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みんなのカメラで海洋ゴミ の今を知る「PicSea」プロジェクト スタート記念オンライントークイベントレポート

日本財団と京都大学共同事業RE:CONNECTは、シチズンサイエンスの手法で海洋ごみの今を知るPicSeaプロジェクトをスタートしました。
科学者・アーティスト・市民が力を合わせれば、深刻な海ごみの問題を解決する糸口につながったり、社会を変えたりすることができるかも。
各方面で活躍する登壇者がPicSeaプロジェクトの可能性を語りました。

プログラム

開催日:2021年9月25日(土)
13:00 オープニングトーク 司会者挨拶
13:20 第一部「淀川テクニックと京都大学が海ごみ問題でコラボ!?-力を合わせてできること-」
13:55 第ニ部「PicSeaってなんだ?シチズンサイエンスってなんだ?」
    PicSeaアプリ実演
14:35 第三部「海ごみ×アートの可能性」
15:30 終了

登壇者

甘利彩子(NPO法人瀬戸内こえびネットワーク事務局長)
兼松佳宏(勉強家/「グリーンズの学校」編集長)
塩入同(日本財団/博士<工学>)
森田桂治(NPO法人アーキペラゴ副理事長)
ヤノベケンジ(現代美術作家/京都芸術大学教授兼ウルトラファクトリー・ディレクター)
柴田英昭(淀川テクニック)
伊勢武史(京都大学フィールド科学教育研究センター准教授/RE:CONNECTリーダー)
伊藤真(RE:CONNECT研究員)
村上弘章(RE:CONNECT研究員)
亀岡大真(RE:CONNECT研究員)
吉野月華(京都大学大学院/RE:CONNECT研究補助)


オープニング

PicSeaプロジェクトを記念して開催したオンライントークイベント。株式会社ONDO谷益美さんの司会で、登壇者の紹介から和やかにスタートしました。

ヤノベケンジさん
現代美術作家、京都芸術大学教授。頭の中に思い浮かぶアイデアを実現できる工房「ウルトラファクトリー」でアーティストをしながら教育に携わる。プロフェッショナルなクリエーターを招聘し、学生にプロの現場を経験してもらう実践教育型プロジェクトを実施。ユニークな機械彫刻や巨大彫刻が代表作品。彫刻作品だけでなく、映画や舞台、また、近年はバーチャルリアリティやデジタルの分野にも活動を広げている。

柴田英昭さん
淀川テクニックという作家名で、2003年から大阪・淀川の河川敷を拠点に活動を開始。
ごみや漂流物を使い様々な造形物を制作している。赴いた土地ならではのごみや人々との交流を楽しみながら行う滞在型制作を得意とし、岡山県・宇野港に常設展示された「宇野のチヌ」は特によく知られている。近年では環境問題に関わる展示への参加も多い。

兼松佳宏さん
ローカルやサステナビリティをテーマにしたウェブマガジン「greemz.jp」の立ち上げに関わり2010年から2015まで編集長を務める。2016年より京都精華大学文学部特任教員として、ソーシャルデザイン教育のためのプログラム開発を行う。その後、再びNPO法人グリーンズに「グリーンズの学校」編集長として復帰し、シチズンサイエンスの教室のプロジェクトに携わっている。

森田桂治さん
大手IT企業、外資系IT企業を経てUターンし、香川で起業。
経営の傍ら、市民活動として毎週のようにビーチクリーンアップ活動をしながら、使い捨てプラスチック削減など発生抑制に向けた仕組みづくりにも積極的に取り組む。

甘利彩子さん
2009年に瀬戸内国際芸術祭ボランティアサポーター「こえび隊」を立ち上げ、事務局の運営に携わる。2012年に発足したNPO法人瀬戸内こえびネットワークでは事務局長を務め、島々との交流や瀬戸内国際芸術祭における食やパフォーミングアーツ、ツアーなどの企画運営を行う。

塩入同さん
日本財団香川駐在として瀬戸内オーシャンズXプロジェクトの運営と研究を統括。河川・海岸工学、流域沿岸域管理、行政間調整、流域環境管理においてのCSRによる企業貢献のコーディネートなどを専門とする砂浜愛好家。

伊勢武史さん
ハーバード大学大学院にて生物学を学び、博士号を取得。2014年より京都大学フィールド科学研究センター准教授。専門は森林生物学とコンピュータシミュレーションや人口知能。地球温暖化から人類の進化まで、人と自然のかかわりを考えることがライフワーク。日本財団とのパートナーシップのもと、瀬戸内海の環境問題について科学者と市民の目線から問題を解決するプロジェクトに携わる。

司会 谷益美さん
専門はビジネスコーチング、およびファシリテーション。企業、大学、官公庁などで研修やワークショップなど、年間約200本の対話を通した学びの場作りを行う。

