計測や測定における「誤差」という概念はもう古い?

計測や測定における「誤差」という概念はもう古い?
 「誤差」という言葉は計測や測定において、一般的な用語のように使われてきています。誰もが、「測定値、計測値と真値との差」と答えるでしょう。しかし、実は、国際基準では、この「誤差」という言葉を使用せず計測測定器を評価するように定められています。

「誤差評価」から「不確かさ評価」へ
 そもそも、計測や測定において、「真値」という、「神のみぞ知る値」を使うこと自体ナンセンスだと言われると、首肯せざるを得ません。
 なぜならば

(誤差)  = (計測値) - (真値)

が誤差の定義であれば、(真値)を知ることができなければ、誤差自体も知ることができないはずです。

 また「誤差」は英語で「error」と訳されますが、この概念はしばらく国際的な基準がなく慣用的に使用されてきた言葉でした。そこで国際的計量のコミュニティであるBIPM (Bureau International des Poids et Mesures)が、1979年からこのことに問題意識をもち、計測の不確かさにおける表現について協議が続けられてきました。現在では、これまでの「誤差評価」から「不確かさ評価」という形式に転換され、より総合的な評価が国際基準として定められています。

「誤差評価」の問題点
 従来の誤差評価では、誤差を偶然誤差(random error:因果関係が特定されない不規則な、ばらつき誤差)と系統誤差(systematic error:特定された要因によって生じる、かたより誤差)とに分け、それらを合成して誤差とされてきました。しかし、この合成の方法には、前述のとおり、神のみぞ知る「真値」が把握されていることを前提としており、この真値に対する標準化された見解もありませんでした。そのために、「この計測装置の精度は誤差 0.5mm 以内です」と仕様に記載されている場合、一体何を根拠にして誤差としているのか不明確でした。

 「不確かさ評価」とは?
 この誤差評価に対して、「不確かさ評価」では、計測や測定における不確かさをタイプAとタイプBに分けます。タイプAとは、"those which are evaluated by statistical methods"、すなわち統計的な手法によって求めるばらつきであり、タイプBとは" those which are evaluated by other means" すなわち統計的以外の方法で求められるばらつきです。そして、不確かさが合成される際、この分別は特殊な意味をもつものではなく、便宜上で分けられているだけであって、それらは同等に区別なく、総合的な評価に用いられます。
 そして、この不確かさの表現として、計量標準の国際相互承認協定(CIPM-MRA)の、国際相互承認協定(Global Mutual Recognition Arrangement)は、経済のグローバル化に対応するため、メートル条約加盟国の主要国家計量標準機関の代表で構成する国際度量衡委員会(CIPM)において締結された協定で規定されるCMC(Calibration and Measurement Capability)の付録において、通常は95%の信頼の水準(正規分布における2σ)で不確かさを表現するとしています。
 こちらの基準に則れば、「この計測装置の精度は 0.5mm 以内です」という表現は、「計測装置のばらつきのうち、95%は±0.5mm 以内に収まっています(ただし5%は±0.5mmから外れてしまいます)」ということになります。

「不確かさ評価」での課題
 しかし、このように新しい評価方法になっても、依然としていくつかの前提があることを私たちは意識しなければなりません。まず、このばらつきに関しても、国際的な通念として、「ばらつきが正規分布で表現される」という前提があることに注意しなければなりません。また、「真値」という概念を導入せずに、不確かさを評価することになっても、本来計測結果として知りたいのは、やはり「真値」であって、測定自体の「ばらつき」ではありませんし、そのばらつきの中央値に真値があるかという保証をしてくれるものではないことにも注意しなければなりません。
 これらの問題を解決するべく、現在ではトレーサビリティが導入され、またばらつきの評価にモンテカルロ法を用いてその分布を調べるなど、さまざまな試みがなされています。

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関連項目
・トレーサビリティ
・モンテカルロ法による、測定ばらつきの評価
・正規分布

*1. ISO/IEC Guide 98-3:2008(en)
Uncertainty of measurement — Part 3: Guide to the expression of uncertainty in measurement (GUM:1995)

参考文献『測定不確かさ評価の最前線』 日本規格協会 2013年 ISBN978-4-542-30184-9