🔶私の好きな奈良：壷阪寺 清少納言が愛した眼病封じの寺 天竺石仏と雛曼荼羅

このタイトル写真、印象的だと思いませんか？

奈良県高取町にある壷阪寺の八角円堂に祀られているご本尊のお顔を、隣接する礼堂の方から拝ませて頂いたものです。

壷阪寺では、毎年3月初旬～4月中旬にかけて「大雛曼荼羅（だいひなまんだら）」といって、全国から奉納された4000体にも及ぶひな人形が、本尊の十一面千手観音菩薩像をさながら曼荼羅の様に囲むこの行事が開催されています。

写真は2024年3月の様子です。
他のお寺と異なり、壷阪寺の本尊は写真撮影可能となっているので、このアングルでの写真を、他でもご覧になった方もいらっしゃるかも知れません。

壷阪寺は、南に桜の名所・吉野山を控え、北に大和三山奈良盆地を一望におさめる壷阪の山に建ち、西国霊場の第六番札所や清少納言ゆかりの寺としても知られ、全国から参拝者が訪れる名刹です。

壷阪寺の本尊は眼病に霊験あらたかな観音様で、盲目の夫・沢市とその妻・お里の物語である、人形浄瑠璃「壺阪霊験記」によって壷阪寺の名は世に広まり、眼病封じのお寺とも呼ばれています。

また、壷阪寺は仏教発祥の地であるインドとの交流が深いことも特徴で、壷阪寺境内では多くの石仏を含む石彫文化を見ることができます。

天竺（インドを指す）渡来　大釈迦如来石像
「壺阪大仏」とも呼ばれている

本日は、ひな祭り・桜の季節を控えた壷阪寺について紹介させて頂きます。

歴史

寺所蔵の「南法花寺古老伝」によると、703年に元興寺の弁基上人がここで修行中に、愛用の水晶の壺を坂の上の庵に納め、感得した観音像を刻んで祀ったのが始まりと言われています。
境内からは当時の藤原宮の時期の瓦が多数出土しています。

その後、元正天皇の御祈願寺となりました。
平安時代には、京都の清水寺が北法華寺と呼ばれるのに対し当寺は南法華寺と呼ばれる様になります。
847年には長谷寺とともに定額寺（じょうがくじ：朝廷から官寺に準ずる扱いを受けた私寺）に列せられ、平安貴族達の参拝も盛んになりました。

清少納言は「枕草子」194段に「寺は壺坂、笠置、法輪、高野、石山、粉川、志賀」と霊験の寺として、筆頭に挙げています。

現代風に言えば「寺はどこがイイかって言われたら、壺阪がイチオシよ！」っていう感じですね。

1007年には、左大臣藤原道長が吉野参詣の途中、ここで宿泊したという記録も残っています。

往時は36堂60余坊もの堂舎がありましたが、1096年に火災でほとんどの伽藍が焼失しました。その後、子島寺の真興（しんぎょう）上人が復興にあたり、真言宗子島法流（壷坂法流）の一大道場となりました。

その後も火災や戦乱に遭い、寺を庇護していた越智氏の滅亡と共に衰退し、室町時代の礼堂と三重塔を残して伽藍を失いましたが、郡山城主だった豊臣秀長の家臣・高取城主本多俊政が復興に尽力し、江戸時代から明治の廃藩置県まで高取藩主をつとめた植村氏の庇護を受けて寺勢が復活していきました。

眼病封じの寺

白鳳時代、元正天皇は壷阪寺に参詣し、眼病の治癒を祈ったと伝えられています。この頃から眼病に霊験のある壷阪観音として多くの人の信仰を集めてきました。桓武天皇、一条天皇の眼病も平癒されたと伝わります。

現在の本尊・十一面千手観音菩薩座像は、室町時代に樫材の寄せ木造りで造られものとされています。蓮華座上にどっしりと座り、目をはっきり開いたふくよかな顔立ちの十一面千手観音様は、一つ一つに目があるといわれる四十二手の腕を持ち、眼病に霊験あらたかな観音様として親しまれています。

本尊の十一面千手観音菩薩座像

明治の初めになって、江戸時代のお話である「壺阪霊験記」が義太夫や浪曲に取り組まれ、歌舞伎や人形の舞台で演じられる様になり、壷阪寺は眼病封じのお寺としての広く知られる様になりました。

そのあらすじは以下の通りです。

盲目の沢市と妻お里は、壷阪寺の近くに住んでいました。ある日、毎晩のように外出するお里を、沢市は不貞を働いているのではと疑い、激しく問い詰めました。するとお里は、沢市の眼が治るように毎晩壷阪の観音様に祈願しており、その日が満願の夜であると話しました。

思いがけない事情に驚き、自分の疑心を恥じた沢市とお里は一緒に夜参りに出かけましたが、途中でお里は数珠を取りに帰りました。その間に、お里に苦労をかける自分の目が憎くなり、思いあまって谷底に身を投げてしまいます。それを知ったお里も夫の後を追いましたが、しばらくして沢市が気づくと、患っていた目が治り、お里の顔がくっきりと見えたということです。

