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mirageという曲

irony 君にだけ 時が降るよ

mirageの歌詞ド頭

歌い出しが「irony」と、いかにもタイトルっぽい英単語となっているが、
タイトルは「mirage」である。

別に「irony」でも良いんじゃないか、と内心思っている。

僕が作編曲を担当している「砂丘.coldsleep」(以下、砂丘)のファースト楽曲となっている。

【砂丘.coldsleepの制作スタイル】

砂丘は僕が作った楽曲データをボーカルに渡して、
ボーカルが作詞するという形をとっている。

この際、楽曲制作時のインスピレーションや意図、
仮定した世界観、解釈などはボーカルに伝えず、
あくまでボーカルが楽曲そのものから受けた印象で
作詞をしてもらっている。
(もちろん多少のすり合わせはするが、抽象的なイメージしか伝えていない。)

2人しかいないグループで、
かつサウンド面は全て僕がプロデュースしているので、
楽曲観の解釈まで全て1人で完結してしまうと、
僕のソロプロジェクトのようになってしまう…
そんな気がするからだ。

【mirageというタイトル】

楽曲データをボーカルに渡すとき、
データには仮タイトルが付いている。
これはDAWのプロジェクトデータ名をそのまま付けている。

仮のデータ名なので「song_1_yyyymmdd」の管理番号のようなものでも良いのだが、それだとその曲がなんの曲なのか分からなくなるため、
僕はどんな曲でも、
デモの骨組みが出来た段階で僕が分かるように仮の名前をつけている。
というか大抵の作曲家、DTMerはそうしているだろう。
そして、「mirage」はそんな仮タイトルがそのまま本タイトルに採用された。

…ワケだが、実は「mirage」に関しては初めにテーマが決まっていたので
タイトルが先についていた。
仮タイトルありきの楽曲制作だったのだ。

読みは個人的にはなんでも良いが、
一応フランス語読みの「ミラージュ」ぽい方を我々は採用している。
そっちのほうが、なんかかっこいいからだ。

【mirageというテーマ】

「mirage」
意味は蜃気楼。
ただ僕が仮定していたのは、
もう少し詩的に解釈した「幻想」だとか
「幻影」とか、そっち方面がテーマになっている。

このテーマはとある作品からインスピレーションを受けて決めたものだが…それは最後に。

まずは、mirageなサウンドデザインのために、今回僕がとった手法についてメモも兼ねて語りたい。
(頑張ったこと自慢のようで、またあくまでインストのトラック制作時の想いのみの話になるので楽曲の世界観を破壊しかねないが、noteは語りたいことを語るということにしているので語る。)

【幻想幻影感をトラックで表現する】

なるべくミニマルなパート編成で、
かつ掴みどころのないサウンドを表現するために
和音を構成する音をめちゃくちゃ減らした。

例えば、サビのあたまのコードはAbM7で
このコードのいわゆる構成音というやつは
Ab C Eb G
なのだが、バックのぼやーっとしたパッドは
Ab と G しか鳴らしていない。

というか、基本的にはこの曲のパッドはずーっと2音の和音しか鳴らしていない。(パッドの音色自体倍音成分が多めなので聴こえ方としてはもう少し複雑だが)

また、この2音の音程は7度であったり、6度であったり、3度であったり、コードによってころころ変わっている。

そうするとコード進行の性質が不完全にになり、
聴者の脳にぼんやりとした印象を与えられる、そんな気がしている。そうであってほしい。

このパッドの音色についても最後まで練っていた。
当初はもっと歪んでいて、ローが強めの音だった。
アタックは今よりも遅めで、そこでぼんやり感を表現していた。
ボーカルとスタジオに入って、デカい音を鳴らしながら試行錯誤したりするうちに、
リリース版のサウンドに落ち着いた。 

他にもあるが、似たようなテーマの他の曲を出すときに
書くことがなくなりそうなのでこの辺にしておく。

【ボーカルRECについて】

すこし砂丘の制作スタイルの話に戻る。

メンバーが2人しかいないので、スケジュールも割と柔軟に組める。
そのため、ある程度トラックが仕上がってきたら、
歌録と楽曲アレンジを並行して行っている。

歌を録りながら、全体のミックスをしつつ
ボーカルトラックのアレンジも併せて行うのだ。

ここは、ボーカル自身の意向と、僕の意向が衝突するタイミングとなっていて、
基本的にはかなり張り詰めた、真剣な空気感となる。
(これは "悪く言えば" 険悪な空気感、"超悪く言えば" ケンカをしている。)

