「ひなた」吉田修一
前回に続き、吉田修一の少し古い作品を取り上げる。本書は2003年から2004年にかけて「JJ」に連載されたものだ。全16回の連載という枠があらかじめ決まっていたとのことで、春・夏・秋・冬という4章の中に4人の登場人物の話がそれぞれ展開されるという構成になっている。ちなみに連載時は「キャラメル・ポップコーン」というタイトルだったそうだ。これは第一話の中のワンシーンから取ったと思われるが、確かに改題した「ひなた」の方が全体の世界観を表していて、いい感じがする。
読み始めはノリの軽い作品だなあという印象を持った。まあ「JJ」連載の小説らしいかなというところだが、もしかしたら途中で飽きてしまうかもしれないとも感じた。
ただ、「春」編の終盤になって出てきたエピソードで、これは彼ら4人の話にのめり込めるかも、という予感が生まれた。そして、この感じは「夏」編に入っても――相変わらずノリの軽さは感じつつも――深まっていったのだった。
登場人物の4人は、夫婦と夫の弟とその彼女という男女2人ずつという組み合わせ。4人とも嫌味なく、いい感じなのだ。さらに言えば、4人の周りにいる脇役たちも嫌な感じのする人は出てこなく、とても気持ちよく読むことができる。こういう設定をつまらなくならずに成立させることができるのは、著者の筆力と感じた。
例えば、ちょっと体調がすぐれなくて会社や学校を休むことにして、でも寝込むほどでもない時に、家で本を読んで気持ちを安らかにさせたい。こんな時に重宝すると思った。
大きな事件や不思議なことが起きるわけではなく、謎解きもない。でも、人生とか気持ちの深みといったものを感じることができる。言ってみれば、「普通って何?」という問いに対するひとつの例示、という感じだろうか。
ぜひテレビドラマにもなってほしいと思ったが、連載発表時からもう20年も過ぎてしまった。もはや無理だろうか、残念である。
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