社会と共創する熟達の実践 by Akiyoshi|Reapra Book 2022
第一章:社会と共創する熟達
1-1. 社会と共創する熟達とは
はじめに社会と共創する熟達とは何か、必要とされる背景、そして実践するためのプログラムであるIFDとFLPについてご説明します。
私たちは、社会と共創する熟達とは「世代を跨ぐほど長い時間軸の社会課題を解決するリーダーシッププログラム」であると位置付けています。特に「世代を跨ぐほど長い時間軸」というところが、社会と共創する熟達のポイントです。なぜなら時間軸が長いということは、それだけ未来予測が難しくなるということであり、それゆえに未来に向けて不確実性や複雑性も高まるからです。また、時間と共に社会は動的に変容していくので、世代を跨ぐほど長い時間軸の社会課題を解決しようとすると、その動的な変化を踏まえながら進んでいかなくてはなりません。そのような環境設計の中で、未来のありたい姿を達成するために進んでいくには、今の自分が想像できる解決策以外の可能性を考慮し、「自分が正しい」「やりたいようにやる」といったように自我を硬直化させるのではなく、自分の内面に目を向けて柔軟に自我を変容させながら、巻き込んだ人と共に熟達していくことが必要となるのです。
一方で、短い時間軸での社会課題解決を行う場合は必ずしもこの限りではありません。この場合すでに課題が顕在化しているため、解決をするための確実性の高い戦略と遂行が求められます。そこに適した人物も自我を変容させていくというよりは、戦略と遂行にフィットした自我を持ち、内面変容に気を取られることなくスピーディーに走り切れるような人物が合致するのかもしれません。そのため、そういった領域は社会と共創する熟達の領域ではなく、あくまでも世代を跨ぐほど長い時間軸の社会課題、つまり次世代の社会課題の解決を目指すリーダーにとって必要なプログラムだと考えています。
1.2 社会と共創する熟達が必要な背景
次に、次世代の社会課題を解決していくリーダーに私たちが社会と共創する熟達が必要だと考えている背景についてご紹介します。ここでは社会の変化の速さがポイントとなります。
これまでの社会の変化の速さは百年、数百年単位くらいでした。なので、人間個人が生きている時間軸の中で自分の自我が社会とフィットしていれば、硬直的な自我であったとしても幸福に生き抜くことができました。しかしながら現代はVUCAと言われるように、社会の変化の速さが急速に高まっています。これまで百年、数百年単位で起きていたような変化が10年20年単位で発生し、今後その変化がもっと早まっていきます。社会はどんどん素早く動的に変化していくので、今この瞬間幸せを感じられるような自我と環境のフィットがあったとしても、長い時間軸の中では変化する環境と硬直的な自我とがフィットしなくなり、幸せを享受しにくくなる可能性も十分に考えられます。こういった環境の変化を背景に、人間個人が長期持続的に幸福を感じながら過ごしていくためには、社会と共創する熟達という自我変容を伴う柔軟な学び方が有効なのではないかと考えているのです。
1.3 社会と共創する熟達を支える2つのプログラム
本章の締めくくりとして、社会と共創する熟達のジャーニーを歩むための2つの重要な要素をご紹介します。
①IFD(Intensive Foundation Design)
②FLP(SO)(First Learning Practice , Strech Operation)
社会と共創する熟達の実践に進む前に、IFDの中で自身の「らしさ」を含む唯一無二の熟達テーマを紡ぎ出しこれまでの学び方を解体することで学習変容の土台づくりを行い、FLPを通じて不透明な環境における探索と作り込みを同時に行う学び方を再構築していきます。
第二章:IFD
2.1 IFDとは
本章ではIFDについて解説します。
IFDとは「社会と共創する熟達の実践を通じて、次世代の社会課題の解決を株式会社というシステムから始めて産業及びそれにまつわる概念を作っていく人が、Reapraと共に学んでいくための事前準備(土台作り)」のことです。
IFDを通じて、大きく以下の3つを紡ぎ出します。
①自身の学び方の癖(asisを知る)
②ありたい姿、長期の時間軸で執着できるテーマ(tobeを描く)
③学習変容に適した実践の入り口
