藤沢もやし著『17歳の塔』が思った以上に純粋で素敵だった件
講談社の『Kiss』誌の電子配信コンテンツで『プチキス』というのがあるらしく、そこから発行された電子コミックス、藤沢もやし先生の『17歳の塔』を読みました。
主人公はある中高一貫女子校高等部の2年3組の女の子「たち」。
第1話では、高瀬理亜(たかせ りあ)という自他ともに認める校内一の美少女にスポットが当たります。校内ではみんなのあこがれの的で、でも次々と応募しているモデルのオーディションでは最終選考までは残れない…そんな女の子。
とはいえ校内、こと2年3組ではヒエラルキーのトップに君臨していると彼女もクラスメイトもみんな認識していて、クラスメイトにとっては彼女の近くにいられることがステイタスであり、ゆえに彼女のわがままは何でも通り、みんな彼女のご機嫌取りに必死です。
中でも、理亜に犬のように慕い尽くす小田島美優(おだじま みゆう)は、信者といってもいいくらいの存在。しかしそんな小田島が、理亜以外の生きがいを見つけてしまったことから、絶対だと思われたヒエラルキーが一気に崩れます。
小田島は、容姿も十人並みよりやや下で、特に何のとりえもない女の子でした。それが理亜と一緒にいたことで有名になり、いつの間にか交友の輪を広げて生徒会の活動を手伝うようになります。そこから2人の間には亀裂が入り、ある時決定的な事件が起こるのです。
理亜に無視されてから数日間学校を休んだ小田島が、なんとある日、年上のイケメンに車で送ってもらって学校にやってきたのです。彼氏持ち率の低い女子高では、それだけでその他大勢から抜きんでるのに十分でした。
焦って小田島を呼び出し、屁理屈をこねて年上イケメンとの付き合いを止めようとする理亜。しかし本音を見透かされ、指摘し返されただけでなく、モデルのオーディションに落ち続けていたことまで揶揄されます。それに理亜は逆上。あろうことか一方的に暴力をふるい、そのことが広まってヒエラルキーの頂点から転がり落ちてしまうのでした。
……というまあ、女子高生あるあるというか、死ぬほど馬鹿馬鹿しいけど渦中にある人間にとっては死活問題ともいえる、女子高社会のヒエラルキーの話です。もちろんこの後も、次々と頂点に立っては引きずり落されるという地獄絵図が続きます。
しかし、こう書くとただのドロドロした下世話な話だと思われるかもしれませんが、この作品で本当に大事なのは、それを越えていく女子それぞれの姿です。
『17歳の塔』の第1話は、こんなモノローグで締めくくられています。
私はこの女よりは上 でもこの女よりは下
自己愛と劣等感で積み上げられた高い高い塔が
この教室の中には聳え立っている
(『17歳の塔』第1巻44ページ)
そう、この物語では、そんなヒエラルキーが死ぬほど馬鹿馬鹿しいことなんか大前提なのです。
言ってみればこれは、その高い塔を“乗り越える”話ではないでしょうか。高校生なんて、長い人生のほんの一時。2年3組が終わるとき、彼女たちはそれぞれ、自分の生き方に決着をつけます。
自分の弱いところを認める、友人の失敗を水に流す、本音で相手にぶつかる。
解決策は、そんな普通のことばかり。さんざん悩んだ末にその普通の解決策をとれる少女たちに、きっと誰もがほっと息をついて納得することでしょう。
………しかし、そんな普通のことができる女子高生が現実に一体どれだけいるというのか?
絶対に無理! 何とか耐えて1年をしのいで、ほとぼりが冷めたころに白々しく付き合いを復活させるか、結局誰にも本当の気持ちを打ち明けられず大人になっても引きずるかのどちらかです。少なくとも私は!(多分後者)
この物語は、現実よりずっとずっと清く美しいです。地獄絵図のようなヒエラルキー合戦を繰り広げておきながら、それをなかったことにするでも体裁を整えるでもなく、至極まっとうな形で決着をつけて次に進む、少女たちは強く気高く美しい!
というわけで、女同士のドロドロをではなく、素敵な女子高生たちの未来へ向かう1ステップの物語として、『17歳の塔』おすすめです。