🍎偏差値45の教員。先生になる

「神崎先生、松田はいつから不登校ですか。」
車の中で神崎先生に聞いてみる。
「中2になってからかな。」
「何が理由ですか。」
「うん。私が嫌いなんだって。」
「え、でも今も毎週家に行ってますよね。」
「行っているね。」
「それだったら、行かなくて良くないですか。困るのは松田だろうけど。」
「今年の担任は怖いから学校に行きたくないってさ。4月にそれ言われたら私も家に行きくないけど、これも教員の仕事だから。」
と話しているうちに松田の家に着いた。公演前の古いアパートだ。車の通りが少ないので、前の道路に車を停めた。神崎先生がチャイムを鳴らす。インターフォンから松田の声で
「はい。行きます。」
と聞こえた。しばらくすると、ティシャツにハーフパンツ姿の松田が出てきた。
「元気そうでよかったよ。これ、今週のプリント。いつでも待ってるからね。」
と言った。松田は頷くとすぐにドアを閉めた。あまりにも淡白だったから、拍子抜けした。
「早いですね。」
「そうだね。担任が嫌いって言われたら、こっちも何もできないでしょ。生存確認して、虐待されてなさそうだったら終わりよ。」
と言って神崎先生は車のエンジンをかけて学校まで再び戻ってくれた。
「嫌だって言われてるのに、会わないといけないのきついですね。」
「本当にきついのは生徒かな。担任のせいにしたから、相談室に繋げたり、カウンセラーを紹介したり、そういう支援が受けられなくなったね。」
「そうなんですか。それは別な気がしますけど。」
「結局さ、担任がその生徒の担当だから担任以外が動くことはしないよね。でも、担任が嫌いって言われたら、面談とかも出来ないし、話すことができないよ。話す機会がないと提案もできないから何も助けられない。」
「そうですね。」
「最低限するけど。これ以上、関わってクレームがきて私のせいにされるのは困るからね。」
お疲れ様、と言って神崎先生は学校で私を降ろすとそのまま帰宅した。

落合先生に「どうだった。」と聞かれたので松田の様子を話した。
「松田はあのままですか。」と聞いてみた。落合先生は少し考えた後に、「松田側から何かアクションがないと、これ以上はできない。クレームが来たとき、保護者の学校批判もすごかったよ。」と言って、また仕事を始めた。何かしてあげたくても何もできない先生がいる。

生徒と先生の間は、上手く結び繋がらないことの方が多い気がする。学校生活がより複雑に絡まりながら松田も1年を過ごすことになるだろう。まだ学校が始まって1ヶ月。長い長い1年になるだろう。