世代を跨ぐ社会課題解決を推進するリーダーシップを育むために、自分自身の過去から現在までの道のりを振り返り、自分がどこにいるのか(①)、どこに行きたいのか(②)、そして入り口はどのような環境を設定し学び直しを行うのか(③)を描いていきます。学習変容を伴う実践の場を設定するために、過去から現在にかけて環境と相互に作用しながら育まれた自我(らしさ)を知り、その「らしさ」を含んだ未来のありたい姿や「らしさ」がゆえに執着できるテーマ(領域)を紡いでいくのです。
2.2 IFDの対象者とタイミング
IFDは「社会と共創する熟達を通じて次世代の社会課題を株式会社というシステムから入って解決していく人」を対象としています。学習の脱構築がなされるがゆえに初学者マインドで学び直しをするレディネスが整っていることが条件です。これまでの生き方では未来に幸せを見出せないと感じている自我喪失の状態にいる人はIFDを実施するのに適しています。逆にこ、れまでの成功体験などに紐づく学習の仕方を手放すことへの恐れが強い状態ではしなやかな学習変容を促すことが難しいため、2022年現在のReapraが共同学習を通じて変容を促すことができるケイパビリティを踏まえると、IFDを実施するタイミングを見直した方が良いかもしれません。
2.3 IFDの7プロセス
IFDは下記の図に示されている7つのプロセスで進みます。
IFDの7プロセス
①社会と共創する熟達の概念理解
②「らしさ」の紡ぎ出し
③ライフミッションの言語化
④マスタリーテーマ/コーポレートミッションの言語化
⑤ビジョン
⑥短期目標
⑦支援体制
ただし、プロセス=工程と言ってはいるものの必ずしも順番に進むとは限りません。対象者の状態や必要性に応じて、前のプロセスにステップバックすることもあります。そして、全てのプロセスは6.短期目標(学習の癖を修正する陳腐な入り口とストレッチターゲットの設定)に有機的に関連しながら進みます。
【①Reapraと共に「社会と共創する熟達」をするための概念理解】
Reapraと一緒に社会と共創する熟達について理解を深めます。こちらについては「第一章:社会と共創する熟達」を参照してください。
【②「らしさ」を知る】
このプロセスでは、生まれてから今に至るまで環境と相互に作用しながら育まれた自分の「らしさ(自我)」を見ていきます。
まずは乳幼児期(就学前の0歳〜6歳)に持っていた無条件の安心/安全と、それがあるがゆえに自由に冒険できていたことを知り、思い出しましょう。同じ”自分”という人間が、何かに恐れるというバイアスを持っているわけではなく、どんなものにも目を見開き手を伸ばし、未知のものに触れながらできないことをできるようにしようとしている姿は、自分の人生において最も学習態度が開かれている状態と言えます。つまり乳幼児期の安心安全と冒険を見ることで、自分の学習の上限値を確かめることができます。どんな人にも環境から安心/安全・冒険に条件がつきます。どのような環境においてどのようなバイアス(社会に対する見方の偏り)が育まれたのかを知ることで自身の「芯を食ったらしさ」を知ります。
そして、時間を乳幼児期から現在に進めながら、これまでの人生を通じてそのバイアスがどのようにアップデート(強化・変容)されたのかを観察します。
私の場合、家族との関わり合いから自分自身のらしさが形成されました。0歳から3歳くらいまでは幼少期の自分の見えている社会が家族・親戚までの範囲に閉ざされており、その家族から十分な安心安全・愛情を、また2つ年下の弟には未知のものに触れていく冒険の共同や伴走・足場掛けをもらっていました。その後、幼稚園に入園し環境が変わり社会が広がる中で、安心安全の基盤である家族(特に母親)から引き剥がされて多くの子供の中に飛び込まねばならず、そこででパニックを味わっており、家族以外に対する恐れや苦手意識が芽生えました。家族以外からは安心安全を享受しにくいと感じ、恐れから社会に対しては従うという行動を取り周りと当たり障りなく調和することを自分の生存戦略としてきました。
※参考文書:「生きづらさ」が未来の社会課題を解決する――REAPRAグループCEO 諸藤周平氏の内面に向き合う起業家支援とは
【③LifeMissionの言語化】
