霊媒師と名乗ったあの人へ。お元気ですか。私は元気です。
銀座のバーに足繁く通ってた時期があった。20代前半で、社会人になりたてだった。慣れない上品な敬語を日中使っていると、仕事終わりに下品で汚い言葉を使いたいという衝動に駆られていた。
仕事終わりに電車に飛び乗り銀座まで赴く。夜の銀座は、疲れとストレスを抱えたスーツ姿の大人達が、いっときの開放感を求めに青春とは程遠いが、自分を発散しバカになりたい人達で賑わっていた。
それが居心地よく、私はひどく気に入り、コロナが流行る前まで毎週遊びに行っていた。
銀座のバーでは色々な人と出会い、記憶に留めるほどでもないぐらいの浅く広い会話を繰り広げた。
そこで、霊媒師のおじさんと出会ったことがある。銀座のバーのママに「すごい人。」とだけ紹介された。霊媒師のおじさんから「酒が入ると見づらくなる。」と言われたが、未来を見てもらった。
25で転機が訪れる。
27か28で女の上司からパワハラを受ける。いくら正しいことを言っても聞き入れてもらえなくて辞めたくなる。
30で新しいことを始めだす。それは形が無いもので、0から何かを作り出すもの。
と、言われた。
28までどんぴしゃりな人生を送っている。30から先の未来は教えてもらえなかったが、今年で30歳だ。当たるのか外れるのかわからないが霊媒師のおじさんに言われてから歳をとることが楽しみになった。
ブランデーを片手に最後に「幸せになれるよ。」と、言われた気がする。言われてない気もする。
どちらでもいいが、あの時、おじさんの腕にたくさんついていた数珠がバーの暗いオレンジ色のライトに照らされて妖しい光を放っていた。
仮に霊媒師と名乗る人に、「明日、頭に隕石が落ちてくる。」と言われていても本気ではしゃげるぐらいには、調子に乗っていた時期だった。
あの時もあの時で幸せだった気がする。