JAIST社会人セミナー「ひとの心を動かすデザインプロセス」
JAIST社会人セミナー2018
地域人材育成セミナー【水曜学ぶでしょう】。
2019年1月23日開催の講座に参加してきました。
この日開催されたのは
ひとの心を動かすデザインプロセス
~かわの上のカフェづくりから学ぶ~
講師は、NPO法人 岡崎まち育てセンター・りた 事業局長の天野裕(あまのゆたか)さん。ご自身の地元である愛知県岡崎市で、公共施設を活用した市民主導のまちづくりの計画・デザイン・管理運営などの支援、市民活動に取り組んでおられます。
天野さんの活動略歴
天野さんは、東京工業大学でコミュニティ・デザインを学び、その後メキシコへ渡って首都メキシコシティの民衆運動の研究を経て、地元でまちづくりの活動を始められました。
まちづくりに必要とされる行政の施策と市民の意向、双方の仲介役(中間支援組織)として、NPO法人「りた」を設立され、人とまちの幸福な関係を築くことを目指しておられます。
「りた」では、約60名のスタッフが、公共空間・施設の管理やまちづくりを支援する活動を展開しています。
まちづくり活動への興味に結びついた体験
1. バンド活動
天野さんは、少年時代に活動していたハードコア・パンクのバンドで、従来のライブハウスという狭くて閉鎖的な空間から、公園というオープンなスペースでライブをしようと思い立たれました。
公共の野外でとても激しくて喧しい演奏をするライブを開催するために、会場周辺の店舗や住民を周って承諾を取り付け(当初は会場近くのデパートや行政へ許可を取りに行ったものの、双方でたらい回しにされたとか)、そうして公園でのライブを続けているうちに、数百人規模のお客さんを動員する名物イベントになっていったそうです。
2. 無認可コミュニティガーデン
国有地とされて国が管理することになったものの、更地にされてから長く放置されてしまい、乱雑に蔓延った雑草による景観の乱れや犬猫の排泄物の臭いなどによって周辺の住民が迷惑を被る環境になってしまっていた、とある宅地の一区画。
天野さんと仲間がその区画をきれいに整え、さらに花だんを作ったことによって、区画周辺の景観・環境が改善され、住民の憩いの場になっていったということです。
2つの体験を踏まえて
「使えない公共空間 vs 表現したいパンクス」
「住民を追い出して更地にしてしまう官庁 vs 勝手に花だんを作る住民」
…一体どちらに理があるのか???
天野さんは、どちらのケースでも、後者(官のためではなく、民のためになること)を如何にグレーな範囲で実現できるかという立ち位置で行動を起こされたました。行動の動機も、使命感から来るものではなく、あくまでも楽しみを感じる気持ちから来たものだった、とのことでした。
活動事例紹介1:殿橋テラス
岡崎市を流れる川・乙川に架かる「殿橋」。
桜の花見や花火大会のとき以外はほとんど人が寄りつかなくなってしまっていたこの川を使ってみようと思い立って、当初は河川敷をキャンプ場として活用しました。都市の河川敷で多くの人たちがキャンプをするのはおもしろい試みでしたが、橋を車で渡る人にとっては欄干で視界が遮られてしまって、河川敷の活動が認知されないという問題がありました。
そこで、橋詰の広場をカフェとして活用することを考えましたが…
橋の欄干を使用することは、道路の占用
カフェのテラスを設置することは、河川の占用
…と見なされ、それぞれの利用許可を取り付ける必要があったほか、公共エリアを利用することによる警察協議・道路交通法・食品衛生法・広告物の規制など…様々な壁が立ちはだかりました。苦労も多かったようですが、壁をひとつひとつクリアして、橋詰のカフェテラスを実現。現在3年目ということです。
橋詰にカフェを設置することによって、町の新しいスポットとして賑わいがもたらされ、殿橋テラスのカフェとしてだけではなく、町自体の広告宣伝としても認知されたという効果が得られました。
公共の空間を利用するにあたって、あらゆる規制や制約に精通していて、かつ打開のヒントを提供したりフォローしてくれるのは、実は行政の方だったりする、ということも肌で感じられたとのことでした。
活動事例紹介2:岡崎市松本町
松本町は、古くから松應寺を中心に形成されたレトロな魅力が感じられる町ではあるものの、老朽化が進んだ家屋や店舗、狭い路地、かつて商店街が保守していたものの今となっては管理者不在となってしまった、建物と連結されている木造アーケードが建て替えを妨げていて、災害リスクも高まっているという状況にありました。
そこで、町内会や松應寺住職とともに発足させた「横丁にぎわいプロジェクト」で、アンケート実施によって町民が感じている問題を調査、得られた結果 ~町民の生の声~ を踏まえて、問題解決とにぎわい創出を目的とした基本計画を策定されました。