②のらしさを知るプロセスでは「過去から現在」にかけての自分のライフストーリーをウォークスルーしてきました。次のLifeMissionの言語化においては「未来」のありたい姿を描きます。LifeMissionとは「自分自身の芯を食ったらしさ(もっとも昔から今にもつながり脈々とアップデートされてきた自分を駆動しているエネルギー源)を含んだ未来のありたい姿」を意味します。LifeMissionには社会性を含んでいる必要性はなく、個人的なありたい姿を過去の囚われや現在の社会から求められる制約に惑わされず、「芯を食ったらしさ」を元に言語化しましょう。
私は「人類みな家族」というLifeMissionを掲げています。当然のことながら生まれた時は「家族」という概念を持ち合わせていたわけではなく、境界線を引くことなくどんな環境やどんな人からも安心安全を享受したいしそれができていたはずでした。たまたま私の周りの環境から家族となら安心安全をもらいながら一緒に冒険ができるというバイアスが築かれただけです。そのため、IFD実施以前にも家族を幸せにしたい(それにより自分の安心安全、冒険が担保される)というエネルギーがありました。このエネルギーを建設的に活用し、家族”のみ”という限定性を持たさず、未来になりたい姿としては、どんな人に対しても家族のように相手の幸せを願い、支え合い、多様な距離感で繋がり続ける関係を構築していきたいと願っています。
【④MasteryTheme / Corporate Missionを紡ぎ出す】
次のプロセスでは、先ほど紡いだ個人的なありたい姿である「LifeMission」に社会性を帯びさせます。1世代を跨ぐ程度の長期の時間軸で顕在化する社会課題と、自身のらしさを含む未来のありたい姿である「LifeMission」をオーバーラップさせて、「社会と共創する熟達」を通じて構築していく概念を紡ぎ出します。すでにLifeMisson自体に社会性を含んでいるケースにおいては、LifeMissionとMasteryTheme(Corporate Mission)は同一の言葉になる可能性もあります。
【⑤Vision設計】
Visionという言葉にはそれぞれの定義があるかと思いますが、ここでの「Vision」は「時間軸を含んだありたい姿・マイルストーン」を指します。例えば、2050年にMasteryがどこまで進んでいると嬉しいかを「Vision2050」として示します。
前のプロセスで紡ぎ出したMasteryTheme(Corporate Mission)に対して、中長期の時間軸におけるありたい姿を設計します。時間軸は人により異なりますが、おおよそ10-30年程度の未来におけるありたい姿をイメージします。今の姿からボトムアップに積み上げて未来を描くのではなく、一番遠くのありたい姿からトップダウンに設計し、ブレイクダウンしながら現在に近づけていきます。例えば、2052年(30年後)のありたい姿を設定した後に、2037年(15年後)、2027年(5年後)の順にデザインします。遠くの時間軸のVisionほど抽象度は高く、手前になるほど具体性が増します。手前の時間軸まで設計したら今度はボトムアップに遠くのVisionとのつながりを確認し精緻化していきます。
ただし、まだ実践をしていない段階で描けるVisionはどこまで行っても解像度は高くありません。あくまでも初期段階では抽象的にでもありたい姿を設計し、この後の実践を通じて見えてきた事象をもとに毎年Visionをアップデートしていくことで時間を経ながら精緻化が進んでいきます。
【⑥短期(6-12ヶ月)の目標を作る】
次に短期(6-12ヶ月)の目標を決めます。短期目標を設定するにあたって下記の3つを設定します。
①エントリー(陳腐な入り口)の設定
②学習の癖(comfort/panic)の特定と変容した姿の設定
③ストレッチターゲットの設定
①エントリー(陳腐な入り口)の設定
まず最初にエントリーとしての実践領域の設定を行います。社会と共創する熟達のエントリーにおいては「陳腐な入り口(Boring Entry)」を選定することが重要となります。「陳腐な入り口」とは、以下の4要素がそろっている領域を指します。
陳腐な入り口の4要素
①新規性・創造性を排除したもの
②学習行為が可視化できるもの
③過度に混み合っていなくて、圧倒的に強い競合がいないところ。
④トランザクション数が多いもの
