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【鞄内紛失防止に】どこに何を入れるか書いてあるバッグを作ってみた
在るはずのものを失くす天才がいる。その天才は私の友人である。小学生の時分から、どこかに出掛けては自転車の鍵を失くし、家の鍵を失くし、財布を失くし、いつも真剣に焦る。
「えっ、どうして!?なんで無いの!?」
洋服のポケットからカバンのポケットまでひっくり返して、それでも見つからない。「どうしよう」と震えるその人に、私は「もう一回、ちゃんと探してみなよ」と助言する。再度持ち物の全てをひっくり返すと、不思議なことに鞄の奥底から失くしたものが出てくるのだった。
いつも、在るはずのものを一度失くす。本人はこの才能を「困ったものだ」と嘆くのだった。
※以下、本記事ではこの天才を「渡来人」と呼ぶことにする。
この天才の小学時代、歴史のテストで名前を書くところに「渡来人」と書いて提出してしまい、テスト返却時に「渡来人さん」と呼ばれたことに由来する。個人的に大好きなエピソードで、本人が忘れても私は決して忘れない。
尚、渡来人は海を渡ったことがない。
○
以上のように困っている渡来人を救うべく、とあるものを作った。
それが、これだ。
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これだ。
よく見えない?
そうか。見えないか、仕方ない。レイヤーごとに外していきましょう。
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これだ。
それでは、じっくりご覧いただこう。
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時間をかけて縫った刺繍は全てポケットの入り口に配され、そのポケットに何を入れるかを示している。「こもの」にはティッシュやハンカチ、日焼け止めなどを、「取扱注意」には財布や通帳などを入れる想定で作った。つまりこれは、どこに何を入れるか予め決められたバッグなのだ。
名付けて
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略して
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完成から数日後、渡来人を含む地元の友人グループで遊ぶ日がきた。この日に「書いてあるバッグ」を渡す約束をしていたので、私の住んでいる関東からバッグをがっしり抱えて東北まで帰省した。遊ぶ日前夜、持ち物を入念に確認して、絶対に忘れないぞ!と気合を入れる。なぜなら、「書いてあるバッグ」によって渡来人の長年の困りごとが解決するかもしれないから。その効果を早く知りたい……
当日、朝。
♪ ピコン
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ホーン、欠席ね。
なるほど。理解理解。
結局、友人グループのその他の人たちと普通に遊んだ。頭の片隅で渡来人に「書かれているバッグ」を早く届けられる方法を考えながら、普通に遊んだ。「ドリアってサイゼリヤ以外で食べたことないかも」とか言いながら、普通に遊んだ。
♪ピコン
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渡来人はかわいそうだが、普通に遊んだ。予約していたビアガーデンで夕食をとり、ちょうどよく腹を満たした。その時点でまだ夜の七時。ここで解散するには惜しい。我々は半年に一度会うという「二倍七夕」関係なのだから、もう少し遊びたい。でも別の飲食店に行くには腹が満たされすぎている。
そうだ、渡来人に差し入れを持っていこう。
良いティッシュとパスタソース、サラダ、お菓子(本人の希望商品)を買って渡来人の家へ向かう。ザッザッザッザッ。
友人「あ、もしもし?そろそろ家着くから外に出といて。地面に置いてくから、私たちが遠ざかったら拾って。絶対に近寄らないで!!!」ブツッ
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かくして、物資は届けられた。めでたし。
○
渡来人には、病み上がりから数日間「書いてあるバッグ」を使ってもらった。私の予想では、「書いてあるバッグ」の指示通りに荷物を入れられるのであれば、「①思いついた時に取り出したいものをスッと取り出せる」「②忘れ物が減る」の効果が得られると考えている。果たしてどうなったのだろうか。
使用開始から3日目にしてレビューが送られてきた。「数日間使ってみてレビューを送って欲しい」と言ってたら早速来た。一週間後くらいにこちらから聞こうかと思っていたのだが、積極的な渡来人でありがたい。
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この気づきは大きい。外野からは「物をなくすなら、入れる場所を決めておけば良くない?」と簡単に分かっても、これまで本人はそう思っていなかったのだ。いや、本人も薄々「入れる場所ちゃんと決めなきゃな〜」と思ったまま過ごしていたけれど、「書いてあるバッグ」によって強制的に実行させられることで、これまで以上にはっきりと認識したと言ったほうが正確かもしれない。
使用開始から一週間経ったくらいに、改めて「書いてあるバッグ」の効果について、いくつか質問をしてみた。
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おおむね予想通りの効果が出ていて安心した。渡来人がバッグの指示に従うタイプなことも分かった。これは今後何かに使えるかもしれない。みなさんもこれだけは覚えて帰ってください。
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あ、本人に相談せずに作った欠陥が出てしまった。半ば押しつける形で実験台にしたのがバレる。
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「シチュエーション別に欲しい」と言うくらい気に入ってもらえるとは思わなかった。これ、そんなに便利なんだ……
バッグインバッグに関しては、個人的にもあった方が良いと思っていた。バッグは外側よりも内側の方が収納多いし、持ち運ぶべきものも多い。むしろ、バッグインバッグの方が「書かれているバッグ」の機能が必要な気さえしてきた。う〜む、作らないと分からないな。
よし、数日前に通り越した渡来人誕生日のプレゼント、まだ用意してないからこれにするか。ちょうど二十六歳になったし。タイミングがベストだ。ジャストと言っても過言ではない。
○
ずっと作りたいと思い続けて寝かせていたものをようやく作れて、渡したいと思っていた人に渡せて、ちゃんと使ってもらえて、良い返事が来た。うれしい。
作ったものを渡したら返事が来る人。
それが渡来人。
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