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レイとわたし【涙の理由】



私には6歳の息子がいる。
名前はレイ。


数日前、彼を迎えに保育園へ行ったその時のことなんだけど。息子が迎えにきた私の顔を見て第一声


「レイくん今日、保育園で泣いちゃったんだよ〜。

ママに会いたくて。」

と。



「え?」


その言葉に私の心には一瞬にしてモヤがかかった。急に心配で埋め尽くされた。「あ、そうなんだ〜、なにかあったの?」と冷静を装いつつも、息子に目線を合わせるようにしゃがんで。おもわず彼を抱きしめ背中をトントンと撫でながら言った。というのも、息子は休日でも保育園に行きたがるような「お気楽タイプ」であり、彼にしてはかなり珍しい発言だなぁと。私の心には一気に母親スイッチが入ると共に、何か大きなものが突っかかったのだ。そしてその時、彼は何も言わなかった。だからそれからというものの、ここ数日レイの話をたくさん聞いてみた。いつもよりもたっぷり会話をして、レイの目を見て、何度もハグをして、日中もたくさん彼のことを考えていた。それでも彼はそれから数日間、保育園に行くことを渋ったり、保育園で過ごす間に涙することがあった。私はそんな彼を気晴らしに、ドーナツ屋さんに連れて行ったり、ゲーセンで遊んだりしてみた。そんな風に一緒に過ごして彼の話を聞くたびに、分かってくる子供の心もあった。

そもそも彼が保育園へ行くことを渋るようになったひとつの要因は、苦手な運動会の練習かもしれないと。跳び箱や、鉄棒が怖いと言う。「わかる、わかるよ。ママも生まれてこの方、逆上がりができたことはないし、かけっこで一位を取ったことはないし。」なんて。あぁ、そう言えば去年もこの時期に泣いたりして荒れてたな。なんて。

それからもうひとつ、彼は言う。「クラスの先生が厳しいんだ」って。きっと先生も一人でクラスをまとめるなんて大変なんだな。ユーモアどころじゃないんだよなぁ。なんて。けど

「どうにかしてあげたい」と思いつつも、私にできることは限られている。どうにもならない話がチラホラ浮かんできて。その度に私は寄り添うことしかできなくて「わかるよ、大変だね。」なんてなんとか話を聞き続けた。そうやって今日も保育園で泣いてしまった彼の人生相談を聞いているうちに、最後の最後で意外な本音がぽろっと出てきたんだ。それはお風呂に入っている時のこと。
レイが私と目を合わせて言った。



「本当はさ、ママが優しくって。
れいくん、ママを思い出すと泣いちゃうんだよ。」


そう言いながら彼は堪えていたものが溢れ出したかのように、みるみる泣き顔に。ポロポロと涙を落として言った。



「なんか。嬉しい気持ちがいっぱいになると、レイくん、泣いちゃうんだ。」




その時、彼の言葉を聞いていた私も涙が止まらなくなって、彼を心配させないように笑顔をつくりながら「そうなんだぁ〜そっか。そっか。」と肌を寄せて言った。

彼を本当に泣かせていたのは「私」だったのかなぁ。なんて。それまで分かっていなかった彼の気持ちを知って涙が止まらなかった。張り詰めている心に、ふいに安心が溶けて、おもわず涙がこぼれてしまう時のじんわりした気持ちがもう彼の中にはあるんだなぁと。何とも言えない想いが溢れて二人で笑った。



それからふたり、神様にお願いをしたんだ。


「楽しいことがたくさんありますように。先生にも嬉しいことがあって、みんなに優しくなりますように。運動会の練習がすぐに終わりますように。」


なんてね。誰も悪くない。
毎日を生きていると、どうにもならないことがある。やりたくないことを頑張らないといけない日がある。悲しいことや大変なことがある。それでも負けない心や、寄り添ってくれる人を大切にして。どうにか生きられるように、涙がある。そんなことを思った夜だった。明日も、6歳の息子のことを信じて送り出す。母も一緒にがんばります。今日はそんな感じです。

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