新規性・創造性が排除されており他にも競合プレイヤーがいる既に存在しているマーケットであること、言い換えると中小事業者が多数生き残ることができていて、自分たちが集中して作り込めば高い成果(=利益)を出せると信じられる場所を指します。IFD後の実践(FLP)においては、自分の学習の仕方を変容させることが大きな目的になりますので、陳腐な入り口(プロダクト)を選定し、マーケットの有無を言い訳に実践が進まないことを防ぎます。
②学習の癖の特定と変容した姿の設定
次にこれまでのIFDを通じて見えてきた自身の「学習の癖」の整理と変容した姿を設定します。自我と環境の相互作用により作られた自身の「学習の癖」の中には、Mastery(Mission) / Visionを推進する「慣れている行為 / 強み / 得意 / ComfortZone」となる側面もあれば、それを推進するのに本当は取り組んだほうが良いのだが見ないようにしている・逃げ続けている「不慣れ / 弱み / 苦手 / PanicZone」の側面もあります。この後の実践であるFLPを通じて、この「慣れ」と「不慣れ」を学習行為(LearningZone)に変えていき、学習変容を促します。
さまざまな癖があると思いますが、網羅的に列挙するよりもMastery(Mission) / Visionを推進するのにクリティカルな「慣れ」と「不慣れ」を特定します。そして、短期目標の時間軸(6-12ヶ月)における変容した姿を目標として設定します。
慣れていることは、そこにとどまり続けるのではなく、他者を育成し他の人の学習の支援や組織知にするための一般化を目標にすることで、学習行為に変えていくことができます。また、不慣れで避け続けていることに関しては、少しずつ実践を通じてできることの範囲を広げていきます。広がった先に12ヶ月後にはこれくらい進んでいると嬉しいという姿を目標として設定します。
ちなみに、学習変容した先には次の学習の癖が生まれます。今回設定した学習の癖を修正するアプローチが進めば終わりがあるわけではなく、動的に変容する自我や学習の癖に合わせて目標を洗い替え続ける行為は「社会と共創する熟達」の旅を歩む限り永遠に続いていきます。
※参考文書:コンフォートゾーンとは、そこから抜け出して成長する方法とは?
ストレッチゾーン?パニックゾーン?
③ストレッチターゲットの設定
実践領域となる陳腐な入り口で、学習の癖を修正するのに適した目標を設定します。繰り返しになりますが、環境と相互に作用して自我は育まれます。これまでの学習の仕方でクリアできる環境(目標)の中では自我・学習の仕方が変容する必然性がありません。これまでの自分のやり方では到底辿り着かない高い目標(ストレッチターゲット)という環境を設定することで、高い成果を出しながら学習変容を促します。
期間は長くとも12ヶ月とし、中長期のありたい姿・Visionと比べると具体的で明確な目標を設定します。
まずは定性的に12ヶ月先に「XXXな状態」というなっていたい姿を設定し、それを計測するにはどのような指標で評価すると良いかを定量化します。事業を営む起業家の場合は、定量目標は主に営業利益がKGIとなります。
私の場合、陳腐な入り口を「社会と共創するマスタリーの学習支援」としFLPを実践しています。比較的難易度が低いターゲット(学習コンセンサスが揃っている学習者)を対象に、学習者の学習重心をステータスマップに照らして一段階前に進めることをストレッチターゲットとしています。
【⑦学習の支援体制を作る】
いよいよIFDにおける最後のプロセスです。
この後の実践においては、自身の学習の癖に気づき続け、慣れていること・不慣れなことを学習行為に変えていくことになります。慣れ・不慣れは、これまでの環境と相互に作用しながら作られている自我・学習の癖から見えない・見ようとしない盲点となっている事柄なので、気づきを得るにしても打ち手を打つにしても、自分一人で実践することは非常に困難です。そこで必要となるのが支援者(伴走者)の存在です。社会と共創する熟達を歩むもの同士で学び合い、時には足場をかけてもらいながら学習を推進していきます。この後の実践に向けた体制として支援者をアサインします。
また日々の実践に欠かすことができないのがダッシュボードです。こちらは次章で詳しく解説します。
