者も誰も予想がつかない、僕らの心情の変化」を楽しみに見て欲しい、と宣言した。
彼らはその名の通り、約12時間に及ぶ筋トレをするなかで、困難を乗り越え、体の痛みに耐え、お互いを励ましあいながら1万回を達成して、無事フィナーレを迎えた。
それだけには飽きたらず、翌月には12時間「HANDCLAP」を踊り続け、達成後にキスをするという企画を行った。
私は2つの動画を追いかけ、笑い、時にハラハラし、彼らとリアルタイムの感情を共有し、最後は感動をもらった。
けれど、実はずっと疑問に思っていたことがあった。
彼らは何故、これら2つの企画をやろうと思ったのか。
そして、どうしてこの挑戦を経て、7月から田舎に移住しようと思ったのか。
最近になって、見えてきたことがある。それは、彼らが「守破離(しゅはり)」を体現したかったのではないか、ということだ。
守破離ってなに?
(この章は、「守破離」を知らない方に向けて書きました)
私が「守破離」という言葉を知ったのは2年ほど前のこと。教えてくれたのは、創業100年を優に超える老舗企業の社長だった。
当時私は、中小企業の社長インタビュー記事を書く連載の仕事をしていた。さまざまな業界の、バイタリティにあふれる社長の話を聞くのは大変面白く、常に刺激をもらっていた。
件の老舗企業の社長は、時代の波に乗り遅れ、家業がピンチに陥っていたときに先代の後を継ぎ、次々と改革を起こして見事に会社を立て直した人だった。
改革が成功した秘訣を尋ねると、彼はこう言った。
「それはね、『守破離』の精神ですよ」
「…『守破離』?」
「ご存じないですか? 『守破離』は日本において、茶道、武道、芸術などの文化が発展、進化してきた創造的な過程のベースとなっている思想です。『守』『破』『離』の3段階のプロセスを経て達成すると言われています」
「それぞれに教えがあるのですか?」
「ええ。噛み砕いて私流に説明しますね。
『守』は伝統を守りなさい、ということ。まずは先人の教えを真似て実践してみること。そして、伝統を守って理解したならば、次は『破』です。既存の形を打ち破りなさい。自分流の形を見つけて構築しなさい、ということです。それを達成したならば、次は『離』です。本来のところ、伝統から離れて新しいことにチャレンジしなさい、という意味です。
この『守破離』の考え方は、人が成長し、成功するために欠かせない道すじです。
『守』『破』『離』のどれが欠けてもダメだし、どれか1つの所で立ち止まってもいけない。常に先を見据えてアイディアを出して実践しなければ、成功には導けないんです。
私は社長に就任した年に、我が社にとって必要な言葉であると思い、経営指針として、この言葉を選んだんですよ」
恋つばの守破離
「守破離」の考えを恋つばに当てはめると、こういうことになる。
YouTubeを始めた当初は、いわゆる“BL系”らしい企画、あるいはYouTuberらしい企画を実践していた彼ら。
例えばポッキーゲームやカードゲーム、ルーティーン企画などの初期の動画が該当する。
もちろん彼ららしさはあるものの、まずは「守」の部分である、先人の教えを真似て実践してみること、に倣った動画をあげていたように思う。
それを充分に咀嚼したあとに出てきたのが、「破」の動画。
私が思う恋つばの「破」は、次の3種だ。
まずひとつめは、新たなキャラクターを登場させることで視聴者に切なさを喚起させ、なおかつ“本人”との複雑な三角関係をも想像させる、れん(20)が登場する動画。
2つめは、映画のような叙情と、余韻のある映像美を全面に打ち出した「キスは突然訪れる」。
そして、約12時間に及ぶ筋トレとHANDCLAPの末にかわすキスの回だ。
いずれも、“BL系”や、いわゆるYouTuberらしい形を打ち破り、恋つばらしい形を探し、構築した末に生まれた動画だと思っている。
そして、最後の「離」。これは、本来なら7月から始まるはずだった、田舎での生活に他ならない。
ファンクラブ限定の生放送で語られた新生活の構想は、まさに「伝統から離れて新しいことにチャレンジする」という、「守破離」の最終段階である「離」そのものだった。
思い返せば、彼らはもの凄いスピードで進化をしていった。私たちファンも、時には理解が追いつかないほどの速さで。その舞台裏で、彼らはどれほど考え、話し合い、迷い、悩み、そして決断を繰り返したのだろう。
