【MBA - 海外論文要約】株主が気を取られていると、経営者の私的利益最大化に繋がる?
論文タイトル: Distracted Shareholders and Corporate Actions
著者: Elisabeth Kempf Alberto Manconi Oliver G. Spalt
出版年: 2016年
要約
この論文は、機関投資家の注意散漫が企業の意思決定に影響を与えるという「注意散漫な株主仮説」を検証しています。機関投資家がポートフォリオの他の部分に気を取られている場合、企業の経営者は、買収、役員報酬、配当、CEOの解任、株式のリターンなど、さまざまな行動において、私的な利益を最大化する行動をとる可能性が高くなります。
結論
この論文の主な結論は、機関投資家の注意散漫は、企業の経営者が価値破壊的な買収を行う可能性を高め、CEOに有利なストックオプションを付与する可能性を高め、配当を削減する可能性を高め、業績不振の場合にCEOを解任する可能性を低め、株式のリターンを低下させるということです。これらの結果は、限られた注意力を持つ機関投資家が、企業の監視に影響を与える可能性があることを示唆しています。
研究方法
この論文では、機関投資家がポートフォリオの他の部分に気を取られている時期を特定することにより、株主の注意散漫のプロキシを構築しています。具体的には、1980年から2010年までの期間の米国企業のデータを使用して、買収、役員報酬、配当、CEOの解任、株式のリターンなどのさまざまな企業行動に対する株主の注意散漫の影響を調べています。
本文
1. 緒論
現代企業において、機関投資家は重要な役割を担っています。彼らは、企業の株式を大量に保有し、議決権を行使することで、企業の経営に影響力を持つことができます。しかし、機関投資家は、同時に複数の企業に投資しているため、個々の企業に十分な注意を払えない可能性があります。
この論文は、機関投資家の注意散漫が企業の意思決定に影響を与えるという「注意散漫な株主仮説」を検証しています。機関投資家がポートフォリオの他の部分に気を取られている場合、企業の経営者は、買収、役員報酬、配当、CEOの解任、株式のリターンなど、さまざまな行動において、私的な利益を最大化する行動をとる可能性が高くなります。
この論文の主な結論は、機関投資家の注意散漫は、企業の経営者が価値破壊的な買収を行う可能性を高め、CEOに有利なストックオプションを付与する可能性を高め、配当を削減する可能性を高め、業績不振の場合にCEOを解任する可能性を低め、株式のリターンを低下させるということです。これらの結果は、限られた注意力を持つ機関投資家が、企業の監視に影響を与える可能性があることを示唆しています。
2. 理論的枠組みと先行研究
この論文では、プリンシパル・エージェント理論に基づいて、株主の注意散漫が企業行動に与える影響を分析しています。プリンシパル・エージェント理論とは、株主(プリンシパル)と経営者(エージェント)の間の情報非対称性により、経営者が株主の利益に反する行動をとる可能性があるという理論です。
情報非対称性とは、株主と経営者の間で、企業に関する情報に差があることを意味します。経営者は、株主よりも多くの情報を持っているため、株主の利益に反する行動をとり、私的な利益を追求する可能性があります。
この論文では、機関投資家の注意散漫が、株主と経営者の間の情報非対称性を高め、経営者が私的な利益を追求する可能性を高めると主張しています。機関投資家が注意散漫になっている場合、経営者は、株主の監視が弱まっていることを認識し、私的な利益を追求する行動をとる可能性が高くなります。
先行研究では、機関投資家の保有比率が高い企業ほど、企業価値が高くなる傾向があることが示されています。これは、機関投資家が、企業の監視を強化し、経営者の私的な利益の追求を抑制するためです。しかし、機関投資家が注意散漫になっている場合、この監視機能が弱まり、経営者は私的な利益を追求する可能性が高くなります。
3. データとサンプル
この論文では、1980年から2010年までの期間の米国企業のデータを使用して、買収、役員報酬、配当、CEOの解任、株式のリターンなどのさまざまな企業行動に対する株主の注意散漫の影響を調べています。
具体的には、この論文では、Compustat、CRSP、Execucomp、IRRC、Thomson Financialなどのデータベースから収集したデータを使用しています。これらのデータベースには、企業の財務データ、株式リターンデータ、役員報酬データ、議決権行使データなどが含まれています。
分析対象となるサンプルは、これらのデータベースから抽出された、米国の上場企業です。ただし、金融機関や公益事業会社は、規制や会計処理が異なるため、分析対象から除外されています。
4. 注意散漫の測定:DDI指標の詳細
この論文では、機関投資家がポートフォリオの他の部分に気を取られている時期を特定することにより、株主の注意散漫のプロキシを構築しています。具体的には、機関投資家が保有する他の企業の株式のリターンが極端に高いまたは低い場合、その機関投資家は注意散漫になっていると定義しています。
この論文では、機関投資家の注意散漫を測定するために、「注意散漫指標(Distraction Dispersion Index)」という新しい指標を開発しています。DDIは、機関投資家が保有する他の企業の株式のリターンの標準偏差に基づいて計算されます。DDIが高いほど、機関投資家の注意散漫が高いことを示しています。