まあ、それだけの想いを持って楽曲制作に取り組んでいる、というワケだ。(これは "良く言えば" )

【ボーカルのミックス・アレンジ】

ボーカルのミックス・アレンジでも当然mirage感を意識している。
ありきたりだがリバーブやディレイを深めにかけたりして、ボーカルの距離を離す、など…
ディレクションとしては、前半はクリックに歌を載せすぎないことを意識してもらうようお願いした。

ボーカルがテイクを重ねる度に、
僕が「あーなんか違うんだよなァ〜」と再テイクを要求していたため、10発ほど殴られたが
最終的に素晴らしいテイクをかましてくれた。
歌のディレクション力を上げるために、もう少し言語化能力も必要だな、と強く感じている。でないと今度は殴るでは済まされないかも。

慈しめば 慈しむほど 痛む
慈しめば 慈しむほど 痛む
慈しめば 慈しむほど 痛む
慈しめば 慈しむほど 痛む

mirage 3分あたり

この節のボーカルはエフェクティブだし、
楽曲を通して特徴的な部分だと思う。

いくつか録ったパターンを切り貼りしたり、リバースしたり、アレしたり、コレしたり…
メロディを打ち込んでいる段階からここのアレンジはおおよそ決まっており、
ボヤけた「幻想・幻影」くっきりとはっきりと、実態を持っていく様を、
ボーカルのミックスで表現することを目指した。

【mirageインスピレーション元】

さて、前半にちらっと書いた通り、
「よしmirageをテーマにしよう!」となったキッカケについて語る。

「旅のラゴス」という小説がある。

高度な文明を持っていた黄色い星を脱出した1000人の移住者が「この地」に着いた。人々は機械を直す術を持たず、文明はわずか数年で原始に逆戻りしたが、その代償として超自然的能力を獲得した。それから2200年余り経った時代、ラゴスは一生をかけて「この地」を旅する。

Wikipediaより

↑というお話である。
mirageのファーストインスピレーションはこの小説のラストから受けた。
ちなみにこれから、かなりボカすが浅めのネタバレがするため、旅のラゴスを読んでいる人、読む予定のある人は読み飛ばして欲しい。


ラゴスは旅の序盤で「デーデ」という少女に出会う。
なんやかんやあってラゴスはデーデにゾッコンになり、彼女の別れた以降の旅路でもことあるごとにデーデに想いを馳せることになる。
ちなみにラゴスは強めの主人公補正でかなりモテるため、
作中ずっとモテている(いいな〜)し、
結婚していたりしていなかったりしている。
波乱万丈、旅々の一生がようやく落ち着き、
ラゴスが実家でのんびりする物語終盤、
デーデらしき女性が、「氷の国」とやらにいる「氷の女王」として描かれている絵画を見つける。
ヨボヨボのラゴスはデーデに会うために氷の国へと最後の旅へ…


氷の国なんて本当にあるかわからない、
そしてあったとて、氷の女王=デーデである確証は全く無いのだ。
ラゴスの旅の動機は常に論理的だったのだが、
最後は己の直感と、デーデがそこに居るという幻想を抱いて旅路へ着くのだ。

本の中でこの旅の結末は分からない。

僕はこのラゴスの人生の、旅路の、
ラストシーンの続きを描いてみようと思った。

幻想へと続く旅路、終わりの無い終わりの旅路。
蜃気楼に映る氷の女王。蜃気楼に映るデーデ。

はじめはそんなインスピレーションから「mirage」を構想した。

作る中でその他の様々な影響を受けながら、
最終的には自分自身の感性をしっかりアウトプットできたと思う。

【終わりに】

あくまで上記は、僕がインストのトラックを作った際の話なので、
歌詞のイメージや、そもそも楽曲自体のイメージとは
全く別のモノであることを留意していただきたい。

作り手の元を離れて、
聴き手によって様々な印象や解釈ができる立体的な楽曲こそ
素晴らしい楽曲だと個人的には考えているので、
今後もそんな作品づくりを心がけていきたい。


以上。「mirage」聴いてね。

追伸
「旅のラゴス」についてクッソ真面目風に語ってはいるが、
お話の内容自体は結構軽めで、ラフに読めるので是非読んで欲しい。
ただ僕の様に勝手にめちゃくちゃ考察することもできるため、
考察勢はぜひ語ろう。

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