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151.書き換わりゆく“ひのきしん”という労働資源の価値

長かった冬もようやく終わりが近づいてきた。

年々降雪量は数値から見れば減少傾向なのだと言われているが、体感的にはいまひとつ、どうもそんな風には感じられない。

雪質は重く、除雪作業に費やされる労力はむしろ増していっているようにすら感じられてならないのだが…。


その日、ピーナッツは、天候の安定を見計らって、屋根に上って雪下ろし作業をしていた。自宅の屋根ではない。お隣りに住んでらっしゃる独り暮らしのおばさんの屋根の雪片付けだ。

積もり重なった雪が、気温の上昇と共に一気に重くなり、家の中の戸が開かなくなって困っているのだという。

お手伝いするピーナッツ。

とはいえ、無償奉仕ではなく、お知り合いのよしみ故、良心的な額ではあるが、ちゃんと謝礼をいただいての作業だ。


雪下ろしの作業に汗をかき、手を止めてスポーツドリンクを飲んでいると、電話がくる。


教区の青年会の子からだった。


“ひのきしん、お願いします”って言うけれど

彼からの電話の用件は次のような要旨だった。

○○市の△△分教会は、老女性だけで切り盛りしている教会で、男手がなく、この冬積もった屋根雪には一切手をつけておらず、放置したままになっている。今年は例年に見ない大雪が〇〇市を襲った為、そこの教会の屋根が雪の重みで倒壊しないか非常に懸念されているとのこと。

建物は古く、そして面積も広い。

どうにか教区や支部の青年会のお力をお借りしたい、とのことだった。

「…それで今、緊急でひのきしんに動ける人がいないか連絡をまわしているとこなんです」

と彼。

「どこもみんな自分んとこの屋根の雪下ろししないといけないのに、このタイミングで声をかけても集まるかねぇ…」

とピーナッツ。

「そうなんですよ、だけど、せっかく青年会を頼ってひのきしん要請があったんで、これはさすがにちょっとお断りするわけにもいきませんからね」

と彼。

「そのひのきしん要請ってさ、△△教会からひとりいくらぐらい日当出してもらえるの?」

と彼に訊ねると、そこらへんの詳細な話は特に出ていないと返って来る。

「多分だけど、そこけっこう大事なところだよ。十分な日当出すつもりで見てくれているのなら、他の人に声もかけやすくなるし、要請された方の動きも変わってくると思うんだよね」



ピーナッツは、部内さんの多い教会のご年配の会長さん方の抱いている感覚を、実のところあんまり信用していない。

全部が全部そうだとは言わないけれど、そういったところは発せられる

「青年会さん、ひのきしんお願いします」

の言葉は、要注意なのだ。


何故ならば、そういった場合の「ひのきしんお願いします」とは、安価で便利な労働資源という意識やニュアンスが底に流れている可能性が大いにあるからなのだ。


近年、労働力を必要とする需要側と、労働力を提供する側とのバランスが明らかに変化していることを其処彼処で感じ始めているピーナッツ。


例えば、高校生の息子が某運送業の荷物の仕分けのアルバイトに通っているが、少々時間にルーズなところがある息子が、うっかりシフトが入っていることを忘れてサボってしまったことがあった。

「そんなことしてたら、すぐにクビ切られるよ、世の中甘くないんだからね」

と妻が息子に忠告すると、

「それぐらいじゃ切られないって」

と全く心配する素振りを見せない息子。
なんでも、一緒に働いている高校生の中には、急なドタキャンで仕事に来ない子や、連絡もなしに突然サボる子もけっこういるのだとか。だけど、そんな使いづらいアルバイト学生でも、職場はクビにすることは滅多にないという。

慢性的な、人手不足なのだ。

労働力が充分に補えず、そういう多少問題のある子でも我慢して使わないとまわらない程、そこの運送業はいつでも人が足りていないのだという。

「お父さんも、お金をちょっと稼ぎたいと思ったら、いつでもやれるよ」

なんて、生意気なことまで言う。私以上の中年アルバイターが、本業のかたわら、高校生や大学生と共に一緒に荷物の仕分けをやっていることが多いと息子は言っていた。



ピーナッツが高校生だった頃は、このバランスが真逆だった。アルバイトしたい高校生の数が多く、雇ってくれるバイト先の方が少なかった。だから面接に行っても簡単によく落とされたもんだ。

ピーナッツがアルバイトしていた時でも、けっこう雑に扱われていた印象が強い。寝坊してきたりして、使えない子はあっさり切られてたりだとか。

こういう意識でいたものが、いつの間にか立場は逆転し、労働を供給する提供者の方が少なくなってしまっていた。



「ひのきしん=“的確で貴重な労働資源”」という認識への移行

ここで今、これまでの既存の“ひのきしん”という概念の定義(むしろ先入観)の書き換えが起こりつつあるように感じている。

【ひのきしん】
親神様のご守護に感謝をささげる自発的行為が「ひのきしん」です。
一般的には、寄進は「社寺などに金銭・物品を寄付すること」(『広辞苑』)を意味しますが、「なにかめづらしつちもちや これがきしんとなるならバ(十一下り目七ッ)」と、本教では身をもってする神恩報謝の行いを寄進としてお受け取りくださるところに、ひのきしんの面目があります。

