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①そこには探究学習の「答え」がある?ーHigh Tech Highの示す未来の学びのカタチ1

2025年2月16日〜2月19日にかけて、アメリカのサンディエゴにあるHigh Tech High(以下、HTH)という学校に行ってきました。一言で言うと、「世界でこの一カ所でしかできない、深い学びの経験」になったので、教育に興味のある方にぜひ参考にいただけたらと思ってnote投稿します。海外の教育に興味がある方、探究の学び、PBL(Project Based Learning)に興味のある方に1人でも届けばいいなあと思います。

HTHに行ってきました


◾️ざくっと10秒まとめ

・HTHは世界的に有名なPBLばっかりやる学校
・探究学習をどう進めたらいいかわからない!という人全員に価値ある学びに溢れていた

では、本編へ行きます。


◾️High Tech Highってどんな学校?

HTHは、2000年にアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴに設立された、チャータースクールです。現在は日本でいう幼稚園〜高校、そして大学院があります。

【ちょっと前置き:アメリカの義務教育】

アメリカの教育制度は、州による違いもありますが、カリフォルニア州では7〜18歳が義務教育期間となり、

小学校 5年間
中学校 3年間
高校  4年間

の計12年間(K-12と呼びます)を経て、大学等に進んでいきます。日本と違ってこの12年間の位置付けはグレード1からグレード12と呼ばれ、例えば高校1年生ならグレード9、といった呼ばれ方をします。
ちなみにグレード9を「フレッシュマン」、10を「ソフォモア」、11を「ジュニア」、12を「シニア」と呼びます。アメリカの高3はジュニアと呼ばれるんですね、ややこしい。

6th Grade(中学1年生)のクラス


【ちょっと前置き:チャータースクールって?】

アメリカの学校は公立と私立に分かれるのですが、チャータースクールは公立学校で、授業料は無料です。1番の特徴は、企業など民間が建てている点で、従来の公立学校の制約にとらわれず、自由で先進的な教育を届けられる点に強みがあります。

そんなHTHですが、開校時から一貫して、PBLを学校のカリキュラムの主軸に据えています。近年「探究的な学び」にスポットが当たるようになってきた日本からみると、探究を長年研究してトライ&エラーを25年続けてきている大先輩の学校、といったイメージでしょうか。

【探究的な学びとPBLの違い】
ちなみに、ごちゃごちゃになりやすい探究とPBLの違いを整理しておきますと、人によって様々定義の違いはあるのですが、

・探究的な学び
「問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく一連の学習活動」というのが文部科学省の定義です。

・PBL
文部科学省は、PBL(Project Based Learning)を「課題解決型学習」または「問題解決型学習」と定義しています。これは、生徒が自ら課題を発見し、解決に向けて主体的に取り組む学習方法を指しているのですが、実際のところ、PBLはより「つくる」にフォーカスが当てられ、課題/問題解決型学習は「解決する」に力点が置かれている点に微妙な違いがあります。

こういった一連の活動をすべてひっくるめて、探究と呼んでいる、つまりPBLは探究の主要な形式のひとつだよ、ということですね。

HTHは、幼稚園や小学校からPBLを行っています。
本気です。


話を戻します。

そんなHTHにはなんと、世界中から、年間で10,000人の教育視察者が訪れます。年間で1日も休まず毎日20人受け入れても7,000人ちょっとですからね。いかに世界的に注目を集めている学校かが分かります。

2015年には、HTHの活動が「Most Likely To Succeed」というタイトルでドキュメンタリー映画化されました。教育関係の方ならご覧になったことがある人もいるかもですが、Vimeoで500円くらいでレンタルしてスマホとかで見えるので、ぜひ見てみてください。


現在では、HTHの取り組みを世界各地で取り入れていくことができるように、世界各地でカンファレンスも実施しています。日本では2024年に「Deeper Learning Japan」として実施されました。今後再開催も予定しているようです。



そんなHTHですが、いわゆる「普通の学校」と違う点があまりに多いんです。今回はこの紹介をしたいと思います。

①入学資格が「抽選」で決まる
HTHの入学者は、入試ではなく「郵便番号ごとに割り振られた定員の中から、抽選で合格者が決まる」という形式を取っています。これは、HTHが、経済・地域・人種など含め、不公平が起きないようにするための工夫です。


②1日の授業は、ほとんどがPBLで構成されている

各学年の先生は、文理でタッグを組んで、半年で1つの科目横断型のプロジェクトを作ります。プロジェクトは使いまわしせず、毎年オリジナルの内容になります。
そのため、例えば高校の授業は、「Science」「Humanity」のようにざっくりと授業名の記載があるのですが、Humanityは国語・外国語・社会などをミックスした授業になっています。

ざっくりすぎる時間割(こちらは中3のもの)