ファンの欲目だろうが言わせて欲しい。この規格外の発想と実戦力とカリスマ性を併せ持った恋つばを理解するのには時間がかかる。だって彼らはいつも、ずっと先を見据えて色々なことにチャレンジしてきたのだから。それを誹謗中傷によって奪われてしまった。私たちファンも悲しいが、誰よりも悲しく悔しい思いをしているのは恋つばの2人だ。道半ばで希望の翼をもぎ取られた辛さはいかばかりかと考えると、本当にやりきれない。
2人の新しい世界へ
彼らが「守破離」という言葉を知っててやっていたのか、それとも全く知らなかったのかは分からない。
きっと、彼らの1ファンである私の勝手な憶測に過ぎないのだろう。
でも、確かに言えるのは、イケメンではあるけどどこにでもいそうな、普通の25歳と23歳の男の子(あえて男の子と呼ばせてもらう)2人が“1カ月後にチャンネル登録者数が1000人いったらいいね”と言い合いながら「恋つばチャンネル」を始めたこと。
そして最後は、2人で手を取り合いながら自らの限界を突破することに挑み、満身創痍の中、誰もが感動せざるを得ない、親愛の情に溢れたキスで締めくくったことだ。
そこに至るまでには数々のドラマがあった。
結成後たった20日で、せつなさと情愛に満ちた、視聴者の度肝を抜くドッキリ企画をやってのけ、1万人以上のチャンネル登録者を獲得した。
その後、たくさんのファンとTwitterのタイムラインやDMで絡み、みんなの悩みに答えたり、意見や要望を聞いたり、冗談の応酬をして交流を深めあった。
それに少しでも触れた人たちは2人を“もっと見たい”と願い、彼らはそれに応えるべく、ファンクラブを立ち上げた。
事務所に所属していない彼らは、たった2人でファンクラブの運営をし、限定動画や生放送を企画・配信し、時には場を荒らす人たちの対応までした。
その間にも動画内において、れん(20)、つばにゃん、れん蔵…数々の愛おしいキャラクターを生み、たくさんのファンから支持された。
さらに、彼らはそれに飽きたらず、12時間筋トレやHANDCLAPに挑み、2人のキスの尊さを身をもって証明してくれた。
そして、今までいた場所から飛び出して、新たな道に進むことを示唆してくれた…。
◇◇◇
何故この男の子2人にそれができたんだろう。徐々に骨太で、熱くて、愛に溢れた動画を私たちに見せてくれた理由。
それは彼らが常にお互いを尊重し、信頼しあうことで揺るぎない愛情を育み、数々の逆境にも負けない強い心を保ち続けたから。そして常に恋つばの成長と発展を考えて企画を考えてきたことに他ならないと、私は思う。
彼らは、常に謙虚な気持ちでファンに向き合い、溢れる思いやたくさんの意見、時には“好き”が高じて出てきた苦言でさえ丸ごと受け止めてくれた。
もう一度言うけど(「大切なことは2回言う」のがつばさくんの口ぐせ)、ごく普通で、見た目がちょっとチャラいくせに純粋な心を持つ25歳と、心の奥底に“KOSUMO”を秘めた23歳が、ここまできめ細かく接してくれたのだ。
彼らは私たちファンを自分達の船に乗せてくれ、精一杯、同じ景色を見せようとしてくれた。
ファンにとって、こんなに幸せなことがあるだろうか。
その日々は本当に楽しく、嬉しく、時に歓喜の涙を流すほど尊いものだった。
でも、私たちはもう、その船から降りなければならない。
だって彼らは、2人で航海することをやめたのだから。
淋しいけれど、私たちは静かに見守るだけだ。
◇◇◇
私は未だに、この悲しい事実を受けとめられない。彼らが残してくれたたくさんの動画を見返して現実から逃避している。
活動休止後、ファンの多くは「今までありがとう」と感謝の言葉を贈っていた。
なのに、私はなかなかこの言葉を出せずにいた。これを言ってしまったら、もう恋つばに会えないと認める気がして、怖くて言えなかった。
でも、現実世界での彼らの「物語」はまだまだ続いていく。だから私もみんなと同じように、一旦区切りをつけて、彼らの未来にエールを贈らないといけない。
れんくん、つばさくん、ありがとう。どうかこれからの人生が幸せに満ちていますように。
2人が私たちの世界を揺り動かしたことを、決して忘れない。
※本noteのタイトルは、こちらの曲のタイトルをアレンジしました。恋つばのファンクラブ加入者にとって思い出に残る大切な曲です。