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不思議な旅団|旅の私小説「喜悦旅游」#20

 2024年3月某日。わたしは確定申告の作業をしていた。

 これが最後の個人確定申告かと思うと、何か感慨深いものがあった。24年間一貫して行なってきた個人事業が、ひとつの区切りを迎えている。

 もちろん、何事も「最後」というものは厳密にはなく、終わっていたこと、途絶えていた道が急につながることもある。実際に、引退し、旅芸人としての役割を終えたはずのわたしが、来たる4月には旅回りの拠点としていたモントリオールの舞台に立つ。確定申告に並行し、衣裳の準備、靴の準備、髪飾りの準備、稽古など、バタバタした日々を過ごしていた。

 何事も、最後というものはない。最初というものすら、実ははっきりしていない。人生の全ては、「気づいたらそこにいた」そういうものなのだと思う。

 旅の道連れ、盛田さんと出会ってから数年後、わたしたちは事業を一緒に行うことになった。現在のRaymmaの前身「CENOTE」が2022年にスタート、その時は2人とも、それぞれの仕事と両立して行なっていた。2023年5月にRaymmaがスタートした時点で、わたしは個人事業を整理する方向に向かい、ついに一区切りとして最後の個人確定申告を行うこととなったのだ。

 毎年、確定申告は取り掛かるまでは憂鬱だが、いざ始まると呆気ないほどスムーズに終わる。今年は特に、下半期は事業を整理していくのみだったため、とてもシンプルなものだった。

 領収証は、自分の通ってきた道のり。ひとつひとつ点検するごとに、2023年という年の思い出が浮き上がってきた。旅ばかりしていたが、この間は色々なことがあった。個人事業の整理、2件の店舗の退去、神戸店への入居、株式会社設立に伴う、前身である一般社団法人CENOTEの廃業。そしてもちろんRaymmaの開業。

 法人、屋号とは不思議なものだ。それぞれ独立した人格のように個性が見えてくる。これらはすべてわたしとともに歩いてきてくれたものなのだ。旅の途中に開業廃業の手続きをしたり、納税したり、色々整えたり、引っ越ししたり。旅路の通ってきた道で共にあった仲間、それがわたしの個人事業「ホリスティックセラピー水と星」であり、CENOTEであり、Raymmaだ。

 盛田さんにとっては、長年手がけてきた事業も、旅の道連れ、メンバーだろう。わたしたち2人で旅をしていながら、なぜか不思議な旅団のような感じがしている。旅団が乗った船からCENOTEが下船し、わたしの個人事業が下船し、まもなく盛田さんの個人事業が下船する...。

 そんなことを空想しながら、電子申請のボタンを押した。


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