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「プロテインを飲みましょう」

通っているジムのインストラクターからの提案だった。
プロテインが、筋肉の発達に役立つらしいことは知っている。
しかし、何がどうなってそうなるのか、どんな成分でできた何者なのか、私はよく知らない。
インストラクターの引き締まった身体、まっすぐな目、曇りなき笑顔、快活な声、白い歯、etc……
それらもプロテインの賜物だろうか。
私の濁った目とねじ曲がった性格は、プロテインには荷が重すぎるのではないか。
「はあ」と曖昧な返答をし、話題を切り上げた。

40年以上生きていれば、生活範囲内の物事の大半はすでに経験済みだ。
こうすればこうなる。
原因と結果。
A+B=C。
経験から結果の想像できる物事を私は好む。
逆に、想定外の変化や、未経験の出来事を、加齢とともに嫌うようになった。
例えば、これまでと同じように飲み食いしても腹が出る。
スリムになるならまだしも、どんどん出る腹に腹が立つ。
腹が頭に来る。
A+B=D。
出た腹を引っ込めようとジムへ入会し、その一環で薦められたプロテインだった。

インターネットで調べた所、プロテインはたんぱく質を主成分とする粉末のようである。
飲みやすくするために、様々な味付けがなされている。
近所の量販店に寄った際、手に取ってみた。
SAVAS(ザバス)。
まず名前が強い。
いかにも効きそうではないか。
そしてキャッチコピーがこれだ。
「理想の筋肉のために」
私にそんなものはない。
筋肉に理想を抱いていない。
ただ出た腹を引っ込めたいだけだ。
しかし、ザバスは言う。
それこそが、お前の理想の筋肉なのではないか、と。
無自覚なだけで、引っ込んだ腹の内部には、お前の求める筋肉が潜んでいるのではないか、と。
そこを目指せ。
それを助けるのが、俺の役割だ――
頼もしいことこの上ない。
チョコ味のザバスを買い物カゴに突っ込み、レジへ向かった。

スプーン4杯分のザバスを、250mlの牛乳に溶かし、飲む。
子供の頃によく飲んだMILO(ミロ)みたいだな、と思った。
ザバスのチョコ味+牛乳、ニアイコール、ミロ。
プロテインが、40年の蓄積と結びついた瞬間である。
つまり、経験から結果が想像できる。
これならイケる。
継続的にプロテインを飲み続けられる。
そうやって私は、想定外の変化に抗い続けるのである。

そもそも、ジムへの入会自体が未経験の出来事で、通い始めるにも相応の葛藤があったのだが、それはまた別の話。

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