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【MBA - 論文要約】スタートアップ・支援機関は東京23区のどこに集まってる?

要約している論文

東京23区におけるスタートアップ・エコシステム集積の研究
2変量ローカルモラン統計量を用いた共集積の分析

穴井 宏和, 柴崎 亮介

研究概要

この研究は、東京23区におけるスタートアップ企業とそのエコシステム(スタートアップを支援する機関やコミュニティ)の集積状況を分析したものです。スタートアップとは、革新的な技術やアイデアで急成長を目指す企業のこと。エコシステムとは、スタートアップの成長を促す支援者コミュニティ(投資家、大学、アクセラレータなど)のことです。

結論

分析の結果、スタートアップは都心部に集積している一方、支援機関は都心部だけでなく、様々な場所に分散していることがわかりました。そのため、スタートアップと支援機関が共存するエコシステムは、必ずしもスタートアップの集積地と一致しないことが明らかになりました。

研究方法

この研究では、スタートアップと支援機関の集積状況を分析するために、「2変量ローカルモラン統計量」という空間統計手法を用いています。

各章の要約

1. はじめに

(1) 研究の背景

  • 「Society 5.0」の実現には、スタートアップの育成が重要となっています。

  • スタートアップとは、株式による資金調達と破壊的なイノベーションによって指数関数的に成長する企業のこと。

  • スタートアップの成長は、雇用と経済成長を促します。

  • スタートアップのエコシステムは、スタートアップ企業とそれを支援するコミュニティで構成されています。

  • エコシステムの中で成功事例が生まれると、起業に挑戦する人が増えます。

  • 優れたエコシステムでは、スタートアップは様々なリソースを活用できます。

  • 近年、都市レベルでのエコシステムの競争がグローバル化しています。

  • 日本の都市は、ユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)の創出数が少なく、エコシステムの構築でも世界に後れを取っています。

(2) 研究の目的

  • 東京23区の町丁目単位でのスタートアップ、支援拠点、エコシステムの空間的な集積パターンを可視化すること。

2. 先行研究と本研究のオリジナリティ

  • スタートアップの集積に関する研究は、主に立地パターンとスタートアップ都市のグローバル化に関するものがあります。

  • 本研究のオリジナリティは、

    • 最新のスタートアップのマイクロクラスター集積状況を明らかにする。

    • エコシステム・クラスターを可視化する。

    • 共集積の分析を通してエコシステムが脆弱なマイクロクラスターを抽出する。

    • ビル単位でのエコシステムの集積を明らかにする。

3. 研究の方法

(1) 対象地域

  • 東京23区

(2) 使用データ

  • for Startups, Inc. STARTUP DBを利用。

  • スタートアップ企業のリスト、資金調達情報、投資家情報などを含む。

  • 2019年7月末時点のデータを使用。

(3) エコシステム評価の考え方

  • スタートアップとその支援者コミュニティの地理的距離や集積度が重要。

  • グローバルモランI統計量、ローカルモランI統計量を用いて、エコシステムを構成するスタートアップ及び支援コミュニティの集積状況を分析。

(4) 分析方法

  • ローカルモランI統計量を用いて分析。

(5) グローバルモラン統計量、ローカルモラン統計量

  • グローバルモランI統計量で、東京23区全体でのスタートアップの集積状況を分析。

  • ローカルモランI統計量で、町丁目単位でのスタートアップの集積状況を分析。

  • 拡張2変量ローカルモラン統計量で、スタートアップと支援機関の共集積を分析。

2変量ローカルモラン統計量とは?

東京23区におけるスタートアップ・エコシステム集積の研究を読み解く前に、まず 2変量ローカルモラン統計量 について理解を深めましょう。

これは、ある地域とその周辺地域における、2つの変数の相関関係を測定する空間統計手法です。 例えば、今回の研究では「スタートアップの集積」と「支援機関の集積」という2つの変数を分析しています。

2変量ローカルモラン統計量を用いることで、

  • スタートアップが多い地域では支援機関も多いのか?

  • それとも、スタートアップが多い地域では支援機関は少ないのか?

といった関係性を明らかにすることができます。

イメージとしては、地図上に「スタートアップ」と「支援機関」の分布をそれぞれ色分けして表示し、その色の重なり具合を分析するような感じです。

この手法を用いることで、スタートアップと支援機関の共集積、つまり、両者が共に集積している地域を特定することができます。

2変量ローカルモラン統計量の計算方法

2変量ローカルモラン統計量は、以下の式で計算されます。

Ixy = (xi - x̄) / Sx  *  Σj wij (yj - ȳ) / Sy
  • xi:地域iにおける変数xの値

  • x̄:変数xの平均値

  • Sx:変数xの標準偏差

  • yj:地域jにおける変数yの値

  • ȳ:変数yの平均値

  • Sy:変数yの標準偏差

  • wij:地域iと地域jの空間的な近接性を表す重み

この式は、一見複雑に見えますが、要するに「地域iの変数xの値が平均からどれだけ離れているか」と「地域iの周辺地域における変数yの値が平均からどれだけ離れているか」の積を計算しているだけです。

この値が正であれば、地域iとその周辺地域で変数xと変数yが共に高い値を示す、つまり共集積していることを意味します。逆に、この値が負であれば、地域iとその周辺地域で変数xと変数yが逆の傾向を示すことを意味します。

2変量ローカルモラン統計量のメリット

2変量ローカルモラン統計量を用いることで、

  • 2つの変数の空間的な相関関係を分析できる

  • 共集積している地域を特定できる

  • 空間的な不均一性を考慮した分析ができる

といったメリットがあります。


4. 結果と考察

(1) エコシステムの集積地とその傾向

  • スタートアップは都心部に集積している。

  • 支援拠点は都心部だけでなく、様々な場所に分散している。

  • エコシステムは、スタートアップの集積地と必ずしも一致しない。

(2) 高集積エリアの特徴分析

  • スタートアップは、渋谷区、港区、新宿区に集中している。

  • 支援拠点は、港区、千代田区、渋谷区に集中している。

  • スタートアップの集積が多いビルは、築10年以上、延床面積10万㎡以上の大型ビルが多い。

(3) 産業別での分布特性

  • 消費者向けセクターは、都心の西側エリアに集中している。

  • 法人向けセクターは、消費者向けセクターと立地が類似している。

  • Fintechは、渋谷・六本木以外にも丸の内・大手町に集積が見られる。

(4) 課題抽出

  • 支援コミュニティがランダムに立地していて、エコシステムの集積効果が弱められている可能性がある。

  • スタートアップが集積しているにも関わらず支援拠点から距離がある飛び地になったエリアがある。

5. まとめ

  • 広域、小地域、ビル単位の3つの空間スケールで集積状況を分析。

  • 集積パターン分析から2つの地域課題が明らかになった。

6. 今後の課題

  • 集積要因の特定

  • 小地域内におけるスタートアップと支援コミュニティのネットワーク分析

  • COVID-19問題のエコシステムへの影響

示唆されること

  • スタートアップのエコシステムは、スタートアップの成長を促進するために重要です。

  • スタートアップのエコシステムを強化するためには、スタートアップと支援機関の共集積を促進することが重要です。

  • スタートアップの集積地だけでなく、支援機関の立地状況も考慮した政策が必要となります。

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