礼堂の近く、谷を見下ろすところに、お里・沢市の像があります。

壷阪寺は眼病に霊験があることから、1961年に日本ではじめての養護盲老人ホームが建てられており、国の内外で福祉事業を展開しています。

境内 インドとの関わりと石造物

壷阪寺の境内は山の斜面に存在しています。
それぞれの伽藍や仏像の位置関係は、寺のホームページの写真を見て頂ければ一目瞭然なので、リンクを貼っておきます。

壷阪寺について | 壷阪寺（南法華寺）- 西国三十三所第六番札所

本堂は、本尊がまつられている八角円堂です。日本で初めて建立された八角堂ではないかという学説もありますが、現在の建物は江戸時代の再建です。

壷阪寺の建造物で重要文化財に指定されているのは、礼堂と三重の塔です。

重要文化財指定の、礼堂（左奥）と三重塔

礼堂は室町時代中期以前に再建されたで、江戸時代に大改築されていましたが、昭和の大修理の際に室町時代当時の礼堂に復元されました。入母屋造、本瓦葺です。

三重塔は室町時代に再建されたものです。
落ち着いた色調で、新しい建築物の多い壷阪寺の中では、ひときわ歴史の重みを感じさせる建物です。

境内で特徴的なのは、大きな石造物が目立つことです。

天竺渡来 大観音石像

壷阪寺は、1964年からインドでのハンセン病患者救済活動に協力、尽力しました。その返礼として、インド政府から古石が提供されたのですが、これを使用して作られたものとして「天竺渡来 大釈迦如来石像（壺阪大仏）」「天竺渡来 佛伝図レリーフ」「天竺渡来 大石堂」「天竺渡来 大観音石像」「天竺渡来 大涅槃石像」などがあります。

天竺渡来 大涅槃石像
入滅する釈迦の姿を表している

大釈迦如来石像（壺阪大仏）は、身丈10ｍ、台座5ｍ。
佛伝図レリーフ「釈迦一代記」は、高さ3ｍ、全長50ｍ、重さ300トン。
大石堂（納骨永代供養堂）は、総重量1,500トン。
大観音石像は、高さ約20m、総重量1,200トン。
大涅槃石像は、高さ3ｍ、全長50ｍ、重さ300トン。

多くは、インドで10万人以上の石工によって加工され、日本で組み立てられたものです。

天竺渡来　佛伝図レリーフ「釈迦一代記」

壷阪寺はインド国内各地において、現地の学校運営助成事業、奨学金事業等の教育支援、地域開発支援など様々な国際交流を展開しています。
他の寺院ではあまり馴染みのない境内の石彫文化がみられるのは、このような交流によるものです。

大雛曼荼羅公開と、高取城下 町家のひな祭り

冒頭でご紹介した大雛曼荼羅ですが、礼堂には21段のひな段が三方に設けられ、多彩な雛人形が所狭しと飾られています。

礼堂に設けられた21段のひな壇

中には、ユニークな人形が混ざっていたりします。
こういうのを見つけるのも楽しみの一つですね。

筋トレをしている人形も！

礼堂だけでなく、大講堂にも多くの雛人形が飾られています。
大講堂の本尊である弘法太子像の前に並んだ雛段、壮観ですね。

大講堂の雛段　

2007年、高取町では、ひな祭りの時期に町おこしの一環として「町家の雛（ひな）めぐり」が始められました。土佐街道沿いには江戸から明治時代の町家も多く、住民らの協力で店先や玄関に雛人形を飾るイベントを開催し、昨年2024年で18回を数えました。

当初８千人ほどだった来場者は、最盛期は５万人近くに増え、この時期の春の風物詩として親しまれてきましたが、主催する住民メンバーの高齢化にて、昨年でいったん終了となりました。

この時期のイベントとして定着していただけに、継続を望む声が多かったのですが、嬉しいことに、今年も新しい企画「第１回 高取城下 町家のひな祭り」として開催されることになりました！

第1回 高取城下 町家のひな祭り - 高取町観光ガイド

期間は、今月2月23日から3月16日まで、会場は、日本三大山城に数えられる高取城跡の城下町、奈良県高取町の土佐街道沿いです。
みなさんも是非訪れてみて下さい。

桜の名所　壷阪寺

壷阪寺は、四季折々の景色を楽しむことができることでも人気です。
春は桜、夏の前は新緑や紫陽花、秋は紅葉、冬は雪景色と、季節ごとに素晴らしい景観を楽しむことができます。

もうすぐ桜の季節ですね。
寺のYouTube公式チャンネルが桜満開の動画をあげていますので、貼らせて頂きます。

魅力いっぱいの壷阪寺、今から特に雛祭りと桜の季節を迎えますので、お参りを考えておられる方には絶好の時期だと思います。

スマホやPCで目を酷使することが多い現代人にとっても、眼病封じのこの壺阪寺は、ご利益の多いお寺になるのではないかと思います。
まだの方は、一度ご参詣をお勧めいたします。