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さんま寿司の宅急便 海辺の一家4


菊の香りが漂う庭先を、朝からミツバチがぶんぶん飛びまわっている。
今日もいい天気だ。

清ばあちゃんは茶の間に座りこんで 
娘一家に送るさんま寿司を作っていた。


サンマは、背開きにして内臓を取ったのを、じいちゃんが仕入れて来た。
それに塩をふって一晩ねかせておいたものだ。

朝早くから、その塩サンマを軽く酢で洗い、ピンセット片手に骨を取り除いている。 秋の風物詩みたいな光景だ。 
それがすむと、柚子のしぼり汁を使った甘酢にサンマを漬け込んでおいて
炊き上がったご飯に「合わせ酢」を混ぜてすし飯を作り
棒状ににぎったものを いくつもつくる。

その上に、汁気を拭きとったサンマをのせ、形を整えたら出来上がりだ。

その時、ニャアと甘えた声がして、むっくりした茶トラが裏口をのぞいた。
お隣の玲子さんちのトラ吉くんだ。

おばあちゃん なんか ちょうだ〜い


「あれ トラちゃん。サンマは あかんよ〜」
ばあちゃんは、そう言って大きな煮干しを出してやる。
トラちゃんは、しっぽで挨拶すると、朝の偵察に出かけて行った。


やがて、形よく仕上がった銀色のさんま寿司の上に
甘酢にさっと漬けたゆずの皮を細く切って散らし、ひとつずつラップに包む。

「開けた時に柚子のいい匂いがするし、彩りもきれいやね〜」
と娘の由紀に評判がいい。

おまけに、婿殿は初めて食べた ”さんま寿司“  をすっかり気に入って
「そろそろ お義母さんのあれの季節ですね」なんて言うから
清ばあちゃんとしても、張り切ってしまうのだった。

二人の孫 蒼太と花ちゃんの 喜ぶ顔を思い浮かべながら荷造りを始めた。

裏の畑でもらったみかん、秋祭りで拾ったお餅
その辺にあった栗饅頭などを詰め込んでから
さんま寿司をいくつも乗せてゆく。

最後に庭の黄色やピンクの小菊を添えると
素朴で暖かい、ばっちゃんの宅急便が出来上がった。

「お父さん これ送って来て」

そばでごろ寝していたじっちゃんが起き上がった。

「またえらい大荷物やな、オレのさんま寿司 残っとるか?」

「心配いらんよぉ 昼はさんま寿司や」

「よっしゃ 行って来るわ」

ひと仕事終えたばっちゃんは
じっちゃんの車の音を聞きながら、う〜んと伸びをして
サンダルを突っかけ、柴太郎をかまいに外に出た。


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