天理教公式HP


教科書通り、模範的なひのきしんの在り方を言えばそういうことになるが、現実面、通常教内で用いられる“ひのきしん”という単語には、

・無償奉仕(理想は交通費自腹の手弁当)
・自発的に喜んで目の前に出された作業に対し打ち込む労働

こういったニュアンスが往々として含まれていることが多い。

つまり、前述の「安価で便利な労働資源」という先入観をもたれていることは否定できようまい。古くから信仰している(教会の)ご年配の方ほど特に。

“無料で、もしくは非常に安上がりで、かつ高いモチベーションで作業に従事してくれる便利な奉仕者”

道の青年会層はもしかしたら、長らくそういったイメージで多くの教会関係者から活用されてきた向きもあったのかもしれない。

だけど、これももういい加減、認識を変えていかなければならない時期に来ているんじゃないだろうか?

だって、既にほとんどの場所で若い人材が決定的に不足している。

高齢層から若年層への人口比が逆ピラミッドの形で固定されてしまっている今、この人材不足は今後も慢性化の一途を辿っていくだろうことは想像に難くない。

加えて、就職して生活の糧を得る教会関係者は増え、布教師・道専務といった比較的時間の融通をつけられるポジションがどんどんいなくなっていくのであるから、労働を供給する側が、今後どんどん売り手にまわっていくことは避けられないだろう。(ピーナッツ自身を含め、周囲の雰囲気は既にそんな流れが徐々に始まっている)


もう既存の価値観に基づいた「ひのきしんでお願いします」は通用しなくなって来ているのだ。

ここで“ひのきしん”という名の奉仕・労働は意味を変えようとしている。

いや、変えていくべきだ。


従来の先入観からくる「安価で便利な労働資源」から、本当に必要とされる場で純度の高い働きが期待される「的確で貴重な労働資源」へと、その受け止め方を転換していく時期だ。


そしてそうすることによって、結果的に系統・組織の信仰の上下を盾とした労働力の搾取は、今後はもう、確実に終焉へと向かっていくだろう。


ひのきしん作業をすることの出来る時間や体力を持った者が、そのはたらきに相当する(十分にとまで言わずともそれなりの)報酬が約束されていくことで、資源の活用現場はより幅広い創造へと向かう。
これが上手く形となって軌道に乗っていけば、後々の道の若い人材が他へ流出していくことに多少の歯止めとしても作用していくのではないかと感じているのだが、いかがだろうか。

もちろん、机上の空論よろしく、そうそう簡単にもいかないんだろうけれど。


とにかく、ピーナッツ自身、色々な人のお手伝いや頼まれ事にお力添えをしていくことで、結果的に小さな収入となって積み重なっていっているのは事実である。

これが公共社会に存在する何らかの有償サービスに頼るよりも安価で融通が利き、かつかゆいところに手が届く希少な労働力として、一部の信者さん、教友さん、布教道中で繋がっていったおたすけ先の方、隣人知人に活用してもらい、そうやってピーナッツ共々両助かりの形成を為している。

この問題は、今後も深堀して考えていきたいと思っている。


【2025.2.27】




おまけ

ピーナッツは日頃から、こども達に雪片付けを頼んだり、仕事を手伝ってもらう時は、必ず無償で彼等の労働や時間を搾取したりなどしない。
おこづかいをやったり、お菓子やアイスという現物支給でもって見返りを手渡している。

そうやっている方が、こども達のはたらきへのモチベーションや作業能率は確実に高くなる。やりがいが生まれるからだ。

そしてその方が、頼んだこっちしても大いにたすかる。

お互いに嬉しい。

これに尽きる。

もう、家庭内や信仰上の権威を利用して、立場の弱い者への搾取なんてやっちゃならないんだ。

もし仮に労を求めるなら、それ相応の価を出すべきだ、ピーナッツはそう思っているのである。

その上で、与えてもらった報酬を自らの意志でいくらか削って賽銭箱に投下したり、価以上の労を率先して出したり、そういった自発的なことがあったとすれば、それは紛れもなく神様が受け取って下さるような真実から成る発露だと思うし、あくまでも主体は「それをする本人の内側から芽生えるもの」であって然りなのだ。


……て、なんかおまけっぽくないですね(;^ω^)?


あわせてこの過去記事も読んでほしい↓


今回はここまで。
長々お付き合いいただきありがとうございました!

それではまた(^O^)

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