ハリケーン「ミルトン」直前、ギャラリーを訪れる【マイアミ】旅の私小説「喜悦旅游」#34
到着するなり、ハリケーンや空港封鎖など、まあまあ濃い体験をすることになったマイアミだが、そもそもの目的は「GALERIA AZUR MIAMI」を訪れることだった。
旅の相方、盛田諭史の2作品が、同会場で開催中の現代美術展「ACT5」に展示されている。ギャラリーでキュレーターにお目にかかり、色々なお話を伺おうとしていた。
約束の時間に、ギャラリーに向かう。すると、男性が迎えてくれた。あれ?約束しているキュレーターは女性なのに?そう思っていると、彼が事情を話してくれた。
「いや、実はね、彼女はちょっと遅れてるんだ。かなりどでかいハリケーンが来てて、いきなり子どもたちの学校が休校になったから、いったんお迎えに行かないと行けないんだよ。まずは、展示を見ながら、待っていてもらえるかな。」
展示には、世界各国から作品が集まっていた。平面作品、立体作品、多様な個性が面白く、「勢い」が共通していると感じた。今回のキュレーターが大事にしているところなのだろう。
今回盛田さんが出している2作品も、激しい勢いのある作品だった。10点ほどの候補の中から、これらが絞り込まれた理由が、実際現地に行ったら分かった。
案内してくれているS氏が、マイアミのアートシーン事情や中心地の推移、美術のマーケットにおけるマイアミの立ち位置などを、詳しく説明してくれる。よく聞くと彼は隣のオフィスの画商の方で、この日約束していたMさんがハリケーン対策で遅れているため、彼に対応を頼んだようだった。
画商という観点からのアートシーンの捉え方、盛田さんの作品への感想など、貴重なお話を伺うことができて、本当に良かった。
結構ゆっくり見せてもらったが、1時間ほどしてもMさんが来ない。「実は先週もハリケーンが来て、とんでもない被害があったところなんだよ。僕が住んでる地域は、ちょっと水没するぐらいで、まあそんなに深刻では無い。ただ、彼女の街は、水害で孤立する恐れもある。だから急遽対応しているのかもしれない。電話してみる。」
Sさんは親切に対応してくれた。『ちょっと水没』というのも、なかなかのことのような気がするが...(よく聞くと、トラックが半分水没するぐらいのレベルらしい。)先週水害に見舞われた地域がまたしてもハリケーンの通過地域になる見込みで、非常に緊張感が高まっているようだった。
Sさんが電話を渡してくれる。電話口の向こうは、担当のMさんだった。
「本当にごめんなさいね、警戒レベルが上がったので、子どもたちをみんなお迎えしなければならなくて、出て行けないんです。せっかくの約束なのに、本当にごめんなさい。対策も、急いでしなきゃいけなくて。」
「大丈夫ですよ。こんな時なので、諸々のお話は後日、テレビ電話でしましょう。」
「ありがとう。ぜひ、今回の展示と今後のコラボレーションについてお話させてください。あなたたちの宿は、避難計画は大丈夫ですか?宿に帰ったら、すぐ確認してください。それと、水をとにかく買っておくといいわ。あと念のため、電話番号を教えてください。こんな時だから、何かあったらすぐに助け合いましょう。」
今来ているハリケーン「ミルトン」は、歴史上最も大きなレベルらしい。台風だってそのようなレベルに立ち会ったことは無い。心強い言葉がありがたかった。お互い連絡を取り合うことを約束し、Sさんに丁重にお礼を述べて、ギャラリーを後にした。
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