DDI(Distraction Dispersion Index)の計算方法:
各機関投資家のポートフォリオ内の企業の超過リターンを計算する: 各機関投資家について、ポートフォリオに含まれるすべての企業の株式リターンを計算し、市場全体の平均リターンを差し引きます。これにより、各企業の「超過リターン」が得られます。
超過リターンの標準偏差を計算する: 各企業の超過リターンの標準偏差を計算します。標準偏差は、データのばらつき具合を示す指標であり、標準偏差が大きいほど、超過リターンの変動が大きいことを意味します。
ポートフォリオ全体の標準偏差を計算する: 各企業の超過リターンの標準偏差を平均することで、機関投資家のポートフォリオ全体の標準偏差を計算します。
DDIを算出する: ポートフォリオ全体の標準偏差を、市場全体の株式リターンの標準偏差で割ることで、DDIが算出されます。
この計算式により、DDIは、機関投資家が保有する他の企業の株式リターンの変動性が、市場全体の株式リターンの変動性と比較して、どの程度大きいかを示す指標となります。DDIが高いほど、機関投資家の注意散漫が高いことを示しています。
5. 主要な結果
この論文では、株主の注意散漫が、企業の経営者が価値破壊的な買収を行う可能性を高め、CEOに有利なストックオプションを付与する可能性を高め、配当を削減する可能性を高め、業績不振の場合にCEOを解任する可能性を低め、株式のリターンを低下させることを示しています。
これらの結果は、DDIを使用して、株主の注意散漫と企業行動の関係を分析することによって得られました。分析の結果、DDIが高い企業ほど、以下の傾向が見られました。
買収: 買収を行う可能性が高く、買収後の業績が悪い。
役員報酬: CEOに有利なストックオプションを付与する可能性が高い。
配当: 配当を削減する可能性が高い。
CEOの解任: 業績不振の場合にCEOを解任する可能性が低い。
株式のリターン: 株式のリターンが低い。
これらの結果は、DDIが高い、つまり機関投資家の注意散漫が高い企業ほど、経営者は株主の監視の目が緩んでいると判断し、自己利益を追求する行動をとる可能性が高くなることを示唆しています。
6. 企業行動への影響:メカニズムの考察
DDIが高い企業で、なぜ上記のような行動が見られるのか、そのメカニズムについて考察してみましょう。
情報非対称性の増大: 機関投資家が注意散漫になっている場合、企業の情報収集や分析がおろそかになり、経営者と株主の間の情報非対称性が増大します。経営者は、この情報格差を利用して、自己に有利な行動をとりやすくなります。
監視の低下: 注意散漫な機関投資家は、経営者の行動を十分に監視することができません。そのため、経営者は、株主の利益に反する行動をとっても、見逃される可能性が高くなります。
議決権行使への影響: 機関投資家は、株主総会で議決権を行使することで、企業の経営に影響を与えることができます。しかし、注意散漫な機関投資家は、議決権行使に消極的になる可能性があります。その結果、経営者に有利な議案が可決されやすくなる可能性があります。
7. 結論
この論文は、機関投資家の注意散漫が企業の意思決定に影響を与えるという「注意散漫な株主仮説」を検証しています。機関投資家がポートフォリオの他の部分に気を取られている場合、企業の経営者は、買収、役員報酬、配当、CEOの解任、株式のリターンなど、さまざまな行動において、私的な利益を最大化する行動をとる可能性が高くなります。
この論文の主な結論は、機関投資家の注意散漫は、企業の経営者が価値破壊的な買収を行う可能性を高め、CEOに有利なストックオプションを付与する可能性を高め、配当を削減する可能性を高め、業績不振の場合にCEOを解任する可能性を低め、株式のリターンを低下させるということです。これらの結果は、限られた注意力を持つ機関投資家が、企業の監視に影響を与える可能性があることを示唆しています。
8. ロバストネスチェック
この論文では、主要な結果のロバストネス(頑健性)を確認するために、さまざまな追加分析を行っています。
代替的なDDIの測定: DDIを計算する際に、異なる期間や異なる市場指数を使用した場合でも、主要な結果は変わりませんでした。
内生性の問題への対処: 企業の業績が悪化しているため、機関投資家が注意散漫になっている可能性があります。この内生性の問題に対処するために、企業の業績などのコントロール変数を追加した場合でも、主要な結果は変わりませんでした。
他の要因の影響: 機関投資家の種類や保有比率などの他の要因が、企業行動に影響を与える可能性があります。これらの要因を考慮した場合でも、主要な結果は変わりませんでした。
これらの追加分析の結果は、主要な結果がロバストであることを示唆しています。
9. 考察と今後の研究
この論文は、機関投資家の注意散漫が企業の意思決定に影響を与える可能性があることを示唆しています。この結果は、企業のガバナンスにとって重要な意味を持ちます。
企業の経営者は、機関投資家の注意散漫を考慮して、私的な利益を追求するのではなく、株主価値の最大化を重視する必要があります。また、機関投資家は、注意散漫にならないように、投資先の企業を適切に監視する必要があります。
今後の研究では、機関投資家の注意散漫が企業の業績に与える長期的な影響について分析することが期待されます。また、機関投資家の注意散漫を抑制するためのメカニズムについても、さらなる研究が必要です。