【S&M①】すべてがFになる
愛すべき森博嗣先生のデビュー作でもある作品。
初めて読んだ時の衝撃は、まさに青天の霹靂。
第1回メフィスト賞(1996年)受賞作。
(メフィスト賞 : 講談社主催の公募文学新人賞。)
※この記事は本の内容を含みます。(ネタバレ注意)
【概要】
時は1994年・夏。
まだ "インターネット" と言うものが普及していない、 インターネット黎明期のお話。
建築学科の助教授である犀川創平(さいかわ・そうへい)と、犀川の恩師の娘である西之園萌絵(にしのその・もえ)は研究室のメンバーとキャンプの名目でとある島へ上陸する。
そこで犀川と萌絵は、プログラミングの天才である真賀田四季博士と面会すべく
島の中に存在する研究所を訪れる。
そこは一般的な生活とはかけ離れた、異空間であった。
優秀な研究者が集まるその施設は
主要な扉は全て生体認証となっていて、
それぞれ自室に篭って仕事・生活をするので、
研究者同士の関わりもない。
荷物等の受け渡しは "P1" というロボットが行い、照明や施設の設備のコントロールは
"デボラ" というシステムが管理していた。
そんな 超・ハイテク 研究所である。
そこである事件が起こる。
なんと、この施設の超・重要人物である
真賀田四季博士が謎の死を遂げるのである。
それも、手足を切り落とされ
運搬ロボットである "P1" に
ウエディングドレスを着せられて乗った
惨い状態で現れる。
真賀田四季博士がその島にいた理由。
その研究所に居た理由。
それは天才プログラマとしての開発だけではなく、
両親を殺害した罪による厳重な隔離でもあった。
孤島の中の密室、それもITを駆使した全ての行動履歴が残る施設内で誰が真賀田四季を殺したのか。
天才達が天才を殺した天才に挑む、密室ミステリー。
【感想】
今まで読んできたミステリーとは
少し雰囲気が違い
"理系ミステリ" と称されるのも納得の作風。
見出しが「色 + ○○」で統一されているのは、真賀田博士の着せられていたウエディングドレスや真っ白な面会部屋との対比だろうか。
真賀田四季博士の死体登場シーンは
不気味である。
背筋が凍るとは正にこの事。
人と人との関わりがない無機質な空間が
より一層不気味さを醸し出している。
小説の中で仮想現実はいずれ現実と認識されるようになり、人と人とが直接触れ合う事は贅沢品となる、という真賀田四季のセリフがある。
コロナ禍において人と人との接触が貴重なものになっている今。
天才が思い描く未来はそう遠く無いのかも知れない。
また最後の一文が印象的。
道流は孤島の要塞で小さな孤独を積み上げていたのだろう。
四季はどうだったのだろうか。
7は孤独から抜け出し、BとDが孤独になった…
四季の死生観にはハッとさせられる。
生きていることの方が異常。
そうなのかもしれない。
でも、それならますます四季は孤独だったのではないだろうか。
異常な世界で、異常な能力を持って、誰も追いつけないスピードで走り続けて、自分の子どもですら追いつけない事を知って。
【終わりに】
描写がホラーチックでゾッとするシーンもあるが、何故か中毒性が高く何度も読み返した作品。
トリックが分かると、序章がアンサーであったのだと知る。
天才達が繰り広げる密室ミステリー。
空気が感じられる作品で、きっとまた何度も読み返すでしょう。
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