第一部「淀川テクニックと京都大学が海ごみ問題でコラボ!? -力を合わせてできること-」

淀川テクニックと京都大学の出会い

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もともとアートへの関心が高かった伊勢先生。市民に海ごみ問題を興味を持ってもらうためにアートという手法を取り入れたいと考えたことが、淀川テクニックと京都大学のコラボのきっかけ。
京都芸術大学のヤノベケンジさんを通じて、ごみを使ったアートを制作している淀川テクニックの柴田さんと出会いました。
「ごみは捨てちゃだめ」という説教臭い啓発ではなく、いかに興味を持ってもらうか。分野は違えど、共通したビジョンを持つ、不思議なめぐり合わせだったと振り返ります。

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柴田さんは、2003年に大阪・淀川の河川敷のごみを使った作品制作をスタート。
その頃の河川敷は、満潮時に海から上がったごみで埋め尽くされていたそう。普通の人なら汚いと感じてしまうごみも、柴田さんにかかると「面白い遊び」が生まれます。
ごみを食品トレーに詰めてラップを巻き、「ごみ 淀川産」のステッカーを貼った作品は、まるでスーパーで売られている肉や惣菜のよう。黒いごみを貼りつけて淀川に棲むチヌに見立てた自転車の作品で、河川敷を走り回ったり。作品は作る喜びに溢れています。
現地で集めたごみで制作する柴田さんの活動は、淀川を飛び越え日本各地、海外へと広がっていきました。

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2019年軽井沢での「G20 持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」や2021年の「北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs」にも展示し、見る人を楽しませながらごみ問題への気付きを与え続けています。

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美術作品といえば、油絵や彫刻であり、素材は木や石であり、技法を学んで制作するものであったこれまでの概念を覆すような柴田さんの作品。
ものづくりに純粋な喜びを見出し、子どもたちにも学びとして教えている柴田さんの活動が、今の世の中の流れにマッチしていると、ヤノベさんは評価しています。

作品の素材集めのために行っていた柴田さんのフィールドワークと、海ごみの原因解明のために行っていた伊勢さんのフィールドワーク。それが今回のPicSeaプロジェクトで出会いました。科学者とアーティストがコラボレーションすることで、データがアートに変化し、市民が参加したくなる面白い展開が生まれると期待しています。

第二部「PicSeaってなんだ?シチズンサイエンスってなんだ?」

市民と科学者で築くシチズンサイエンス

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シチズンサイエンスとは、市民と科学者が一緒に研究すること。市民は身近な範囲でデータを集めて科学者に提供し、科学者はそのデータを分析して研究の成果として発表します。
実は科学に興味はあるけれど研究は難しそうと感じている市民も多いのだそう。自分の集めたデータが研究に役立つことで達成感が芽生えます。一方、科学者にとっては、お金も時間も人手も足りずにできなかった研究に実現の可能性が出てきます。両者ウィンウィンの関係がシチズンサイエンスの核だと伊藤さんは語ります。

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村上さんはRE:CONNETで実施したシチズンサイエンスの事例を紹介。
シチズンサイエンスには「データ取得」「結果共有」「発信」「体験」という4つのタイプの活動があります。
高知県の高校生と一緒に川の環境DNAのデータ取得を行い、その結果を地元漁業者や役所の方々に発表しました。結果共有は市民のモチベーションの維持に不可欠なのだそう。小学生100人を京都大学舞鶴水産実験所に招待した魚釣り体験後は、小学生からお礼の手紙が届き、研究者のモチベーションの維持にもつながっています。
市民のデータ収集にはスマートフォンやインターネットを活用することが多く、テクノロジーの進化が新しい研究方法を可能にしているともいえます。
兼松さんによるとシチズンサイエンスのポイントは「うっかり参加すること」だと。楽しい企画に共感して写真を撮っていたら、自然とシチズンサイエンスに参加していたといったように色々な入り口を作っておくことが大切。そのような面でも科学とアートのコラボは大きな意味があると兼松さんは考えています。

時空間を超えて海ごみデータを取得するPicSea

PicSeaは海ごみデータ収集に役立つアプリです。日本財団と京都大学の共同事業「RE:CONNECT」の社会連携事業「シチズンサイエンス」の一つとして位置づけられています。

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PicSeaを使って市民に海ごみデータを送付してもらいます。データが蓄積されると、どんな場所に、どんな季節に、どんな海ごみがあるかパターンが見えてきます。
「海ごみの流れを知ることで、海ごみの回収につなげたい。市民が海ごみ問題を自分ごとに捉えることによって、海に流れ出すごみを減らすことができるんじゃないか」と伊勢さん。
こういった時間や空間を超えたデータはこれまで見られなかった貴重なデータで、科学の発展にも貢献できるとも。科学者と市民が力を合わせれば解決できるという前向きなメッセージを世界に発信したいと考えています。

