SS・タバコ物語・7/7【iQOS~outro】(2012字)
←「CHAMPIX」
煙の匂いが苦手になってきた僕の前に現れた「iQOS」という名の煙草は、煙を出さない「加熱式タバコ」だという。「煙のようなもの」は出るが、その正体は蒸気。通常の煙草同様、紙筒に詰め込まれた葉の隙間にある水分を専用のデバイスで加熱し、その蒸気に煙草の成分が混ざったものを吸う。煙草という漢字表記も揺らいでしまうほどの技術革新だ。それらのパッケージには「煙草」ではなく「タバコ」「たばこ」という表記が使われていることが多いように思う。そもそもタバコは外来語。スペイン語やポルトガル語の「tabaco」を語源としているという。背広が「Savile row」、簿記が「bookkeeping」、画廊が「gallery」というように、日本語顔をしているが実は外来語、というパターンだ。そういう意味では、「煙草」は「タバコ」への原点回帰を果たしたのかもしれない。“蒸気草”では、あまりしっくりこないだろう。
当初は「煙草はオイルライターで火を点けてこそ」という何の得にもならないプライドを持っていたが、元来ガジェット好きな僕がiQOSに飛びつくのに時間はそうかからなかった。約3年に渡る非喫煙者生活で煙の匂いが苦手になってしまった僕にとって、まさに渡りに船。独特の匂いはあるものの、スーツや車内に付く煙草臭さは激減した。そしてiQOSに装填する「ヒートスティック」もマールボロブランド。難なく移行することが出来た。
懇意の女性に合わせるでもなく自分の意志で煙草を変えたのは、これが初めての事だった。
*
「outro」
そして現在。
結婚して娘が生まれ、家族の前で喫煙することはない。結婚当初は妻が離れた場所にいるのを確認して換気扇の下やベランダで加熱式タバコを吸っていたが、妊娠が分かってからはそれもなくなった。いや、表向き「タバコは辞めた」ことになっているので、妻と娘が寝静まった後や入浴中、ゴミ出し等のタイミングでこっそりと吸っている。そんな訳でデバイスも、より匂いが気になりにくい「glo」に変えた。吸ってはいけない年齢の時に堂々と吸っていたものを、まさかこの歳になって隠れて吸うことになるとは思わなかったが、それも家族あってこそのこと。「“家族が”などと言うならば本当にやめてしまえ。お前だけの身体ではない。」などと言われそうだが、これはこれで僕にとっては必要な時間なのだ。「嗜好品」とはよく言ったもので、好きな煙草を嗜む時間は何物にも代えがたい。こんな駄文の内容検討も、大抵はこの短い時間で行っている。この時間が無ければ、今回のように自分の過去を振り返り、掘り下げることもなかっただろう。
仮に煙草1本が1,000円になったら、平均的なサラリーマンの給料ではやっていけないだろう。1箱2万円となれば、今の僕は恐らく2万円分のチョコレートを選ぶ。そうならないうちは少々の上り幅には目を瞑り、国家にとって「いい鴨」となり納税を続けていく所存だ。
出来れば高額納税をしたくない、という気持ちがあるのは大前提として。
煙草/タバコ/たばこ。好き/嫌い、良い/悪い、賛/否、吸う/吸わない。こればかりは人それぞれだが、僕はこれからもこっそりと煙を燻らせる。もしも煙草を曜日に例えるなら…。
煙草物語/タバコ物語 fin.
あとがき
小説のような、エッセイのような、どっちつかずの長々とした文章をお読み頂きありがとうございました。普段とは違うスタイルで書くのもなかなか面白いとは思いつつ、正解が分からないまま7分割して投稿してみました。テーマが煙草ということで、煙草を得意としない方には文字通り“煙たい”投稿だったかもしれません。また、あまり人には言えないような不埒なエピソードもそのまま綴ったので、ドン引きされた方もいらっしゃるでしょう。それでも、僕は元来こんな人間です。煙草は吸うし酒も飲むし、倫理観や道徳心がバグっている部分は多分にある、その辺にたくさん転がっているダメなオッサンのうちの一人です。もしかしたら「思うさん、小説いけんじゃね?」という奇特な感想を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは難しいかもしれません。創作に関する才能を持ち合わせていないため、実体験に基づかない話を書くのは不得手です。
また何か思い出すことがあれば似たテイストの記事を書くことはあるかもしれませんが、しばらくは通常営業に戻りたいと思います。
最後になりますが、今回の物語を書くにあたりヒントをくれたCAおとうふさん、前段となる「煙草について思うこと」に素敵な記事を掲載させて頂いたakmitaさん、渡邊惺仁さん、おかげさまで僕のクリエイターページを大好きな煙草で埋め尽くすことが出来ました。
ありがとうございました。