第三章:FLP
3.1 FLPとは
IFDを修了し、いよいよ社会と共創する熟達の実践へと移ります。本章では、FLPとは何か、どのような行為なのかをご紹介します。
FLPは初期学習実践(First Learning Practice)の略語で、社会と共創する熟達の初期段階での学習変容プロセスです。「学習」という言葉についてもそれぞれの理解があると思いますが、ここでは「できないことをできるようにしていく行為」を指します。全章でも触れたように、自分の内面にも目を向けながら、Comfort / Panicを学習行為に変え、不透明な環境における探索と作り込みを行う学習の仕方を習得していきます。
学習者自らがFLPを実践し、高い成果(ストレッチターゲット)を実現し、何よりも自己変容・学習変容が進んでいる状態を目指します。そして、習得したFLPを自身で継続しながら巻き込んだメンバーに提供し、初期プロダクト(陳腐な入り口)の引き継ぎ(デリゲーション)を行い、自分が離れても業績が維持向上される状態、またいざといなれば有事には自分がオーナーとして戻れば業績を立て直すことができるという状態になれば”初期”学習は修了を迎えたと言えるでしょう。
3.2 FLPの対象者
FLPを開始するには、まずIFDを修了していることが条件となります。さらに、社会と共創する熟達への深い理解と動機があり、これまでの学び方を脱構築できる状態にある人(人によっては自我喪失を経ている必要がある)が対象となります。
3.3 FLPに欠かせないダッシュボード
FLPに欠かすことができないツールがダッシュボード(DB)です。ダッシュボードとは、ありたい姿(tobe / 目標)と現在地(asis / 実績)を可視化し続けて、学習の進捗を把握するためのモニタリングツールです。
日々の支援者との対話は一緒にDBを見ながら行います。初期の頃は、特にジェネラルコンディションやタイムマネジメントに注意を払いながら、支援者と共に情動の機微を起点とした施策・クイックアクション(QA)の創出・実践・振り返りを行います。
3.4 ダッシュボードでのモニタリングエレメント
この後に説明するDBの構成要素は以下のような関係性になります。
まずトップページがなりたい姿(to be)と現在地(as is)を示しており、下位のエレメントを統合しています。成り行きでは到達しないストレッチなターゲットを設定しているので、初期学習をスタートする段階においては着地見込みはビハインドしている状態にあります。この着地見込みを目標に近づけるために施策を打ちます。そこにおける施策は情動の機微を起点とし、学習の癖を変容させるアクションとなるのがポイントになります。その施策を大量に想起・実行するためにジェネラルコンディションやタイムマネジメントが関与してきます。
では各ページの詳細を見ていきましょう。
【トップページ】
トップページは大上段のページになり、ストレッチターゲット(目標)・実績・着地見込みが可視化されています。事業の場合は営業利益をKGIとし、PLと重要KPIが示されることとなります。
【情動の機微を起点とした施策出し】
初期学習においてコアとなる行為がこの「情動の機微を起点とした施策出し」です。そもそもストレッチターゲットを掲げているので、現在のやり方では到達しえない状態からスタートしています。初期の頃の着地見込みは30-50%といったところでしょうか。この着地見込みを変動させるために「施策」を講じていく必要があります。そして、どんな学習も起点は「情動」にあります。情動とは「五感を含む身体の生理的反応」のことを指します。例えば、頭に血がのぼる、鼓動が速くなる、汗をかく、涙が出るなどが情動反応です。この情動を起点とし、陳腐な入り口の目標に影響を与える施策を立案・実践します。この時、立案される施策はこれまでの自分の学習の仕方に閉じたものではなく、変容を推進する学習行為として創出します。もちろん不慣れな行為になるので、実践に躊躇することもあるでしょう。その場合は、学習行為として適切なサイズになっていない可能性があるため、実践できる粒度まで小さく分解(クイックアクション)して、実践を促します。
