005:文字の色感覚を説明するシゴト
タケルは、渡された書類に目を通していた。とはいえ、書類は電子媒体であり、ディスプレイに投影された文字ではある。
「えーと、今回は新しい社名・・・カフェか」
「その、カフェの社名についての印象調査ですかね・・・」
理解した!とばかりに、タケルは印象を書き出す。
タケルは、「共感覚」があり、文字が色で見える。正確には分かっていないが、文字の印象が色で思い起こされるイメージだ。
自分のような人は比較的に珍しいと言われている。
大学の頃に同級生と話をしても「なにそれ?」と言われた事が多い。たまにネットやSNSでも見かける程度で、ほとんど話題になったことはない。
タケルはその特性を活かして新しいシゴトをしているのだ。
このカフェチェーンの印象は、穏やかで、静か、または安らぎというアクティブではないイメージを打ち出そうとしている。心理的なカラーとして、赤の方が活発だし、青は落ち着いているだろう。しかしそういう心理とは別で、文字から色がでてくるわけだ。
カフェチェーン側としては作りたいイメージがある。
であれば、文字として「カフェ◯◯◯◯」から、「穏やか」さをイメージしてもらいたい。とはいっても、感じられる人口が少ないからこそ最後の仕上げとか、完璧なものに仕上げたいクライアントくらいしか発注はないのが実際だ。
そういうレアなシゴトかもしれないけど、タケルはこのシゴトが気に入っている。特性を活かしたシゴトとなると、あまり言うと「羨ましい」と疎まれることもあるので、あまり周りに言わずにひっそりやっているのが実情だ。
タケルが資料を作成しても、それが共感覚者の代表でもなんでもない。だからこそ、その説明をする必要がある。
自分の感覚としては「これ」だからといって、依頼主が納得するわけではない。結局は言葉や説明資料を作ることが多い。アーティストではないのだ。そんなシゴトをタケルは大いに気に入っている。
こういった研究もあるようです。興味深いですね。
自作の共感覚ゲーム。雰囲気の体験としてどうぞ。