まず、寺の境内や路地、空き家を活用して、縁日が並んだお祭りが実施されました。このときには、町の住民と縁のある趣味の手作り作家さんが多く出店するなど、予想を遥かに超える数の人が訪れ、現在では毎回1000人を超える集客を誇るとのことでした。
さらに、そういった町のにぎわいを日常的なものにするために、空き家を利用した「なかみせ亭」が開設されました。軽食の提供や雑貨販売のためのレンタルスペースの提供をすることによって、地元の人にとっては井戸端会議の場、訪問客や出店希望者にとっては情報センターの役目を果たすようになったということです。
空き家の活用はさらに進み、アンティーク着物店・フォトスタジオ兼ギャラリー・あいちトリエンナーレ2013のイベント会場としての活用など、半年に1軒のペースで空き家が店舗に生まれ変わっています。
ここまできて、かねてからの懸案であった少子高齢化の課題に着手されました。町に住む高齢者が飲食の買い物に困っているという現状を踏まえて、営業日・時間限定の弁当屋が開設されました。
住民同士の交流の場となるのみならず、高齢者の体調変化に気づいたり、いち早く安否確認を行うなど「お年寄りを地域で見守る弁当屋」として機能しています。
さらに、老人会が作成したエコバッグを買い物袋として利用したり、健康マージャン会が行われたりなど、高齢者の生活の活性化が実現しています。
まとめ
現在なんらかの産業で潤っている都市も、将来その産業が(炭鉱の町、鉄鋼業の町のように)衰退したら…まちのにぎわいはいつ衰退してもおかしくない。
衰退したまちに、にぎわいをもたらすには?
衰退する前に、先手を打ってできることは?
それには、まちにある使いこなせていない資源を活用することを考えてみる、また、そのためには、そもそも、今ここにある資源に気づくこと。
「当たり前」に如何に気づけるか?
日頃から小さな違和感をつかまえる、それを言ってみる、伝えてみることが大切。それが、今ここにあるものに気づく視点や、活用に向けて実現する推進力の源泉になるということが述べられました。
最後に、JAISTの敷田さんからの要約が述べられました。
1. 活動が具体的になっていくときに、関係者とのつながりをつくっていく。
→自分の能力(持っているもの)を、多く伝えて展開する。
2. 専門家は相当に使える。
→まちづくりへの大きな推進力をもって、専門家を振り向かせる。
3. 資源の開発能力
→ものの意味を転換できるようになる練習をする。
所感
講義後半のワークでは、参加者がそれぞれに、地元・金沢のまちの現状や、金沢自体の認知に対して感じている「ちょっとした疑問」を問題として発展させ、解決や活性化のアイディアを自由に出す試みがされていました。
その他、地域性を越えた疑問として、公共空間の案内に対して問題を感じていること、コミュニティ同士がつながることやそのつながりを可視化することに対する問題提起もあったりと、身近にあるものに対して日頃から問題意識を感じている人が案外多くいることに刺激を受けました。
「小さな違和感を大切に」「楽しいことを楽しく」
非常に情報量も多くて中身の濃いセミナーの内容とは裏腹に、そんなちょっとした心がけが、既存のものに新たな価値の息吹を吹き込んで、身近な環境やコミュニティを活性化することへの力になるのだ、というメッセージを受け取れたように思います。
JAIST社会人セミナーについて
JAIST(ジャイスト)とは、北陸先端科学技術大学院大学の略称です。
この大学自体は石川県能美市にありますが、金沢駅前の日航ホテルに隣接する「ポルテ金沢」のオフィス棟の中に、金沢駅前オフィスとしてやや小規模な研修スペースがあります。
JAIST社会人セミナーは、毎月後半の水曜日に開催されています。
事前の申し込みは必要ですが、受講にあたっての前提知識や資格のようなものは特にありません。誰でも無料で参加できます。
北陸先端科学技術大学院大学ホームページ:
https://www.jaist.ac.jp/index.html
JAIST社会人セミナー案内(事前申し込みはここからできます):
https://www.social-jaist.com/
「地域人材育成セミナー」という別名のとおり、ここでの学びを、地元に、身近に展開して実践していくことで、地域の活性化に寄与することが主な目的ではありますけども...
あまり敷居が高いものと捉えずに、毎月後半あるいは月末の、水曜日の夕刻から夜にかけて。敷居の高い教育機関が提供する、気軽に参加できる学びの場。そこでひとときを過ごして学び楽しむのも悪くはないと思いました。
「水曜学ぶでしょう」試しに如何でしょう?