情動反応を伴う事柄は多くの場合、「いつものパターン(その人の学習の癖)」で反射的に処理されがちです。情動とそれに伴う感情をしっかり味わい、どのような経験や価値観からそのような反応に至っているのかを理解します。自身の学習の癖を構造理解した上で、その感情を切り離し(切り離すためにも深く味わい手放すことが必要)、なりたい姿(Mission、Vision、短期目標)に照らして意思決定し直します(意識的再評価)。
目の前に起こる様々な事象に、「向き合いきれない。やりようがない。」と感じることもあるでしょう。そのような時は、まず大元のMasteryに立ち返り「本当にやりたいことか」の動機確認を行います。次に、今の環境の妥当性を確認します。言い換えると、過去の環境に戻りたいのか、今の環境より良い環境はないと思えるかの確認を行います。その上で意識的再評価を行い、今日実践できるアクションに落とし込むことで学習の癖の変容を促しながら、環境(事業)にも影響を及ぼしていきます。
情動からの施策出しに慣れてきたら、短期の目標だけではなく他段階の時間軸に照らして施策化し、すべてを今日実践できる行為に落とし込みます。これを「メタマルチ」と呼んでいます。これが実現できると1つのインプット(情動によるきっかけ)から複数のアウトプット(施策)に繋げることができます。
これまでは情動の機微に対しては怒ったり怖れたりするだけだったものを学習行為に変えることで、日常を含めどんなことも自身のMasteryに活用できる、インプットを建設的なアウトプットに変えていける学び方が獲得できます。
私自身、これを通じてネガティブな事象やイライラすることも前向きに捉えることができるようになり、未来に希望を感じ長期持続的な幸福感を高めることができています。
この一連の深い内省と意識的再評価はなかなか初学者が一人でできるものではありません。同じ社会と共創する熟達を歩むもの同士で共同学習し、支援者の力を借りながら進めることが学びのコツとなります。
なお、実践の初期段階でいきなり施策を想起することはハードルが高いかもしれません。まずは情動の機微を認知し、情動と出来事の記録を支援者にシェアしましょう。なかなか記録が進まない場合は、業務の終了直後や就寝前・翌朝など決まった時間をとり、1日の中で相対的に最も情動反応があった出来事を振り返ることが有効です。
【ジェネラルコンディション】
学習の仕方を変容させるにあたっては不慣れなことにも向き合っていくこととなります。その中でも前向きに初期学習に取り組めているかをモニタリングすることで、過剰なストレス状態に陥っていないか、逆に快適な環境から抜け出せずにいないかをウォッチします。施策を大量に想起・実践することと自身のコンディションの関連性を観察していきます。
【タイムマネジメント】
時間の使い方には人それぞれの癖が出るものです。
ダッシュボードで日々の時間の過ごし方をモニタリングして、FLPにどの程度重心を置けているか、また時間の使い方がコンディションを歪めるものになっていないかを観察します。
FLPではストレッチターゲットを掲げることで学習変容を促します。人によっては学習の仕方を変えるのではなく、労働時間を伸ばして今までと学び方を変えることなく実践するケースも見受けられます。このような形でタイムマネジメントがうまくできていないとコンディションを悪化させ、施策の想起・実践にも影響が及びます。
また、FLP以外の活動に重心が置かれているケースでは学習者の自我重心を動かすことは困難です。そのためFLPに重心をおくためのタイムマネジメントが必要です。前提として、人の学習の癖は簡単には変わらないため、学習の癖を変えるには集中的な実践(FLP)が必要だと考えています。ここでいう集中的とは ①頻度の高さ と ②濃度 の2つの要素に分けられます。頻度の高さは支援を日次で行うことで実現し、濃度はFLPの対象となっている取り組みに重心を置く(時間の比重が高い)ことで実現します。それが削がれていることが、学習重心がFLP以外に置かれている状態と言えます。陳腐な入り口(FLP)に重心が置かれるようにタイムマネジメントの範囲の調整を行う必要性を知るためにも、時間管理から事実を炙り出すことが肝要となってきます。
3.5 学習の伴走と支援
今まではFLPで行う学習や、モニタリングツールを紹介してきましたが、ここからはReapraのコアバリューである「社会と共創する熟達の学習変容」をどう支援・伴走するかについて記します。
