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【感想】シリウスの道 心に響いた格言、名言、一節も含めて

全体の感想

シリウスの道。いつもの本屋に面出し販売でアピールされてたので気になって手にとってみた。
渋い。とにかく渋い。キザでハードボイルド。

ブラックコーヒーとウィスキー以外の味はよくわからねえ
今日もタバコの煙の中から見上げる一等星が美しく輝いてやがる
愛した女は眩しく照らされた道を行き、俺は暗い道をどこまでも行く・・・
そんな中年男のビターな哀愁物語。
本文からはショートホープの香りがつんと匂ってくるようだ。

とまあ、個人的に感じた印象だけ書くと一見ギャグに思われてしまうが、内容はあくまで硬派なビジネス小説だ。作中の随所でも、仕事へのプロ意識というものが登場人物を通じて主張されている。それを説教じみた言い回しと捉えるか、教訓として胸に刻むかは人それぞれだが、仕事観を今一度見つめ直すひとつのきっかけになるんじゃないかと思う。

作中のセリフと共に自身の見解を述べていく。

どんな仕事だって、基本は地味

あいつはどんな仕事だって、基本は地味なところにあるんだと本能的に知っています。

会社を決める時、仕事を決める時、良い部分ばかりをイメージしがちだ。その会社で成功する自分、仕事をバリバリこなしている自分。
しかしイメージはあくまでイメージであって、入社後感じるギャップは大小問わず生じるもの。私もこれまでの転職経験でギャップは幾度となく感じてきた。求人票や面接で伺った話と違うじゃないか、と。
あまりに異なる極端な例は置いておいたとしても、これまで感じた中で共通していたのは、どれも思っていたよりずっと地味だったということ。仕事なんて基本的に地味なのは承知の上だったとしても、地味だと感じたのである。そして次第にやる気も気力も失せていった。
振り返ってみると、やっぱり仕事にどこか華やかさや派手さを求めていたんだと思う。人より目立ちたい、羨まれたいという承認欲求に近いものがあったかもしれない。
ただ、そういったことを求めること自体は悪くないとも思う。大事なのはむしろその後だ。それは”ギャップを感じた時に仕事と向き合えるかどうか?”
目的意識を持つでもいい、仕事の価値を新たに見出すでもいい、とにかく自分なりに目の前の仕事に向き合うことが必要だろう。
それができなければ、仕事はただのつまらないルーチンワークと化し、それに埋もれるだけの日々が待っている。

ネジを作る人がいちばん偉い

ネジつくってる人がいちばん偉いと私は思う。
生産は、彼らから出発するから。
株の売買なんて、その労働の上前をはねる商売でしょう?・・・広告の仕事だって似たようなもんじゃないのかな。所詮、虚業だもん。

虚業。本一節を目にした時、この言葉が異様に響いてきた。
私はつい最近まで、ある会計事務所に勤めていた。そこで最も嫌悪感を感じていたのは「顧客を見下す」という社員の行為だった。
彼らは会計や税務知識に疎い顧客を、これでもかというほどこき下ろす。しまいにはしょうもない人格否定まで及ぶ。私はリスペクトの欠片もないその発言を耳にするのが嫌で嫌で仕方がなかった。仕事をしていると、愚痴の一つや二つ出てくるのはやむを得ないのだが、彼らのは言っていい限度を明らかに超えていた。
彼らの陰口を聞き流しながらいつも頭に浮かんでいたのが、生産性があるのは誰なのか?ということ。それは誰か?言うまでもなく顧客だ。
生産する彼らなくして、会計という仕事は成り立たない。会計は形がないという意味では虚業に当てはまるのだ。虚業だから偉くない、悪いとは思わないが、生産する側へのリスペクトは持っておいて然るべきだ。

職業に貴賤はない

職業に貴賤はないが、プロと素人はいるってね。

職業や職種によって人の価値に差はない。ただその道のプロはいる。
先で述べた会計などの士業に関してもそう。士業は資格という指標があるから尚わかりやすいかもしれない(資格がなくてもプロ級のパフォーマンスをする人も多いが)。
どんな職業であってもプロは必ず存在し、そのプロの仕事に触れるのは必ず財産になる。
本一節からはそんなニュアンスを感じた。

弱点を晒せる人間

赤の他人に自分の弱点を無条件に晒すことのできる人間は、弱さからもっとも遠い場所にいる。

他人に弱点は見せたくないもの。それが特段仲の良くない相手なら尚更だ。
弱点を晒すような場面では、恥をかきたくない、利用されたくない、足元をすくわれたくない・・・・そんな考えが頭を駆け巡るだろう。
それどころか、弱点を見せたくないあまり非を認めることすらできない。自身も含め、そんな人間はたくさんいる。だから弱点を晒せる人間は強い。

弱気のときほど虚勢を張る

弱気のときほど虚勢を張らないとやってけない。部長みたいに自然にふるまえないんです。つまりは弱い男なんでしょう。

終盤で発せられた主人公のセリフ。
彼は、過去を語ることは多いが内面や心情を語ることは意外と少ない。作中での描写もほとんどない。
仕事はものすごくデキる。周囲からも信頼が厚いし、肩書がずっと上の人間に対しても物怖じせず強気な態度を見せる。ただその一方、他人に対して一定の距離を保ち、自分を隠したがっているようにも見受けられる。
そんな人間が自分は弱い男だと言ってしまった。しかも相手は女性に。
ここで感じたのは、この主人公完全無欠になったなという印象だ。
仕事ができ、人脈も広く、度胸もあり、そして自身の弱さを認められる(弱点を晒すことのできる)強さ・・・・もう怖いものなどないではないか!

本作は、終盤は意外とあっさり終わる。大道円のハッピーエンドではなく、どこか哀愁を残した現実的な終わり方だった。
それは、主人公が完全無欠となってしまったことが要因のひとつではないかと思う。最終的になにか特別なことをしでかすというわけでもなく、大変な決断をするわけでもなく、ふたたび現実的な暗い道へ戻っていく。完全だからこそそういう選択を取らざるを得なかったのではないだろうか。

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