PicSeaを使ってみよう

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京都大学から吉野さん、亀岡さんが開発中のPicSeaを一足先に実演してくれました。
使い方はとても簡単。まず、スマートフォンでPicSeaアプリを立ち上げます。地図が表示されたら「調査に参加する」ボタンをクリック。海ごみの写真を撮って、ごみの種類と場所を記入して投稿するだけ。投稿すると地図上にピンが立ち、写真が見られるようになります。
2021年11月のアプリが完成時には、ごみの種類をAIが自動判別する機能がプラスされます。写真を送れば送るほど、ごみの分布が明らかに。遊び感覚で参加できるアプリです。

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香川県・女木島からは森田さんがPicSeaアプリを実演。
森田さんは長年、香川県の海岸で海ごみの調査を続けてきました。普段は国際海岸クリーンアップ(ICC:International coastal cleanup)という手法を用いているそう。ICCは一つ一つごみの種類を手書きで調査票に記録するため、時間がかかることが難点。PicSeaを使うと、写真を撮るだけでごみの種類が自動判別されるので、スピードアップにつながると期待を寄せています。

第三部「海ごみ×アートの可能性」

香川県の海ごみイベント

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香川県で海ごみを絡めた様々な遊びを仕掛けている森田さんは、活動のキーワードに「楽しい」「おいしい」「仲間づくり」を掲げています。
海ごみイベントの参加者の3分の1は子どもたち。その子どもたちを引きつけるには「楽しい」が欠かかせません。森田さんが海岸で見つけた「お宝」を披露すると、子どもたちの目が輝き笑顔が広がります。その効果で少し難しい海ごみ問題の話にも耳を傾けてくれるようになるそう。海岸清掃後は、地元食材を使った料理をマイ食器に取り分けて、みんなでランチをします。ランチは参加者の満足度が上がるポイントです。さらに「お宝」のクラフト作りをセットにすれば、海ごみとアートがつながる魅力的なプログラムになると森田さんは考えています。
また、香川県環境管理課が人材育成にも力を入れており、各地で海ごみリーダーの仲間も増えつつあります。瀬戸内国際芸術祭のようなアートイベントも盛んで、市民・アーティスト・行政・企業と色んなコラボレーションが起きていることが香川県の取り組みの特徴だと森田さんが教えてくれました。

アートに参加することでごみを見る目が変わる

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市民とアーティストとのつながりは、香川県と岡山県で開催される瀬戸内国際芸術祭でも生まれています。瀬戸内国際芸術祭2010で岡山県・宇野港に展示された「宇野のチヌ」は、宇野港周辺で採取したごみで作られた淀川テクニックの作品。
野外展示のため、年月とともにプラスチックごみが劣化してポロポロと崩れていきます。そのメンテナンスを「お色直し」と呼んで甘利さんたち瀬戸内国際芸術祭のボランティアサポーターが手伝っています。そこで地元の人にもごみを持参してもらうように協力を依頼しました。ところが、ごみはごみでも作品に使えるごみと使えないごみがあります。最初は使えるごみが少なかったそうですが、回を追うごとに市民の目が肥えて使えるごみが集まるように。作品に取り付けると、「うちのごみはあれや、宇野のチヌになったわ」と周囲に自慢する、思わぬ広がりが生まれました。
甘利さんも「これは宇野のチヌになるから」とごみを捨てずに取っておく地元の人を目の当たりにし、「ごみがアートの素材になる、視点の変換が面白い」と感じています。
淀川テクニックの作品が「みんなの作品」になった瞬間でした。

PicSeaは市民とアーティストと科学者のクリエーションのるつぼ

「SDGsの風潮が高まっているが、世界に問いかけることの原点は何かということを美術の中で提示したい」その点においても、柴田さんの活動は世界を変えるきっかけになるんじゃないかとヤノベさんは考えています。
ヤノベさんのウルトラファクリーの活動は、学生とプロとアマチュアが互いにエネルギーを与え合いながら、ものづくりのエネルギーを外に発信しています。
同じように、市民とアーティストと科学者が一緒になれる「クリエーションのるつぼ」のような場を作ることができれば外にエネルギーを伝播できるのではないか。PicSeaが多くの人を巻き込んで科学反応を起こす「クリエーションのるつぼ」になることを期待しています。

最後に

ごみは人がいらないと思った瞬間から「ごみ」になります。そこにもう一度、価値を見出して何かを作ろうとする活動が、共感を呼び、そして社会が変わっていく。市民とアーティストと科学者が特技を活かして、楽しみながら関わっていくことが、海ごみの解決につながると信じています。
PicSeaは2021年11月にAndroid版、その後iPhone版が完成する予定です。RE:CONNECT公式ホームページで情報を発信していますので、ぜひチェックしてみてください。
▼日本財団 京都大学共同事業RE:CONNECT

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取材&記事執筆:株式会社 ゴーフィールド

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