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『シャイン』人生が輝き出す瞬間|名作音楽映画レビュー
1996年公開『シャイン』。
20年ぶり位に見たけれど、思わず号泣してしまいました。
音楽の好きな人には、特に心に響く作品です。
両手を広げて青空を仰ぐ写真で有名
青空に向かって両手を広げている、とても印象的な『シャイン』のメインビジュアル。
この作品の魅力と、主人公と観客が感じるカタルシスをよく象徴している。
映画を観た後だと、これがいかに優れた映画写真であるか、理解できる。
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『ショーシャンクの空に』と混同注意!
ちなみに「両手を広げて空を仰ぐ」で有名なのは、『シャイン』の他に『ショーシャンクの空に』があります!
同じくらいの時期に公開されたこともあって、全く異なる内容ですが、ごっちゃにされたり、比較されたりしがちな2作品です。
これらが有名すぎて、もう、画面右上に向かって両手広げて仰ぐ人のビジュアルは永久欠番気味ですよね。(あとはプラトーンとか?)
両方とも名作で開放感あるので、続けて見るのもおすすめです。
3つの見どころ
1.実在するピアニスト
デイヴィッド・ヘルフゴットの半生
「実話に基づいた」と言うのが、この作品の感情移入できる最も素晴らしいところ。(実際には、違うところもいくつもあるらしい。)
オーストラリア出身の現役ピアニストであるデイヴィッド・ヘルフゴットの半生を映画化しています。
自分も魂を取り戻していくような感覚になったり、最後に幸せな気持ちになったり、魂を揺さぶらて号泣できるのは、実際にあった出来事であるというのが大きいと思います。
2.ヘルフゴット本人の演奏
手だけが映っている演奏は、デイヴィッド・ヘルフゴット本人が弾いているのも魅力の1つ。
ラフマニノフのコンチェルトだけでなく、ショパン、「熊蜂の飛行」「ラ・カンパネラ」など、様々なクラシックの名曲が奏でられます。
しなやかで引き締まった長い指が美しく、ピアニストらしい手ですよね。
3.主演ジェフリー・ラッシュの名演技
今の若い人が、彼の顔を思い出すのに最も有名なのは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のバルボッサ役でしょうか?
この映画の見どころの1つは、本当に演技かと思うようなジェフリー・ラッシュの存在感にあります。この『シャイン』の演技で、彼は、アカデミー主演男優賞など数々の賞を総なめにしました。
10年以上精神病を患っている、元天才ピアニストというリアル感が凄かった。早口の吃音やら、父親に見せる困惑の表情、無邪気な人懐っこい笑顔、大勢の観客を前に感極まる場面。
哀愁や悲壮感を見せると同時に、チャーミングで情熱もある魅力的な人間性を、豊かに演じています。
ヘルフゴット本人とも、雰囲気がよく似ています。
実際、ジェフリー・ラッシュは14歳までピアノを習っていて、この作品のために猛特訓したそうです。ピアノをやったことない人の弾き真似は見るに耐えられないので、彼はそういう意味でも、この映画で演じるために生まれてきたのか、と思うくらい一体感がありました!
印象に残ったところ
水の表現
デイヴィッドの気持ちは、水の表現に象徴的されています。
プールや風呂で泳いだり、浮かんだりするデイヴィッド。
ピアノを弾きながら飛び散る汗、蛇口から漏れる水滴などに注目して、どんな感情が表現されているのかを考えるのも、興味深いかもしれません。
親目線でざわつく胸の内
この作品の、彼の父は今で言う「毒親」です。
自ら体験してきた悲しい過去、音楽への執着、息子への強すぎる愛が歪みとなってデイヴィッドを束縛し、私たちの胸を締め付けます。
この父がいなければ、もっと豊かな人生があったと思うと同時に、この父がいなければ、ピアノを始めることも、優れた才能を誰かに見つけてもらうことができなかったのも確かです。
今回の私は、数十年前の学生時代に見た時には感じなかった、親としての胸のざわつきを感じてしまいました。
何か後ろめたさがちらつくのです。
自分の言葉や振る舞いが、子供の興味や才能を潰してないだろうか?
子供の進もうとする世界を、広げているだろうか?限定させてはいないか?
我が家の子供たちは、4月から高校生&中学生。
青春時代を音楽に捧げる子どもたち
ピアニストやヴァイオリニストなどの難しい楽器の名演奏家になるには、才能のある子が長時間の英才教育を施された上で、その中の一握りだけにスポットライトが当たるような世界。
五嶋みどりさんも服部百音さんも、著名な方々は皆、一般人が仰天するような練習エピソードを持っていますよね。
私は、全く熱心でなくヴァイオリンを習っていたので、そんな世界とは無縁でしたが、ご縁で娘が習っているママ友の先生は、正統的な教育を受けてきている音大出身なので、現代の様々な指導方法や業界の話を聞く機会があります。
小さな時からコンクールを目指すような子供達は、音楽家の親を持ち、特別な先生に通っている子ばかり。とにかく親が鬼のような形相でつきっきりで練習させるのが普通だと聞きます。その間に親との関係が壊れてしまったり、精神を追い込まれてドロップアウトしてしまう人も多くいます。
幼い頃から青春時代の多くの時間を音楽に捧げて、あの神のような音色を手に入れているのです。スポーツや他の芸術もそうですが、崇高な音楽の道は、とても過酷なものです。
ラフマニノフ
ラフマニノフのコンチェルト3番が出てきますが、ラフマニノフの曲は技術的にも音楽表現的にも難しいと言われています。
偉大なピアニストの作った曲。
ヴァイオリンでいうところの、パガニーニやサラサーテ、ヴィエニャフスキの存在が少し近いでしょうか。(私はクライスラーが一番好きですが)
今の時代は、若い人達が大勢、超絶技巧と言われる曲を弾きますが、弾き方が開発されたり、幼い頃からの訓練法や学習法が整備されてきたからなんだろうなあ、と感じます。
ここまで、お読みくださり、ありがとうございます。