エマニュエル・トッドの思考地図
エマニュエル・トッドはフランスの歴史人口学者で、ソ連崩壊などの予測を的中させたことで知られているが、本書を読むと、その予測の背景にある考え方、思考プロセスを一部かいま見ることができる。
トッドは、歴史、特に家族形態に関して専門的な知見を持ち、かつそこに統計的な考え方を入れて様々な分析を行っており、そのプロセスとは、ざっくりいうと次のようになっている。
1.データ、ファクトの蓄積
2.データ、ファクトの中から見えてくるパターンや異質なものを見出す
3.仮説を立てる
4.仮説を検証する
5.モデリングする
6.論文等で発表する
といった流れになっている。その手法はかなり科学的な手法に近い。
本書を読んで、社会科学者とは「科学」と名前のつくとおり、まさにこういう人のことをいうのだろうなと思った。
ただ、トッドが本書でも触れているとおり、社会科学者が科学者と違って難しいのは、科学の場合、仮説を裏付けるデータがあれば、社会はそれを受け入れやすい。一方で社会科学の場合は、往々にして社会的な言説や思想によって受入れを拒否されることがあるということだ。
例えば、アインシュタインの相対性理論は、太陽の黒点観測の中で、実際に重力の重い物の周辺で時空間が歪んでいることが確かめられた。
ただガリレオは、天体観測の中で同じくデータの積み上げの中から仮説を提示したが、当時、宗教による社会的コントールがあまりにも強かったために拒絶されてしまった。
現代の社会科学も、ガリレオの時と同じ状況にあるのかもしれない。
トッドが使っているデータは、主に「乳児死亡率」という動かざるデータで。この指標を使って各国の状況をつぶさに見ていくと、いろいろな傾向が分かるのだという。
この辺りの詳細は専門的過ぎるので省くが、いずれにせよ一定の合理的な考え方を持って仮説が立てられ、かつそれがデータによって裏付けされているにも関わらず、社会はそれを拒むことがあるということだ。
自分はそんなことはない、と思っていても、改めて考えてみると、自分の考え方も、かなりメディア等による社会的言説に左右されているのだろうと思う。
そして上のような思考プロセスは、普通にビジネスをやっていく上でもある程度やっていることだと思うが、往々にして社内の考え方や人間関係等によって判断されてしまっていることも多いのも事実だ。
トッドによれば、こうした社会的言説に流されないようにするためには、
「アウトサイダー」であること
を薦めている。
そして、そのためにはSFを読んだり、歴史書を読んだり、違う場所に行って思考や視点を拡げてみることが大事なのだという。
研究の世界だけでなく、あらゆる仕事をしていく上で参考になる内容だ。
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