まずそれぞれの言葉の定義を明確にしておきたいと思います。
学習
できないことをできるようにする行為
支援
伴走に限らず共同学習など多様な手法により、対象者の社会と共創する熟達の学習変容を促す行為全般
伴走
できないことをできるようになるために、一定程度対象者より熟達度が高い状態を重心として、相対的に構造を理解し、対象者の学習を支援する行為
支援と伴走
上記の図の通り、「支援」は「伴走」を含むさまざまな手段があり、「伴走」は一定の熟達者が非熟達者に施す支援方法です。
2022年現在のReapraのケイパビリティの重心は、まだ支援者自身がFLPに熟達しているわけではなく、「伴走」という形式というよりも、共同学習を通じて互いの学習変容を推進する「支援」に留まっている状態です。
ティーチングとコーチング
さらに支援には、ティーチングとコーチングというアプローチがあります。あるサイトではティーチングとコーチングはそれぞれ下記のように定義されています。
ティーチング:先生が生徒に授業を行うように経験豊富な人が、経験が浅い人を相手に自分の知識やノウハウを伝えるという手法
コーチング:対話を通してコーチングの受け手が、自ら答えを導き出せるようにサポートする指導の手法
※参考文書:ティーチングとコーチングの違いは?それぞれのメリットやデメリット、有効なケースをご紹介
これはどちらの方が正しいというわけではなく、支援にあたっては相手の状態に合わせて、ティーチングとコーチングの比重を使い分けていくことが望ましいと考えています。
支援頻度
学習の初期段階では支援者とどれくらいの頻度で対話をするかも大切です。初期段階においては短時間でも構わないので、頻度高くセッションし対話することが重要だと考えています。これはIFDを終えて自分の学習の癖に気づき、学習行為を始めていても、多くの場合は元の学習に戻り(現状維持バイアス)が働くのが理由です。頻度高く行うことにより、新しい学習の仕方を対話を通じて調整していきます。
コンディションチェック
支援者は対象者のコンディションをチェックすることも大切な役割です。というのも初期学習を始めたばかりの頃はこれまでの学習行為と違う意思決定と行動を行うので、コンディションが不安定になることが多々あるからです。
逆に言うとコンディションが悪くなっていない状態というのは元の学習の形で実践している可能性もあり、その場合は今一度短期目標に立ち返って実践の仕方を見直す必要があります。コンディションが不安定になりながらも前に進んでいくために学習者の状態を観察し、本人が受け止められる粒度に落とし込むような支援が必要です。
タイムマネジメント
初期段階においては、本来であればこれまでの時間の使い方と行為が変わるはずですが、えてして時間の使い方が変わっていないケースも見受けられます。
初期学習を始めた後にどのように時間の使い方に変化が起きているのか注視する必要があります。また学習者の癖によっては時間のレバーをひき過剰労働に陥る可能性もあるので、そのモニタリングも欠かせません。(対処については3.4 ダッシュボードでのモニタリングエレメントの節の、タイムマネジメントを参照してください。)
3.6 FLPにおけるTips
①施策・タスクを後回しにする
初期学習でこれまでの学び方とは違う行為をしていくので、時には苦手なものとも向き合わなければいけません。施策・タスク化されたものはやらねばならないと思っていても苦手意識などから後回しにされ、翌日への持ち越しが起こりやすいです。そのような場合は状況を支援者にも共有し、今一度適切な粒度のクイックアクションに分解しましょう。また、苦手なことを実行するためのあの手この手を実践するのも効果的です。
たとえば、やらなければいけないタスクを夕方に設定したのに、実行が翌日に回るような言い訳がでてくる場合は、朝業務を開始するタイミングで実行するようにしてみます。他には、タスクを実行することを他者(社員や共同学習者)に宣言するのも効果が見込めます。また、実行する時に自分一人でサボれる環境より誰かと一緒に作業することで作業に集中できるような環境を整えることもできます。タスクに集中する方法として、集中を削ぐ要因や誘惑を取り除くことも効用があります。(例、スマートフォンを手元に置かないこと、作業をしているもの以外のブラウザやコンテンツを開かないこと、メールの通知をオフにするなど)
