夜風とスモークミート【モントリオール】旅の私小説「喜悦旅游」#24
カナダの春は、4月に入ってもまだまだ寒い。
数日前は吹雪だったせいなのか、はたまた人通りがまばらだからなのか。夜の坂道は、なんとも寂しい風情。
数時間前空港に着いた時、迎えに来てくれた友人たちが「コロナ前後で街の様子は大きく変わったよ」と言っていたが、確かに想像よりもはるかに静かだ。
滞在先で少し休憩し、小腹が空いたので散歩がてら夕食に出ようとしているが、かれこれ小一時間、めぼしい店が見つからない。
このままではカナダ到着初日の夕食が、なんとも侘しいものになってしまう。盛田さんにとっては、初のカナダなのに。焦りはするが、もう今日は軽食でも仕方ないかもしれないと覚悟した。
それでも歩みを進めたのは、「もしかして」という思いがあったからだ。かつて踊り子の頃、夜ご飯に立ち寄ったり、楽屋に持ち帰りしていた、あの店だったら…?
先に気づいたのは盛田さんだった。「あれ、あの店開いてるよ!」
そう、ここだ!ここならやっていると思った。
90年余の歴史を持つ庶民派食堂、「シュワルツ」だ。名作ミュージカルのモデルにもなったこの店は、いつでも長い列ができていた。(実際、主題歌も長蛇の列のことを歌っている!)
今夜は、並んでいないようだ。もしかして、灯りが着いているだけ?はやる気持ちを抑え、ドアを開ける。すると、勢いよくお兄さんが「いらっしゃい!」
よかった、開いていた!
ここの名物メニューは、スモークミート。大盛りのスモークミートに、これまた山ほどのパンがドン、と景気良くついて、フライドポテトとピクルスが添えられてくる。
あらかじめサンドイッチにしてもらうこともできる。極めてシンプルなメニューだが、ひとつ注意点がある。
かなり盛りがいいので、初めて頼む場合は「半盛り」で頼むか、同行者と大盛りをシェアして、様子を見ながら追加していくといいだろう。
ユダヤ人一家に伝わる、スパイスの効いた秘伝のレシピ。厚切りで迫力あるミートだが、舌の上でホロホロと、とろける感じが絶妙!塩加減もちょうどよく、まろやかだ。
お好みのソーダと一緒に食べると、活力が一気にみなぎってくる!
半盛りとサンドをそれぞれ頼み、シェアしたが、かなり満腹になった。
食を求めて、初日から結構歩いてしまった。しかし結果的には、初日にベストな名物を食べられて、モントリオール気分がかなり上がった。
街にはいろいろな変化があるけれど、変わらないものもある。いろいろな意味での「時」を感じられる日だった。
帰り際、レジのお姐さんに「美味しかった!なんだか安心する味だった!」と伝えたら、「そりゃそうよ!うちは90年やってるんだもん!」と威勢よくお返事。
長く愛されるのは、味はもちろん、お店の皆さんに素晴らしい活気があるからだと確信した。
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