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夜風とスモークミート【モントリオール】旅の私小説「喜悦旅游」#24

とある月曜の夜。わたしはカナダ・モントリオールの中心部を歩いていた。かつて住んでいたこの街に足を踏み入れるのは、実に10年ぶりだ。今回は、国際的なバーレスクの祭典「Bagel Burlesque Expo」に、MCとして招聘していただいた。そして、同大会のカメラマンとして、盛田さんが同行していた。わたし達の珍道中は、ついに海外に足を踏み入れたわけである

かつて踊っていた会場の一つ。
目抜きのサンロラン通りに面しているが、この日の人通りはまばら。

 カナダの春は、4月に入ってもまだまだ寒い。

 数日前は吹雪だったせいなのか、はたまた人通りがまばらだからなのか。夜の坂道は、なんとも寂しい風情。

 数時間前空港に着いた時、迎えに来てくれた友人たちが「コロナ前後で街の様子は大きく変わったよ」と言っていたが、確かに想像よりもはるかに静かだ。

チャイナタウンのお店も、早々に閉まっていた。月曜日だからなのか?

 滞在先で少し休憩し、小腹が空いたので散歩がてら夕食に出ようとしているが、かれこれ小一時間、めぼしい店が見つからない。

 このままではカナダ到着初日の夕食が、なんとも侘しいものになってしまう。盛田さんにとっては、初のカナダなのに。焦りはするが、もう今日は軽食でも仕方ないかもしれないと覚悟した。

 それでも歩みを進めたのは、「もしかして」という思いがあったからだ。かつて踊り子の頃、夜ご飯に立ち寄ったり、楽屋に持ち帰りしていた、あの店だったら…?

 先に気づいたのは盛田さんだった。「あれ、あの店開いてるよ!」

 そう、ここだ!ここならやっていると思った。

 90年余の歴史を持つ庶民派食堂、「シュワルツ」だ。名作ミュージカルのモデルにもなったこの店は、いつでも長い列ができていた。(実際、主題歌も長蛇の列のことを歌っている!)

 今夜は、並んでいないようだ。もしかして、灯りが着いているだけ?はやる気持ちを抑え、ドアを開ける。すると、勢いよくお兄さんが「いらっしゃい!」

とても庶民的で、清潔なお店。そしていつ来てもフレンドリー。

 よかった、開いていた!

 ここの名物メニューは、スモークミート。大盛りのスモークミートに、これまた山ほどのパンがドン、と景気良くついて、フライドポテトとピクルスが添えられてくる。

これが半盛りだ。奥にあるのがサイドのフレンチフライで、結構盛りが多いのがポイント。

 あらかじめサンドイッチにしてもらうこともできる。極めてシンプルなメニューだが、ひとつ注意点がある。

かなり盛りがいいので、初めて頼む場合は「半盛り」で頼むか、同行者と大盛りをシェアして、様子を見ながら追加していくといいだろう。

パンはムギュッとした食感で、こんなにたくさんついてくる!お腹いっぱい!


 ユダヤ人一家に伝わる、スパイスの効いた秘伝のレシピ。厚切りで迫力あるミートだが、舌の上でホロホロと、とろける感じが絶妙!塩加減もちょうどよく、まろやかだ。

 お好みのソーダと一緒に食べると、活力が一気にみなぎってくる!

サンドのボリュームはこれぐらい!


 半盛りとサンドをそれぞれ頼み、シェアしたが、かなり満腹になった。

 食を求めて、初日から結構歩いてしまった。しかし結果的には、初日にベストな名物を食べられて、モントリオール気分がかなり上がった。

 街にはいろいろな変化があるけれど、変わらないものもある。いろいろな意味での「時」を感じられる日だった。

時にしばし、思いを馳せる。

 帰り際、レジのお姐さんに「美味しかった!なんだか安心する味だった!」と伝えたら、「そりゃそうよ!うちは90年やってるんだもん!」と威勢よくお返事。

 長く愛されるのは、味はもちろん、お店の皆さんに素晴らしい活気があるからだと確信した。

ペロリ、完食!ごちそうさまでした。

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