②DBの運用が定着しない
これまでDBを使った学習を行っているわけではないので、今までにない習慣を取り入れようとしても定着しないことがよく起こりがちです。あらかじめ変数が多く作り込まれたDBからスタートするとつまずくことが散見されるため、初期学習を始めるにあたってはプリミティブ(原始的)なDBから始め、実践をしながら変数を足し込み作り込んでいきます。また、支援者はデイリーでDBを用いた対話をすることでDBの活用の定着を促します。
③DBの変遷を残しておく
プリミティブなダッシュボードから始め、実践を通じてダッシュボードの作り込みが行われますが、初期状態からどのように進んできたのかのバックアップがあると、どれだけの作り込みがなされたのかを視覚的にも確認しやすいです。またこれを次の学習者(自分が支援する対象)への参考資料として活用できます。
④休日への業務の持ち込み
これまでの働き方の癖から平日の深夜や休日に仕事を持ち込む人もいるでしょう。これ自体は必ずしも悪いこととは限りませんが、これによりコンディションを崩したり、学習の変容を伴わない超過勤務は初期学習の意図していることではありません。まずは実態を把握するため休日を含めた現状の時間の使い方をDBで管理し、静的に急激な変化を起こすのではなく時間の使い方においてなりたい姿を時間軸を入れて設定し、動的な変容を促していきます。(例、1ヶ月後の最終週に土日業務が0になっている状態を目指す等)
⑤業務と業務外の統合的な学び
学習の癖は業務中のみならず日常においても頻出します。情動の機微を基点とした施策出しは仕事とプライベートとを分断することなく活用します。プライベートにおける情動の機微を自身のマスタリー・エントリーにおける実践に活用できれば施策の数も増える上により統合的な変容が促されます。
⑥足場掛け
自分の現在地のレベルとそのレベルに合わせた適切な課題設定が欠かせません。具体的にはComfortとPanicをUncomfort=LearningZone(学習行為)に変えるときに適切な足場掛けを行わないと、アクションが進まなかったり、大きく失敗して恐れを助長してしまうこともあります。現在の自分のレベルに合わせた課題設定を行い少しずつ難易度を高めていきましょう。ロールプレイングゲームで表現すると、1レベルの段階からラスボスは倒すことはできません。まずは自分のレベルにあったスライムから相手にすることが適切かもしれません。現在の施策をスライムレベルにしようとするとどのような行為にできそうでしょうか。
⑦共同学習コミュニティ
2022年のReapraにおけるFLPの試行錯誤の中で、最も効用が高かった取り組みの一つが「共同学習コミュニティ」です。共同学習コミュニティではFLPを実践している起業家、Reapra社員が互いの学びや葛藤を共有しています。ここでは常に最新の実践情報があり、他者の学習状況をモニタリングできることで自分の実践に活用が進んでいます。社会と共創する熟達、FLPという共通科目を持った学習者同士で協働することで、多面的な視点を獲得し、お互いを励まし合う場となっています。この存在に勇気づけられ、挫けることなく前向きに取り組むことができるメンバーが増えているのが事実です。
参考文献
達人のサイエンス
主体的・対話的で深い学びに導く 学習科学ガイドブック
学習科学ハンドブック 第二版 第1巻: 基礎/方法論
協奏する組織―認識力ある主体の観点から
直感と論理をつなぐ思考法
両利きの経営
リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術
「うつ」の効用
自意識(アイデンティティ)と創り出す思考
エニアグラム【基礎編】
エニアグラム【実践編】
ザ・ゴール
フロー体験入門
夜と霧
仏教と科学が発見した「幸せの法則」
「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考
情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論
ポジティブ心理学の挑戦
フルライフ
ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。