このPBLの特徴については重要なポイントが多すぎるので、次回以降のnoteで詳しく書こうと思います。

③先生の任期が1年である
HTHの先生は、基本的に1年が任期で、1年更新となっています。給与も他の学校より低く、決して安定的な環境とは言えません。その代わり、先生には「自由に自分のカリキュラムを組む権利」と、組んだカリキュラムに対するAccountability(説明責任)を持つことになります。教育への強い思いが求められる採用、役割のあり方ですね。

研修を担当してくれたジョン先生は
HTH歴22年の大ベテラン


④校舎内が博物館みたいになっている

HTHは元軍事施設の跡地を買い取って校舎を使っているのですが、校内は至る所に生徒の作った作品が展示されています。
毎年たくさんのアウトプットが出てくるHTHでは、頻繁にこの展示の入れ替えを行っているのですが、「きれいなものだけを飾るのではなく、様々な出来のものを飾る」ことを大切にしているのだそうです。

3rd Grade(9歳)の展示。
アート+レシピ本も作成していました


7th Grade(13歳)の展示。
選んだテーマをレーザープリンターで制作


高校生クラスは、キャンプ設備を制作していました


なんとこちら、Biology(生物)の教室です


⑤決まった教科書・テストがない

あらゆる授業がPBLで進んでいくので、基本授業は先生のつくったレジュメで進んでいきます。定期考査もありません。宿題も「次回までにこの教材をやってね」みたいなことではなく、プロジェクトの進捗を順調に進められるように、必要に応じて家の時間も活用してください、というスタイル。
では、どうやって生徒を評価しているのか?こちらも次回以降のnoteで取り扱いたいと思います。

「どうやったらDNAを光らせられるか」の授業。
レジュメで進みます

⑥決まった時間割がない、チャイムが鳴らない
同様に、プロジェクトごとに時間の使い方も自由度が高いため、HTHではチャイムがありません。服装も自由で、私が視察に行ったときは鼻にピアスを付けている子が校舎をイキイキと案内してくれたり、肌の色、人種も多様です。学校全体で、「この規範に基づいて同じ行動をしている」と思うことは一度もありませんでした。

その代わり?校舎の様々な場所に、HTHの価値観が隠れています


⑦教師研修がめちゃくちゃ多い(特に小中)。高校も月1回ペース
新しくHTHに来る先生は、PBL初心者の方もたくさん。奥深いPBLの世界をマスターしてもらうために、HTH、特に小中は毎週のように教師研修が行われています。中でも、「プロジェクトチューニング」が非常に興味深かったです。こちらも、次回以降のnoteで扱います。

「自分に大きな影響を与えた学び」を書き出すワークをしています


高校3年生で1ヶ月、自分でアポを取ってインターンをする
最後に、これはHTHだけでなくアメリカの多くの高校で行われていることなのですが、HTHの高校生は高3(卒業は高4)時に、自ら自分の興味のある領域の企業などにアポ取りをして、1ヶ月間現地でインターンシップを行います(インターンが行われる11年生の5月頃は、授業がない期間になります)。これは進路選択の解像度を上げることも勿論目的ですが、大学進学の武器として強い力を持っています。
アメリカの大学入試は、SATと呼ばれる共通テストがあるのですが、それを使わずとも行くことのできる大学も多くあります。その際に威力を発揮するのが、エッセイ、学校からの推薦状、そしてこの「インターン先からの推薦状」になります。
(現地で会った生徒の中には、インターンの経験を活かしてスタンフォード大に合格している人もいました。)

映画にもにも出てくる、高校生のPBL作品が会議室に飾られています

⑨大学進学率が、州平均より30ポイント以上も高い
こんな変わったことだらけの学校ながら、HTHの大学進学率は州平均を大きく上回る、脅威の98%。上位校の合格実績も持っています。そのうえで、自分の興味関心に基づいて偏差値にとらわれない進学先選びをしている学生も。
非認知領域の学びに力を入れているのも特徴で、日常的にまったくバックグラウンドの異なる仲間、様々な大人、地域などと関わりコミュニケーションを求められる環境で、いわゆるどんな社会の変化にも対応していける「ソフトスキル」を育んでいることも特筆すべき点です。インタビューした生徒たちは口を揃えて、「プレゼンテーション能力」「コミュニケーション能力」がHTHで最も成長した、と話してくれました。


校内を案内するのも学生。
大人慣れがすごい


こうしてみると、HTHは完全無欠の「理想の学校」に聞こえるかもしれません。しかしながら、私が現地で感じたのは、「手探りで始めたPBLが、25年の長い月日をかけて少しずつ少しずつ、洗練されていく過程と、その苦労」でした。

次回は、HTHの学校として一番大切にしている考え方について、詳しく書いていきます。

長文でしたが、読んでくださってありがとうございました!


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