「鏡の前のわたし」
排水口は乾いている
排水の網の目の中
色とりどりの錠剤がみっしりと埋まっていた
丸薬のようにも子ども菓子のようにも見えた
水色の薬、ひときわ
夢の中で
わたしは
排水口を見ていた
夢の中で
それは薬だと認識されていた
排水口は乾いていた
排水口は乾いている
排水口が乾いている
水を使った形跡が
生活している気配がないということだ
私は今までどこかにいたのだろうか
排水口を見ているのは自分で
そこは自分の家で
頻繁に使う洗面台で
いつも映すはずの自分も
生活感剥き出しのドラム洗濯機も
少しだけ開いていて冷気の吹き込む窓と
奥の浴室すら一切映像は出てこない
ただ乾いた排水口の網に水色や白や赤い薬のカプセルが詰め込まれている
それを見る自分が立っているのはわかる
その後
その薬がどうなったのか
夢の中の自分がどうなったのかはわからない
日が経つにつれてなのか
目が覚めても、そう記憶にあったのか
鏡、砂色と水色と白色とアース色の石
透明感はあるのに黒い血の塊のような石鹸と
濡れたようなピンクと透明な蜃気楼色の硝子玉に植えられた
西洋の万年青のような葉を見ている情景
そこは現実とは違い
可愛らしく明るく清潔な、透明感のある
ピーチな女子の脱衣場
確かに家の洗面所なのだった
少し開いた窓からは、永遠のような昼下がり
午睡の宿で、人々は眠る
一朔日から三日夜過ぎて
東の空に月が出る
それが約束だったかのように
雷の後にわかること
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