世界の美しい瞬間 4
4 空気感染
唐突だが、菌の話が好きだ。
と言ったら、汚い話と思われがちだが、
わたしたち人にとって有益な菌の無限の可能性を語るのが好き、ということだ。
汚いと思う人は別に読まなくて良いが、
この世界からすべての菌がなくなったら、瞬時にわたしたちは死ぬのだ。
と、いうかたぶん地球の生物いなくなる。
それだけ菌や微生物が、どれだけのことを淡々としてくれているか……みたいなことを語ること。
学者でも研究者でもないから、そこを数字にしたり証明するとかはプロに任せるが、
わたしは単に菌がどれだけすげぇのか、
微生物いけてる~ということを共有できる誰かと顔を見て話すと楽しい。
かの南方熊楠が顕微鏡を覗いて粘菌に宇宙の理を読んだように、
それとはだいぶんレベルが違うのだろうけど、
とりあえず微生物にいいねをあげたい。
ざっくりと、乳酸菌のような善玉菌のことなのだが、お酒や味噌や醤油を発酵させてるのも菌だし、この醸す、という文化は世界でも日本が極めて突出しているようだ。
腸内をフローラにすると健康的だよね、というのも
なんだか最近は普通になりつつある。
さて、その乳酸菌のプチセミナーに参加したのだが、
善玉菌の研究所員、善玉菌を有用化した物品の会社の方、それを扱う販売会社の方の中、
単なる善玉菌好きの一般人はわたしだけだった。
最初研究所の方のお話はかちこちとマニュアルに沿って流れて行ったが、それ以外のわたしたちが、途中から「善玉菌すっげぇえ!!」という熱を抑え切れず、質問や体験談をみんながシェアし始め、
最後には、セミナーなんだけど、善玉菌マニアが語り合う会みたいになった。
年代も性別も関係なく、間違いなくここにお酒あったら、ビールだろうが日本酒だろうが何だろうが
「この酵母は……」「酒蔵の麹菌が生き生きする生育環境ってさ……」などと語りながらいつまでも飲めるに違いない雰囲気だった。
そして、セミナーの最後、解散前になって
それまで菌関連のことだけ話していた研究所の方が、突然言い出したのだ。
「じゃあ、今から宴会芸します!」
そう言って、三人ほど芸能人の物真似(しかも似ていた)をしてくれた。
びっくりした。
だが、その元々決めてすらいなかった、意外性のある、全く流れに関係もないサービスをやろう!とやって下さった研究所の方、
そうしよう!と思わせる場になった、あのセミナーを受けた部屋の空気感。
それが、何とも言葉にできないシンクロナイズであり、美しい瞬間だった。
爆笑のうちにセミナーはお開きと相成った。
わたしはその場にいた人たち全員と、握手をして帰った。
きっと、人生のうちで、後何回会うか分からないし、ひょっとしたらもう二度と会うこともない人たちかも知れない。
でも、この時空間、確かに共有しあい、
その人たちにしか持ち得ていないものを、
互いにシェアしたのだ。
この雰囲気を言葉にするには、
色んな表現方法があると思う。
ただ、善玉菌好きのわたしは、
この互いの共有を、
美しい空気感染だな、と感じた。
追伸:
ついでにびっくりしたが、
この翌日に、このセミナーの参加者の内のお一人にばったり会った。
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