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『フェッセンデンの宇宙』レビュー
『フェッセンデンの宇宙』〈河出文庫版〉
エドモンド・ハミルトン (著) 中村 融(編・訳)
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『反対進化』の紹介でも触れておきながら、そういえばちゃんと紹介していなかったわ~というわけで、あらためて、こちらもレビューしておきますね。
これは、エドモンド・ハミルトンの傑作『フェッセンデンの宇宙』のスペシャルバージョン、いわば完全版ともいうべき短編集です。
実は、早川書房から1973年にも同じ書名『フェッセンデンの宇宙』として短編集がでています。が、いわゆる銀背本で当然絶版ですから今では入手は困難。図書館にもあまり入っていない幻の短編集になっています(Amazonで中古が5999円ですってよ)。
今回取り上げるのは、2004年に河出書房から出版された(表紙がかわいい)版の、それまた改訂された文庫版(2012年)です。
同名の本ですが、ハヤカワ版と河出書房版で収録作が変わっており、さらに文庫になって3作品が追加収録されていて、新しくなるほどお得になっているかんじですw
版によって内容が変わってしまっているので、まず、この版に乗っているお話をそれぞれ順番に紹介しておきます。
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『フェッセンデンの宇宙』
宇宙創造者モノ。前にも書きましたがドラえもんの『のび太の創世日記』の元ネタですね。
面白いことにこの短編集には2本同じ作品が入っています。
こちらは1937年※にウィアード・テイルズ誌に掲載されたいわばオリジナル版。なぜ2本入っているかについては後述。
※最初1973年と間違って書いていました。それは早川の邦訳本が出た年でした。すびばせん! お詫びして訂正です!><
『風の子供』
SFテイストの秘境冒険譚。ハミルトンはエイブラハム・メリットのファンだったようで、メリット的な雰囲気の冒険譚小説も多く書いていました。そうしたなかの良作。タイトルどおり、「風」そのものが「生きている」という奇想を軸にしたロマンティックな作品。
『向こうはどんなところだい?』
火星探検の栄光を背負い、帰還した男が、過酷すぎる異星の現実と、それを想像もできない地球上の人々の認識のギャップに苦しむ話。1933年に初めて書かれたものの、SFと言えば未来の夢だった時代に、「冷徹すぎる」と長い間どの雑誌にも載せられなかった作品なのだとか。
『帰ってきた男』
SFではなく、いわゆるゴースト・ストーリー。ハミルトンの別の一面。それでも痛切な「オチ」はとてもハミルトンらしいと思います。
『凶運の彗星』
古典的な「侵略もの」。この中に登場する「金属の身体に脳を移植した宇宙種族」というアイデアはなんとハミルトンが元祖だそう。この発展形はもちろんキャプテン・フューチャーのサイモン・ライト教授なのですが、その前にR・ジョーンズがジェイムスン教授シリーズを書いてしまったのであまり元祖扱いされていないのだそう……そんなところもなんだかハミルトンらしいですね><
『追放者』
SF作家が主人公のメタ・ストーリー。初めて読んだときは「やられた!」って思いました。小気味の良いショートショートです。うまいなあ。
『翼を持つ男』
ミュータント・テーマの良作。背中に翼が生える奇病(?)を持って生まれた男は、自由に空を飛ぶ鳥の世界と、地面に縛られた人間の世界の両方から、どちらで生きるかの選択を迫られる……。ミュータントの心理的な葛藤が胸を打つお話。
『太陽の炎』
水星探検のお話。『向こうはどんなところだい?』の水星版で、裏返しの内容になっているところが興味深いのです。ハミルトン特有のほろ苦い後味。
『夢見る者の世界』
SF版『胡蝶の夢』なのだけれど、単純に胡蝶の夢の亜流ではなくひとひねりあるところが奇想的で面白いのです。
『世界の外のはたごや』
ハミルトン自薦のマイ・ベストSF短編とのこと。ご自身も言われているとおり、センス・オブ・ワンダーの「ワンダー」をとても重視されていたのだなあと思えるワンダーなお話。
『漂流者』
『追放者』のようなモチーフを、あろうことか(?)エドガー・アラン・ポーの世界で行っているこれまた奇想SF(かな?)の良作。古典ミステリーファンに読んでほしい!
『フェッセンデンの宇宙(1950年版)』
なんと同じ短編集に同名のお話がもう一つ。巻頭にのっているのは最初に書かれた版で、こちらは1950年に単行本に収録するためにリライトしたバージョン(を底本にして訳した版)。
翻訳後でも、こんな言い方をするとハミルトン大先生に大変失礼なのですが、昔の版より作家が「うまくなっている」のがわかります。旧版ではわかりにくかったというか、奇想に気を取られて逆方向に読み取られかねないテーマがしっかり読み取れるようになっていて、面白いだけでなく考えさせられる傑作となっています。
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どのお話もハミルトンらしい傑作ぞろいですねー。面白いですよー。
『凶運の彗星』の所にも書きましたが、今では普通に使われているいろんなSFのアイデアがけっこうハミルトン作品が元になっているのもびっくりです。
編者あとがきより
この頃の作品は、何より斬新なアイデアを特徴としている。ハミルトンが考案したアイデアをあげれば、「極小宇宙(ミクロコスモス)と極大宇宙(マクロコスモス)の戦い」「透過不能の完全暗黒光線」「歴史の各時代から有能な戦士を集める」「金属の体に脳だけを移植した宇宙人種族」「人類家畜テーマ」「物質転送機による惑星間輸送」「空中都市」「鋼鉄で覆われた惑星」……と枚挙に暇がない。
これら、全部ハミルトンのオリジナルアイデアなんだそうです。
なんともすごい発想力。今は使い古されたアイデア(というか、どっかの映画まんまこれじゃんw)に見えますが、そんな発想がなかった当時の読者に与えたセンス・オブ・ワンダーは計り知れませんねえ。さすが奇想SF作家! といいたくなります。
ですが、ご本人はあまりこのアイデアに頓着せずに応用しないで使い捨てていたりただ使いまわしていたりしたようで、そのあたりももったいないですね><
時代を先行しすぎて雑誌に載せられなかった話や、後から他の作家さんの手で応用されて一般化したアイデアなんかもたくさんあるようです。
とはいえ、さすがは元祖、この短編集はどの話をとっても面白く、今読んでも十分奇想の世界に入り込めてセンス・オブ・ワンダーを味わえます。
SFネタに困っている書き手さんは参考にするといいかも。。。(あ、やっぱりダメです。私が使うまで待って!(ぉぃ))
そうそう、以前紹介した
↑には、ハミルトンが大好きという不思議な少女が登場して、この本についても熱く紹介してくれます。SFマニアでも有名な山本弘さんの作品ですから、やっぱりハミルトンはその筋に受けるのかもしれませんねw
※この『翼を持つ少女』もとても面白い本ですからちょーおすすめですけど、できれば、まずこの『フェッセンデンの宇宙』を読んでから読まれることを推奨しておきます。合わせて読むと二重にグッとくる仕掛けがありますよ♪
さてさて、好きな本なのでまた長くなっちゃいましたのでここらへんで。
とにかくハミルトンと言えばこれ! と言える短編集です。古典と侮らず読んで見てください。今のSFではちょっと見当たらないピュアなセンス・オブ・ワンダーを味わえますよー。
※本来、同タイトルの短編集を別に編纂するのも変な話なのに、そのうえ同じ話を2パターン載せるという無茶をしたくなるのもよくわかります。編者さんもハミルトンと言えばこれ!(キャプテンフューチャーだけじゃないよ!)と言いたかったのでしょうねw
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