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『できる研究者の論文生産術』(ポール・J・シルヴィア)

思わすサーイェッサーと答えたくなる鬼教官ぶりである。なにせ、次のような「言い訳」を叩き潰してくれるのだ。

「書く時間がとれない」
「まとまった時間さえとれれば、書けるのに」
「もう少し分析しないと」
「もう少し論文を読まないと」
「文章をたくさん書くなら、新しいコンピュータが必要だ」
「気分がのってくるのを待っている」
「インスピレーションが湧いたときが一番よいものが書ける」

そう。これらは(著者からすれば)「言い訳」である。こういう言い訳を口にしている間はいつまで経っても執筆が進むことはないだろう。

では、どうすればいいか。著者の提案はシンプルだ。書く時間を確保し、その時間に書く。以上である。

いやいや、そんなことができるなら執筆なんか苦労しないよ、という声が聞こえてくる。まさしくその通りなのだ。これができるなら執筆の苦労は(決してゼロにはならないが)かなり楽になる。ただ、その環境を整えるためには大きな苦労が必要となる。あとは、その気概があるかどうかの話である。

早起きしたり、社交性を欠損させるくらいなら執筆量は増えなくても構わない、という方はここでさようならだ。残念ながら、全ての願望をかなえる聖杯はこの世界にはない。何かを手にすれば、何かを失う。言い換えれば、何かを得ようとするとき、別のものを得る可能性は手放すことになる。その事実さえ受け入れれば話は簡単だ。執筆に向かって邁進すればいい。

著者は、以下の四点で指針を示す。

・計画立案
・短期目標
・進捗把握
・習慣化

どれも重要な要素だ。計画を立て、短期の目標を設定し、日々の進捗を確認した上で、書くことを習慣にしてしまう。ここまでくれば、あとはその繰り返しである。そこにはドラマになるような波乱万丈さは生まれないが、日々文字数は増えていく。それ以上でも、それ以下でもない。しかし、ある系ではそれこそがすべてかもしれない。少なくとも、アウトプットで評価される世界であれば、どれだけたくさんの「書くつもり」を持っていても、評価の土俵に上がることはできないだろう。書くことは、何よりも必要なのだ。

もう一つ興味深いのは、ある種のグループ作りが勧められている点だ。これは、ネットで孤立しがちな書き手にとっては有益なアドバイスだろう。社会共同体の中で生きることがDNAに刻印されている私たちにとって、他人の目の存在は強力である。協力体制の中で、自分を動機づけることができれば、執筆の習慣化に役立つはずだ。もちろん他人におんぶに抱っこでは協力とは言えないので、自らもグループに貢献していく心構えは最低限必要だろう。

ちなみに、タイトルが示すように本書は「論文」に焦点を置いた本である。技術書や実用書はその範疇に加えてもいいだろうが、文芸作品はカテゴリー外である。しかし、そうはいっても、たくさんのアウトプットを目指すのであれば、本書が示す指針は間違いなく有益なはずだ。


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